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 幸一は激しく呼吸を繰り返した。

 幸一がゼィゼィと呼吸を繰り返す音と、ズルズルという得体の知れない音が、暗闇に溶け込む。

 幸一は恐怖の虜になっていた。

 ただ、音が聞こえているだけだというのに、その音の正体が分からないというだけで、こんなにも恐ろしいものか。

(にっ、逃げよう! この部屋から逃げよう!)

 幸一は一歩動く。

 そして、足下にある何かに躓き、豪快に転んだ。

「痛いっ!」

 一体何に躓いたのか?

 幸一は、何から何まで自分に起こっている状況が分からなかった。

「たっ、助けて……」

 自分以外には、気絶しているまゆみしかいないというのに幸一は、そう呟いた。

「誰かっ、誰かっ……」





 キリキリキリキリキリーッ……


 幸一の耳元で、その音は鳴る。

 幸一は恐ろし過ぎて、もう悲鳴も出せない。

 暗闇の中で、恐怖に包まれた部屋の中で、幸一は、ふと、自分と誰かとの、ある日の会話を思い出す。









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