第74話 神と精霊神の加護

「なんだか猫の悲鳴が聞こえた気がした」


「はぁ、はぁ、妾は、はぁ、聞こえておらんぞぉ」


リリカは汗まみれになり肩で息をしていた。



蜘蛛を倒した頃でダンジョンに入って五時間を超えているはずだ。いい加減腹も空いて来たし、リリカに合わせて戦うのは辞めにして俺が全力で戦うことにしたのだが。



「はぁ、はぁ、大丈夫じゃ、妾はまだ走れるのじゃ、足でまといにはならん」



既に十四階層。四階層分を一時間掛けずに爆走して攻略したのだが、戦闘に参加していないリリカの方が先に限界を迎えてしまった。



「(完全に足でまといね。フーカなら例え限界でも足が動く限り走るわよ。これだから貴族のお嬢様は)」


「(まぁ、言ってやるな。本気じゃないとはいえそれなりの速度で走ってるからな、かなり頑張って付いて来てると思うぞ? この間伝言に来た上級冒険者ってヤツも付いて来れなかったんだ)」


今は魔物を倒して素材が出たら拾いながらリリカを待ち、すぐに次に行くという感じだ。リリカはほぼ走りっぱなしだが、よく付いて来てるよ。



「少し休憩するか。リリカは座って休んで居ていいぞ。魔物が来たら俺が対処するから。十分休んだらまた行くからな?」


「りょ、了解じゃ。……すまぬ、足を引張ておるな。すぐに回復するゆえ」


リリカは無防備な状態で座り込み、回復にのみ集中していた。俺のことを完全に信用していないと出来ない芸当だな。



「(ルナ、魔物が近付いたら教えてくれよ)」


「(分かってるわ。近くに居たのは倒しているから新たに生まれないならしばらくは大丈夫よ)」


「(なら俺も少し休憩しとくか)」



この調子なら二十一階層だった場合は更に三時間は掛かるだろうな。どうするか。十五階層じゃなかったら一旦家に戻って、いや、屋敷に戻って封印を解いたことを報告するべきか。その後でフーカも連れて十五階層から攻略を再開した方がいいだろうな。リリカに転移の指輪がバレるけど……転移の魔法が使えるってことにしたらどうだろう?



「(転移の魔法が使えるってだけでもかなりのものよ。今のジンの魔力なら入口に戻るぐらいだったらルナも出来るかも知れないけど)」


転移の魔法は苦手らしく魔力を大量に消費してしまうとのことだ。更にリリカを連れてとなると無理だろうとの事だ。



「……ジン殿はどうやってそこまでの力を得たのだ?」


「ん? んー、俺自身はそこまで強くないぞ。武器の性能に頼っている所が大きいし、魔法に頼っているところもあるしな。純粋な剣技ならリリカの方が強いと思うぞ」


俺の強さは力の指輪とフルンティングが主だ。それにルナのアシストがあるからな。



「そんなことはあるまい。武器を扱いこなすだけでもそれはジン殿の強さがあってのことだ。魔法とてそれを習得するのにどれだけの歳月を費やしているのか検討も付かん。ジン殿は本当に人間か? エルフ族で五百年生きていると言われた方がまだ信じられるぞ」  


「ははは、人間だぞ。冒険者になってまだ数日の、な。まぁ結合ダンジョンで鍛えられた気はするな。正直死にかけたし。あとは――ちょっと特殊な加護を頂いているだけだ」



「特殊な? ふむ。ジン殿なら精霊の加護を、いや神の加護を受けていても信じられるぞ」


惜しい、むしろその二つを持っている様なものか。


「精霊の加護や神の加護って特別なのか?」



「知らぬのか? 神の加護はまさしく英雄に授けられる奇跡とも言える加護。かつて人間の英雄が持っていたとされるが、その者は深層迷宮の最下層に降り立ったと言われるほどじゃ。もっとも確かなものじゃなく、おとぎ話に近い話じゃがな。精霊の加護はもう少し一般的じゃ。大精霊様に認められた者が賜ることができたと言う神秘の加護。エルフの中にも数人持っておる者がいるし、他種族にもおるはずじゃ。中には大精霊様と共に歩む者もいると聞くが、妾は見たことがないの」


目の前にいるんだけどな。大精霊どころか、精霊の神的な存在も。



「(ふふん。だからジンは胸を張っていいって言ってるでしょ? ジンは凄いんだからね)」


俺じゃなくてルナが凄いんだろ? 


「(ルナはジンのものって言ってるでしょ。回復魔法だろうと気配探知だろうとジンの力って言っていいのよ。それでジンが称えられる方がルナは嬉しいわ)」



この精霊は随分と健気なことを……。いつかルナを表に出しても納得されるだけの力を付けて、堂々と俺のパートナーだって紹介できるようになってやる。


「(ふふ、待っているわ。それまではルナがいくらでも力になってあげる)」



「ジン殿は精霊に好かれる体質のようじゃな。微かだが精霊の気配を感じる。陰ながらジン殿を守っているのだろう」


まぁ当たっているな。飛びっきりの精霊に好かれているみたいだし。


「そうだな。感謝しないとな。……それじゃそろそろ行くぞ。大丈夫か?」


「無論じゃ! これ以上足を引っ張るわけにいかん。必ず付いて行くから妾のことは気にせず進んでくれ!」



そういうわけにもいかないんだけどな。まぁどっちみち次で終了だし、どうにかなるだろ。

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