第72話 巨大蜘蛛

「(この先の部屋よ。気を付けなさい。女王蟻ぐらい強い気配よ)」


「(寄生種とか言わないだろうな?)リリカ、この先だ。油断するなよ?」


「無論じゃ」


リリカには弓を持たせて援護を任せるつもりだ。残り五本の矢にはルナに魔力を込めさせたから威力も増しているだろう。



壁に身を寄せて部屋の中をこっそりと確認すると、


「蜘蛛だな」


「蜘蛛じゃな」



そう蜘蛛がいた。ただし、自動車並みの、だ。



「帰らないか?」


「何を言う! ここまで来て戦わずして逃げ帰るつもりか!」


いや、小さいならいいけど、こんなデカい蜘蛛を目の前に戦意なんて残ってませんよ? 虫が苦手とかそんな問題じゃない、こんなにデカい虫、普通に気持ち悪いわ!



「リリカ、よく見ろ。お前の腕より太そうな足があんなに生えてしかも毛がウジャウジャしているぞ? しかも斬ったら緑色の血とか出そうじゃね? ここは触らぬ神に祟りなしって賢人の知恵を借りてだな――」


「行くぞ! 妾に続くのじゃ!」



「……あの子援護役なのに突っ込んで行ったわよ。もう私達だけ帰りましょうか?」


ルナもデカい蜘蛛に顔を引きつらせていた。普通ムリだよね? なんのあの子? 勇者?



「ぬおおぉぉぉ! ちっこいのが出てきたのじゃ! ジン殿! ジン殿!!」


リリカは巨大蜘蛛の下から湧き出した小蜘蛛に群がられていた。小さいと言ってもバスケットボールぐらいあるけど。キモッ!



「くそ、ルナ。俺の体を魔力でコーティングできるか?」


「出来るけど、かなり魔力使うわよ?」


「あぁ、頼む。流石にあれが体に纏わり付くのはムリだ」


まさにリリカが今身を持って体験しているが、見ているだけで体がゾワッとする。



「いいから早く助けるのじゃ!! ぬぉ! 変なところに触れるでないわっ!!」


「それに懲りたら今後は慎重に動け! (ルナ、任せるぞ)」


「(了解)」



ルナが俺の首に抱きつき魔力が俺達を覆っていく。これならどうにか我慢できるだろう。


「数が多いな。リリカ動くなよ、十連突き! ってな!」


リリカに纏わり付いていた小蜘蛛を貫通させないように突き刺して行く。



「(ジン後ろ来るわよ!)」


「ッ、リリカ、後は自分でやれ!」


大半を突き刺し、背後に迫る巨大蜘蛛と向き合う。その目が、口が、姿全てが気持ち悪い! 体中で鳥肌が立っているぞ、絶対!



「これと直接対決とか無理だろ! 虚空斬り、弱!」


魔力を弱めて範囲も絞る。それでも的がデカいから当て易い。だけど、体に当たった斬撃から血が溢れる。緑じゃなくて良かったけど、それでも気持ち悪すぎるだろ!!



「虚空、虚空、虚空、虚空、虚空、虚空、虚空、虚空斬りぃ!!!」



ダンジョンに衝撃がいかないように狙いを定め蜘蛛の体に全て当てる。そしてその度に血が噴き出す。


「気持ち悪いンだよッ!!! 虚空連撃!!」


もう狙うのに見るのも嫌だ。とりあえず体の何処かに当たればいいだろっと斬撃を飛ばしまくる。



足が飛び、小蜘蛛が切断され、足が飛び、体が斬れ、小蜘蛛が飛び、足が斬れ、小蜘蛛が斬れ、頭が割れ、足が飛ぶ。




「じ、ジン殿? もう死んでおるぞ?」


「あ? ……終わりか」


蜘蛛は既に倒れ付していた。倒れた後も滅多斬りになりグロいオブジェが出来ていた。



「小蜘蛛もいなくなったな」


「ジン殿が近づく小蜘蛛を焼き払っていたではないか。まるで背中に目があるような正確さだったぞ」


「(仕方ないでしょ?)」


「(そうだな。仕方ない。むしろ助かった。ありがとうな)」



それから少し待ったが巨大蜘蛛は消えずに残っていた。



「なんだ? アイテムも落とさないつもりか? まだ生きているのか」


「それはないじゃろ。ふむ。此奴は地上の魔物じゃろ。ダンジョンから地上に出た魔物は生態が変化するらしいのじゃ。此奴は地上からまたダンジョンに戻っておるのではないじゃろうか?」


……外にあった結界はコイツを閉じ込めておくものだったんじゃないのか?



「なら待ってもなにも出ないだろうな。くそ、無駄足だったな」


ならここにはもう用はないし、さっさと階段に向かおう。


「ふむ。ジン殿に蜘蛛は厳禁だと学ばせてもらったのじゃ」



「――別に通常の大きさならそこまで気にしないんだぞ? でもこれはダメだろ?」


「魔物と思って接すればそこまで気にならんぞ? 纏わり付かれるのは魔物でも勘弁じゃが」


そういうものなのか? 見た目も大切だと思うぞ? そんなことを言い合いながら次の階段を目指し進みだした。

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