第38話 過保護な主人
冒険者ギルドを出て再びフィロの店の前まで戻ってきた。
「この辺りだよな? 一件隣ってことはこの家か? 鍵さしてみるか」
思ったより綺麗な家だ。一階建ての家だがそれなり広そうだ。ただ家と不釣り合いな頑丈そうな鉄の扉が玄関になっているようだ。鍵を入れると抵抗もなくすんなりと開いた。
「少しホコリっぽいけど、十分きれいだな。荷物が散乱しているイメージだったけど、家具が少しあるだけだな」
「私がお掃除しますので、ジン様はルナ様とお出掛けしていて下さいませんか?」
フーカが置いてあった箒を手に取りやる気満々のようだ。
「流石に一人じゃ無理だろ。手分けしてやろう」
「そんな! ジン様にこのようなことをさせては私がいる意味がありません! 私がやります!」
いつも以上に押しが強いフーカにルナがため息を付いていた。
「ジン、ここはフーカに任せましょう。新しい家で生活するんだから入用もあるでしょう? 市場を見て来ましょう」
「そ、そうだな。そうするか」
「買物をされるなら私が荷物持ちを――イタッ!」
箒を置いて付いて来ようとするフーカをチョップする。
「お前は掃除だろうが、俺にはアイテムボックスがあるから問題ない」
人目があるところでは入れられないから持つ必要もあるけど。
「そうでした。それではジン様達がお戻りになるまでに綺麗にしておきますね」
……それなりに時間を掛けた方がいいかな? それとも急いで戻って加勢した方がいいのかな。
「ほら、行くわよ。どうせジンがいても邪魔になるだけよ」
「そこは否定したいが、それじゃフーカ頼むぞ。軽くでいいからな。あまりにも綺麗過ぎると居心地が悪くなるかもしれないからな。頑張りすぎるなよ」
「くどいわよ! フーカに任せなさい! 行くわよ!」
ルナに背中を押されて家を後にした。
ジン様とルナ様が出かけられて私は一人新しいお屋敷にいます。
昨日まで宿暮らしの新人冒険者だったのにもうお屋敷を持つことを許されるジン様は凄いです。でもジン様ならもっと大きな、それこそ貴族様が住まうような大きなお屋敷にだって住めるはずです。だから私ももっと頑張らないといけません。
「よし、やるぞ!」
掃除のやり方は奴隷商で教わっているし、掃除用具もある。一人でするには時間が掛かりそうだけど、頑張らなくちゃ!
「先ずは窓を開けて、って窓が開かない? あれ? 鍵も掛かってないのに、ビクともしない……」
昨日の冒険で自分でも驚くほど強くなったと思っていたのに。やっぱり私はまだまだだったんだ。
「ううん、これからよ。窓が開かないならホコリは拭き取って方が舞わなくていいかな。雑巾はあるし、水は……どこだろう? フィロさんに聞いて来よう」
この辺りは共同の井戸があって、毎朝水を汲みに行くのが奴隷の毎朝のお仕事だって前に聞いたことがあった。
「あれ? ドアが開かない? ジン様鍵閉めたのかな? ……ドアのロックが開かない。え? 外に出れないの! ……えぇぇ!」
「フーカ一人で大丈夫かな?」
「(大丈夫よ。ジンはもっとフーカを信用なさい)」
「あっ! 戸締りしてない! フーカに戸締りするように言っとかないと!」
「(いいから! それくらいフーカがするから! あの子もあれでかなりの強さになってるのよ。襲われたとしても勝てないなら逃げることぐらい出来るわよ)」
「……フーカにも神具持たせた方がいいかな?」
「(ジンが使った方がいいわよ。その内フーカに丁度いい神具が出た時に考えなさい。それと小声で話しなさい。今フーカ居ないんだから独り言って思われるわよ)」
「(……了解)」
「(――ジン、あれって)」
ルナと一緒に市場を回り、必要そうな物を買っているとルナが何かに気付いた。
ルナの視線の先を見ると、そこには奴隷商のドリオラさんが豚と会話している姿があった。
「ぶひ、いい加減観念しろ、悪いようにはせんと言っているぶひ」
訂正しよう、限りなく豚に近いが太りに肥った人間だった者だろう。
「そうおっしゃられても、このリムリは既にお代を受け取っている奴隷でして、売却済みの奴隷を販売するわけには参りません。どうかご容赦を」
丁重に対応しているドリオラさんの後ろには怯えた様子のリムリが震えながら立ち竦んでいた。とりあえず様子見しながら近づいてみる。
「ぶひ、その購入者を教えろと言ってるぶひ」
「そう言われましても。――あ、クジョウ様。お待ちしておりました。ブリッタ様、商談の先約がありますので本日は申し訳ありませんがこの辺りで」
「ぶひ、貴様。我輩じゃなくこの小僧を優先するつもりかぶひ!」
「私は商人です。もっとも尊ぶは商談でして。商談の約束を違えるなど合ってはならぬこと。ブリッタ様もご存知でしょう?」
「ブヒ! もうよい! だがリムリは諦めんぞ! ブヒブヒ!」
豚がドスンドスンと音を立てて去っていく。
「申し訳ありませんな。クジョウ様、視線の先に見えたものでつい」
「別にいいですけどね。リムリが怯えてたし、役に立ったなら良かったです」
頭を下げるリムリをフーカにするように撫でていた。ヤバイ癖になってる。
「ふむ。クジョウ様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「ん? まぁ、フーカに時間潰して来るように言われているからしばらくはいいですけど」
俺の言葉にリムリが撫でている俺の手を掴んできた。
「フーちゃんは大丈夫ですか! 怪我の容態が気になって」
「これ、リムリ。クジョウ様に失礼な真似をするでない」
「いえいえ、気にしないで下さい。フーカはもう大丈夫だぞ。あの時の怪我は完治しているし、昨日は一緒にダンジョンにも潜ったぐらいだ、もう何も心配しなくていい」
「本当ですか! 良かったぁ」
「あの傷を僅か二日で。いや、昨日ダンジョンに行ったのならば、一日か。なるほど、流石はクジョウ様ですな」
リムリは座りこんで安堵していた。ドリオラは俺の評価を更に上げたようだ。ルナの力だけどな。
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