異世界最強【賢者】は現代ファンタジーを無双する!
KAMITHUNI
第1話 最強【賢者】の地球帰還 PART1
ーーウガァァァァァッ!ーー
轟く怒号。
憤怒の雄叫び。
周りの空気が振動し、地面が抉れていく。
「ぐわっ!」
真正面から受けた騎士達は弾き出されるように遥か後方へ飛ばされていく。
鍛えられた膂力でも耐えきることが出来ない最凶の咆哮。
空気が闇に染まっていく。
暗い暗い絶望の世界が顕現し始める。
闇紫の魔力を全身に纏わせた五つのツノを持つ怪物が怒気を含んだ視線で射殺すように倒れ伏す騎士達を一瞥する。
「ち! つまらん……!」
舌打ちをした最強最悪の存在、【魔王】がイラつきを隠そうともせずに数だけ揃えた人族の騎士を睨みつけた。
「ぅぅ……がはっ!」
「足掻くな人間。 どうせ、貴様等程度が何をしようと無駄だ」
最後の力を振り絞って立ち上がろうとした一人の騎士を腹に蹴りを入れ、確実に肋骨と内臓を壊し、動けないようにした【魔王】。
圧倒的な実力差。
魔法など使わずとも騎士達の軍勢を軽く壊滅させる事ができる戦闘能力。
「ぐっ! はぁ、はぁ……」
「なぜだ? 貴様等もそれを理解しておいて尚まだ我に抗おうとする?」
そこだ。 【魔王】はずっとそこに怒りを覚えていた。
無駄な足掻き。
自身の力量を測れない馬鹿が挑んでくることは魔族間でもよくあった。
現【魔王】を倒すことが出来れば自分が【魔王】になれると思った愚かな連中だ。
それでも、【魔王】が負けることはない。
大体そういう奴らは肋骨の一本でも破壊してやれば命乞いをしてくる。
もちろん、許すことなく徹底的に殺すが……
だが、【魔王】からすればそれが当たり前の光景で、力量を弁えたものは自身に付き従い、力量を測り間違えた馬鹿は絶望に顔を染めて死んでいく。
それが【魔王】の『日常』。
誰にも変えがたい事実。
なのに……
「まだだ……! まだ、俺たちは……! グハッ!」
一番先頭にいた騎士団長らしき男が大剣を支えに立ち上がろうとしたところに黒紫の球が目視するのも難しい速さで腹の辺りに突っ込み、騎士団長を遥か後方へと吹き飛ばした。
しかし、それで怖気付いた人間は誰一人としていない。
むしろ、闘気を全開にして自身の得物を手に地面を蹴る。
既に満身創痍の者ですら立ち上がり後方支援の為の《魔法》を発動させる。
前衛に出れないまでも全員で戦う意識を誰一人として捨てなかった。
“ーー理解できない”
どいつも此奴も、目から光が消えない。
残虐非道に死んでいった同志が目に入っているはずなのに、自身を討伐するために全力を尽くす。
そこに一切の迷いがない。
誰一人として目から正気を消そうとしない愚直。
そこに苛立ちが積もる。
“ーーなぜ、ここまで【絶望】に抗おうとするのか?!”
“ーーどうせ【死】が訪れるのなら楽に迎えればいいものを……!”
頭の中にそんな考えが浮かび上がる。
「ーー喰らえっ!」
「ぐっ!?」
いつの間にか接近していた騎士の一人の西洋剣が肩先を掠める。
実戦においての思考は軽く命取りになる事を誰よりも知っているはずの【魔王】が人族の執念について思考するあまりに軽いとはいえ一撃を受ける。
まさに有るまじき光景。
(ば、バカな……!)
ありえない事実。
あってはならない現実。
故に、【魔王】の怒りは頂点へ達した。
「ーーグォォォォオッ!」
「「「っ……!?」」」
【魔王】が叫ぶと同時に大気中にある〈魔力〉が彼を中心に荒々しく渦巻く。
螺旋に渦巻く〈魔力〉は
騎士達はその異様なまでの魔力量と放った本人ですら嫌になるほどの私怨を前に先程の威勢は如何程かマシになった。
中には顔を青ざめて後退しようとする者の姿すら見受けられる。
この時、【魔王】は嗤った。
“ーーやはり、所詮は弱者の人族。 最強である我に怯えない事がおかしかったのだ。 どうせ、チッポケなプライドが支えていた最後の悪足搔きだったということだろう……”
圧倒的な実力差どころか天地をひっくり返すほどの能力を見せてやれば結局は一緒。
三日月に割れた口元が怪しく割れた。
「人間よ、我に逆らった愚かな人間よ! その愚行を称して、貴様らごとこの世界を滅ぼしてくれよう!」
【魔王】の魔力が更に高まっていく。
重くのしかかる魔力圧。
この場にいる魔族や魔獣ですら立つ事が出来ないほどだ。
「ぐっ! ま、魔王様!? ど、どうして我々ま、で!?」
とんでも無い圧力を受けた【魔王】の家臣が俯けに倒れ吐血しながらも主人の行動を尋ねた。
既に内臓が潰れ、喋ることすらままならない魔族の掠れた声は【魔王】にとってチンケなものだ。
元より、【魔王】に仲間などいない。
【魔王】は付き従えていただけ。
最初から世界を征服などと馬鹿げた事は考えてはいなかったのだ。
「ふん! 貴様等は我の傀儡に過ぎぬ。 故に、我の目的の為に死ね」
無機質な目。
これは見限った時の目だと気づくのに時間はかからなかった。
あたりの魔族は動揺の顔を浮かべてはいるが誰一人動けない。
ーー絶望。
そこらの魔族は其れを回避するべく足掻く事を選ぶことが多かった。
「……」
しかし、抵抗するのもバカらしくなった魔族の幹部は激昂することなく主人の行動に胃を唱えようとせずに死を前にしても動揺することは無かった。
その魔力に身を委ね、いつ死んでもいいように祈りを捧げているようにも見える。
世界が激震し、あたり一帯が闇に染まっていく。
“ーーこれで漸く。 漸く、あの方が望む未来に……!”
嗤いが止まらない。
絶望する者を幾分と見てきたが、これほど悦を覚えた虐殺はない。
これが、目的を達成する感情。
実に心地が良い。
感慨に耽る【魔王】。
完璧な勝利を確信した闇は最後の一仕事と思い魔力を強めた。
だが……
「ーー【神焔魔法】・『
「ーーなっ!?」
煌めき輝く黄金色の焔剣が、いとも簡単に世界をも吞み込む闇を逆に喰らい尽くした。
この世に存在する七本の聖剣の内の一つ、『
魔を消し去るために女神が作った霊剣。
剣神を宿いし神剣。
剣神に認められた者のみしか扱うことが出来ない奇蹟。
人の手には余る代物を魔法として具現化させたたった一人の少年が【魔王】の圧力を直で受けても怖気も、動揺も一切見せずに逆に冷酷な目で睨み返した。
「ーーっ!」
息が詰まる。
呼吸が出来ない。
目元は黒髪で隠れているにも関わらず、緋く光る眼光が隙間から漏れていることがわかる。
視線に含まれているものは殺気。
【魔王】が放つ圧力を軽く超えるほどの濃度を持つ殺気が背中を伝って全身に危険信号を送った。
黒コートが靡き、濃密な殺気と共に纏う白色なる魔力があたりの空間を抑圧する。
「あ、ありえない……」
【魔王】は恐怖した。
存在自体が反則級の歴代最凶最悪の自身を超える存在は自身を生み出した【魔神】と其れに対抗することが出来る七人の【女神】だけだと思い込んでいた。
だがしかし、現実は違う。
裕に【魔王】を超えるスペックを持つ怪物が今、目の前にいる事が何よりの証拠だろう。
「ーー我、七聖女神の守護者として汝に問う」
黒髪の少年が放つ詠唱。
低い声色からは明確な殺戮の意志が含まれており、周りの魔族と【魔王】は体を震わせる。
「ーー汝が望む軌跡は正しき聖道か。 それとも、修羅なる悪道か」
纏わっていた白色の魔力が掲げた右腕に収束し、質が変化していく。
全ての罪を滅する力が少年へ集まっていく。
【魔王】は勿論だが、それが自身を消し去るものであることは理解している。
早急に攻撃すれば相手は死ぬ。
自らは生き延びるのだ。
“ーー簡単だ。 そこらへんに転がってる奴らと同じように……!”
【魔王】が身震いする。
少年の目だ。
あれには感情というものが込められていない。
故に、必殺である必要はない。
一度動こうとすれば、今している詠唱を破棄してまで自分を殺しにくる。
そう本能が警鈴を鳴り響かせた。
隙? そんなものは彼には存在しない。
あるのは敵という概念だけ。
それは静寂なる嵐。
音も立てずに全てを破壊し尽くす夢現。
物語っているのは女神の守護者の目、眼、芽、
【魔王】という他の魔族とは一線を画す存在もそこらにいる魔獣と大差ない。
数が多いから範囲の大きい【詠唱魔法】でケリをつけるだけなのだ。
邪魔をしてくるなら、手間がかかっても一匹一匹確実に仕止める。
それを出来るだけの強さを少年が持っていることを本能的に理解した。
「ーー悪なる道を進んだ悪童よ。 汝の罪過を我が聖痕にて森羅万象に帰す」
右手を天に掲げ、圧縮に圧縮を重ねた超濃度の白色魔弾を空へと放つ。
暗く染まっていた空の曇天を突き抜け、あたり一面に太陽の光が降り注ぐ。
「ぐっ!?」
突然の光で目が焼ける感覚に陥りそうになる少年以外の者達。
目が慣れ始め、視界を空へ向ける。
そして、そこにはあった。
何が?
簡単だ。
「ーーた、太陽」
誰が呟いたのだろうか。
だが、それはこの場にいる全員が納得できる言葉。
光射す、神が創りし最大級の
「ーー【神焔魔法】・『
灼熱なる焔の塊が頭上数千メートルに出来上がり、あたり一帯が荒野と化していく。
「グォォッ……!?」
「な、なんだこれぇ……!?」
「し、死にたくねぇーよ……!」
正に阿鼻叫喚。
魔族も騎士も御構い無しに灼熱の地獄に焼かれる。
表面のみで摂氏三千度を超える超圧縮型エネルギー体。
それが地上数千メートルの位置にあるのだ、地上の温度は既に昼間の砂漠どころの話ではない。
「ヒィィィィ……!? は、肌が……!」
「神よ……我を救いたもう」
肌が焼け爛れていく者も少なからず存在した。
一気に熱せられた体は水分を蒸発させ肌を焼いていく。
干からびて死ぬのではなく、燃えて死んでいく者が多いのだ。
「あ、すまん」
ただ、その超常現象を起こした怪物はその様子を見てのうのうとこの灼熱地獄を生きている。
ーー【神水魔法】・『
それが彼が平然としていられる要因。
この灼熱地獄を作り出す際に使用した水女神から承った聖剣で体の表面に薄い膜を張り、それを常時発動状態にする事で自身に影響が出ないように配慮していたのだ。
だが、【魔王】達は違う。
「ーーグォォォォォォォォ!?」
惨劇なる悲鳴の雄叫びをあげて、悶え苦しむ歴代最凶の【魔王】。
顔の表面は溶け始め、腕の皮膚からは骨が見え始めるほど焼き爛れていた。
視力は既に失い、体の彼方此方から死ぬと錯覚するほどの……もはや、感じるはずがない肌に強烈な幻肢痛が走り抜ける。
聖遺物があたり一帯を支配するのにそう時間は掛からなかった。
「ーーふぅ、これでいいか」
一仕事を終えた。 と言わんばかりに額の汗を拭う少年は戦場だった場所を眺める。
「ちと、やりすぎたか……」
頭をポリポリと掻いて、自分でしてしまった惨状から目を反らす。
同士である筈の騎士達すら巻き込んでしまったことに明らかな罪悪感を覚える。
苦笑をしながら、もう一度、魔力を右手に収束させ辺りに打ち出すように放った。
「ーー【創造魔法】・『
優しい女神の光が神子達の死骸を修復し召された筈の魂をも蘇らせていく。
死者蘇生。
世界の理を簡単に超越していく様子に、あの状況下で生きていた【魔王】が危惧する。
“ーー一体、こいつは……”
剣神と其々の属性を持つ女神に認められなければ所有することすら出来ない聖剣を二本以上持つ黒髪紅眼の少年。
魔力は世界にいるどの生物よりも多く濃密で、少なくとも三神と精通しており、驚異的な戦闘能力に加え、世界の歪みすらも超越する存在。
“ーーふざけた存在だ”
命が削られていく中、【魔王】は光の粒子になって空へと帰っていく。
心地よい感覚。
今までなかったような高揚感があるが、今はそれをゆっくりと噛み締めたいとも思った。
“ーーあぁ、できるなら、今度は【魔王】とか世界滅亡とかそんなものが無い美しく平和な世界に生まれてきたいものだな……”
確かに笑った【魔王】は最後の最後に【幸せ】を掴み取りたいという願いを込めて天に召された。
その光の粒子を死んだはずの騎士や少年も見つめた。
流れ着いた悪は召され、残ったものは人間のみ。
怒声とも変わらない声量で人族の騎士達は黒髪の少年へ歓声を上げた。
「「「【賢者】様! 【賢者】様! 【賢者】様!……」」」
「おい! それヤメロ!」
恥ずかしがって顔を赤らめる【賢者】と呼ばれた少年は悶えながら騎士達の【賢者】コールを背に受けた。
しゃがみこむことで聞かないように耳を塞ぎ込み、【魔王】の死に様の顔とそれから伝わった意思に答えるように……
誰にも聞こえないように……
そっと呟いた。
「……じゃあな【魔王】。 【幸せ《ハッピーエンド》】の物語を今度こそ掴めよ」
明るい未来が【魔王】や魔族となってしまったもの達に確かな冥福を祈るように笑顔を作って空を見上げたのだった。
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