第60話『5人のロボット対戦』

妹が憎たらしいのには訳がある・60

『5人のロボット対戦』       



 

 赤さびたロボットは右足を引きずるようにして近づいてきた。木々をなぎ倒し、岩を踏み砕きながら……。


 携帯武器は持っていないようだが、搭載武器が生きているかも知れない。わたしたちは必死で逃げた。ロボットは二世代前のチンタオ型で、半ば故障しているとは言え、生身の人間には十分過ぎる驚異だ。

 わたしと優子は義体なので、その気になれば後ろに回り込み、メンテナンスハッチを解錠し、動力サーキットを切ってしまえば、ものの数秒で無力化はできるが、それでは、仲間達に義体であることを知られてしまう。


 とにかく逃げることだ。


「こいつは、チンタオのアナライザータイプだ。攻撃能力は知れているが、探査能力が高い……」

 ズガーーーン!

 頭上の岩が爆発した。近接戦闘用の搭載兵器、多分ショックガンを使ったんだろう。

「キャー!」

 春奈が悲鳴をあげた。優子は、春奈の口を塞ぎながら次の岩場の陰に隠れた。

「やっつけちゃ、ダメ?」

 わたしは、春奈に聞かれないように早口で優子に聞く。優子は素早い手話で答えた。

――ダメ、義体であることがばれる。ばれたとたんに、C国に情報が送られる――

――三ヶ日じゃ、うまくいったじゃない――

――ダメ、他の三人に知られる。わたしたちは「人間」なのよ。


 ドーーーーン! 


 今度は木下と宗司が隠れていた岩場がやられた。


 ただ、ロボットの動きが鈍重なので、次の隠れ場所に移動する余裕はありそうだ。でも、この先隠れ場所になりそうな岩場や、大木がない。大きな池があるだけの背水の陣だ。追いつめられるのは時間の問題だ。

 宗司が飛び込んできた。

「なんで、あんたが!?」

「木下クンが、あいつのCPのハッキングをやるって。その時間稼ぎに、二組に分かれて逃げ回ってくれって」

「そんなこと……」

「危ない!」

 不満はあったけど、結果的に、わたしは優子と、宗司は春奈ちゃんとの二組に分かれて逃げ回った。


 そして、池の水辺にまで追い込まれた。


「これ以上、どうしろって言うのよ!?」

「水にに飛び込むんだ、あいつの生体センサーは一メートルも潜れば感知できなくなる」

「まだ、泳ぐには早すぎるわよ! 水着もないし!」

 真由が抗議したが、この言い方には余裕がありそうだ。実際次のショックガンがくるまでに、注意を引きつけて、宗司と春奈ちゃんが水に飛び込む時間を稼いだ。


 飛び込むと同時に、岩が吹き飛ばされた。池に潜ったわたしたちは二メートルほど潜ったが、五メートルほど先でパニックになりかけている春奈ちゃんと春奈ちゃんを持て余している宗司が目に付いた。


――優子、あっちを助けて。わたしはここであいつを引きつける。


 わたしは、シンクロナイズドスイミングのように水面に姿を晒すと、池の深みを目指して泳いだ。次々に撃ち込まれるショックガンで、水面は泡だった。

 優子は春奈に口移しで空気を送ってやった。しかしパニクっている春奈は、半分も、その息を吸うことができなかった。

 三十秒が限界だった。これ以上やっては春奈を溺れさせてしまう。優子はそう判断すると、春奈を水面に放り上げ、自分も高々と水上に姿をあらわした。


 ショックガン……来ない。


 立ち泳ぎで、ロボットを見ると、ショックガン発射寸前の赤いアラームが肩で点滅していた。で、動きが止まっていた。

「やったー!」

 木下クンが、ジャンプして、ガッツポーズをした。


「木下クンなら、甲殻機動隊のサイバー部隊でもやっていけるわね」

「そうね、後始末もお見事」

 木下は、ハッキングの痕跡をきれいに消しただけでなく、ロボットが興味を示したものの記録も、一切合切消した。その中には、違法に改造された彼のCPの他に、わたしたちが義体の疑いがあるという情報も入っていた。


「お二人とも、とても泳ぎがお上手なんですね!」

 

 この春奈ちゃんの記憶は消せなかった。で……。

「宗司クン、水中で人工呼吸してくれて……ありがとう」

 と、宗司にお礼を言った。宗司も半ばパニックだったので、そのへんの記憶があいまいで、

「とっさのこととは言え、ごめん」

 と、美しく誤解していた。


 で、麗しくも切ない青春ドラマの横道へと物語は展開の気配……。

 

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