49話 日本食の衰退は始まっている

 空に浮かびながら眼下に広がる数々の浮遊島を見ている、各島が隣接し巨大な陸地のように見えた、辺りは薄暗く浮遊島の中央にそびえ立つ一番高い建物の窓が光っているのがよくわかっる。後方を振り返ると銀の球体はしっかりついてきている、手でつかみ目の前に持ってきた。


『恐れながら申し上げます』

「な、なんだよ」

『織田様周辺の香りが不快指数を大幅に超えました』


 なるほど、この偵察機は臭いセンサーが付いていたんだったな、しかし臭いと言われると気になってワームホールの作成に集中できないから始める前にシャワーでも浴びるとしよう。


「いったん部屋に戻ってスッキリする」

『では佐久間様と城島様を別室に待機させましょう』


「待て、スッキリの意味が違うぞ! シャワーを浴びるだけだ、お湯の出ないシャワーをな!」

『日本語難しいですね・・・』


 銀河系最強最速と自負していたこの人工知能でも日本語は難しいのか?

 リヴァララは俺の事を性欲の塊と思っていそうな気がするので、地球についたら地球人の男の行動を研究するように言っておこう。


「すぐに食事の用意をしておいてくれ、この星での最後の食事をな!」

『了解しました、ちなみに食料生産をしておりませんので当分同じ食事になります』


 リヴァララさん、最近はちょくちょく余計な一言を付けてくるな、進化したのか元々なのか?

 そんなことを考えながら部屋をイメージしテレポートをする。


……


 部屋に出現すると女子3人はテーブルを囲み何やらクッキーらしきものを摘まんで食べている、3人は現れた俺をゆっくりと振り返り一斉に見た。

 なにやら皆の目つきがおかしい・・・


「も、戻ったけど? あと、無言で振り返るのやめてもらえるかな?」

「そんな事より、臭いんですけど・・・もっと離れてくれますか?」


 瑠偉が手を鼻に当て目をしかめながら言い、もう一方の手振ってあっちへ行けの合図をしている。


「剣道部の部室の臭いがするな、いやもっと酷いな」と言いながら美憂も手を鼻に当てている、俺に厄介ごとを押し付けられた時と同じ表情だ。

麻衣も同じように鼻に手を当てている、しかし麻衣の目は笑っていた。


「兼次ちゃん、まずシャワーを浴びた方がいいよ、臭いからね」

「そのために戻ってきたんだよ! ったく、臭い臭い言うんじゃねえよ萎えるだろ」


 少しイラついたのでわざとテーブルを周り3人の近くを通る、さらにもう一周してからシャワー室に向かう、入り口のドアで立ち止まり振り返ると3人はかなり嫌な顔をしていた。


……


 シャワー室から戻ってくると瑠偉が何やらスプレーのようなものを部屋中に撒いているのが見えた、おそらく消臭スプレーだろう、そこまでしなくてもいいような気もするが目の前でやられるとちょっと悲しい・・・


 さて俺がいない間に海水浴に行ったとは非常にけしからん、地球に戻る前にもう一度この淡水の海へ行っておこう、そして皆の水着姿を堪能してやるぞ!


「よしお前ら水着を持て、最後のキプロス星を堪能するために海に出かけようぜ!」


 3人は俺に注目するが特に何も言う事が無いのか皆黙って俺見ている。


『お知らせします、恒星の放出エネルギーの低下によりキプロス星の気温が低下しております。赤道面でも気温0℃前後で海水浴には適しません』


 そしてリヴァララから残念なお知らせが届いた。

 そうか、無理なのか・・・


「残念ですね、せっかく私の美しい水着姿を見せてあげようと思ったんですが・・・

 はぁー…残念、残念」


 ニヤニヤしながら瑠偉が言ったが、その表情はとても残念そうには見えない。


「じゃあ今度の夏、江ノ島あたりで瑠偉の学友たちと一緒に」

「目つきが・・・と言うよりオッサンと行く気ないですからね」


 瑠偉は持っていた消臭スプレーらしきものをテーブルに置いて椅子に座る。


「まぁいいさ、地球についたら若返って惚れさせてみせる」

「何処からその自信が来るのでしょうね、ホントに…」


 食事をお持ちしましたの声と共に扉が開き何時もの青髪の少年が入ってきてテーブルに食事を置き去っていく。


「やっぱり野菜スープのみか・・・」


 しかし今日で最後だ、地球に戻ったら料亭で久しぶりの日本料理を堪能しよう。

こいつらも連れて行ってやるか、そして高級料亭の味を教えてやろう、そして日本料理の良さを認識するといい。


「地球に戻ったら最後の別れに食事会でもしようか、どこの店がいい?」


「そうですね・・・なら私はICAROがいいですね」

「む、瑠偉はそう来たか・・・なら私はエクアトゥールがいいな」

「なら麻衣は、サル イ アモールかな」


 なんだろう横文字が一杯並んだが全部知らない店の名前だぞ、しかし日本料理店が出てこないとは、改めて現代っ子の恐ろしさを感じる。


「そこは日本料理じゃないかな?」と3人を見るが<何故?>と言う顔を全員がしている。

「味覚おかしくないですか? 普通はイタリアンでしょ?」

「瑠偉よ、日本人ならお米だろ?」


「なら海鮮パエリヤに決定ね!」

「麻衣、それもおかしいから・・・」


 だめだ日本終わった。


「もういいわ、店選びは任した。では地球に帰ろう」


 皿を持ち上げ残っている汁を全て飲み干す、複雑な野菜の旨味はこれで最後だ。

 立ち上がり外へテレポートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る