サバイバル生活の始まり
座学の後、僕は転移陣ですぐさま聖域に戻った。
ルドウィグとリュシール、アグネスカにサバイバル生活の課題について話すためだ。
実際、僕はこれまで一人で夜を過ごしたことが今まで一度もない。
そんな状態で
正直言って、あんまり自信はなかった。
「ふむ、使徒殿が山林でサバイバル生活を送るには……そもそも拠点とする場所の確保が最重要ですな」
「エリク、料理は出来ますか? 簡単なものを教えましょうか?」
「生活する上での最低限の魔法も、今のうちに確認しておきましょうか」
ルドウィグが、アグネスカが、リュシールが、口々に僕を心配してくる。
特にアグネスカは幼少期から僕と一緒に居たから、その心配度合いが段違いだ。
僕の両手をグッと握って、心配そうな視線を逸らそうとしない。
「アグネスカ様、エリク様が心配なのは分かります。私も心配ですから。
しかし彼は自然神カーン様の使徒。自然の中でなら自然の側が味方してくれます」
リュシールがアグネスカの肩を後ろから抱きながら、耳元で優しく囁きかける。
それを受けてようやく、アグネスカは僕の手から両手を離した。
握られていた手をゆるりと振って、僕はルドウィグをまっすぐと見た。その上で、質問を投げ掛ける。
「サバイバル生活の最中、動物や魔物の力は借りていいと思う?」
僕の質問に、ルドウィグは大きく頷いた。
「勿論ですな。どんどん力を貸してもらうがよかろう。
使徒殿は動物や魔物と心を通わせることが出来るのだから、食料の確保や寝床の確保、緊急時に備えての警護と、魔物に任せられる事柄は多いはずじゃ。
また、動物以外に植物も力を貸してくれることじゃろう。
どんどん頼れ、それが使徒殿の力になる」
ルドウィグの力強い言葉に、僕の気持ちもだいぶ楽になった。
そうだ、僕が頼れる相手はアグネスカやルドウィグやリュシールだけではない。この世界、この国にある自然そのものが味方と考えれば、これほど心強い状況もない。
そうなれば、あとやるべきことは。
「ルドウィグ、リュシール」
「「はい」」
しっかりと前を見据えた僕に、目を細めて微笑みを返す二人。僕は手をグッと握りしめて口を開いた。
「使徒の能力のちゃんとした使い方を、教えてくれ」
学校では授業を受け、聖域でも授業を受け、
王都ウジェから馬車で
「ここがサバイバル授業の会場、ミオレーツ山だ。
危険な魔物はこの近辺には住んではいないが、万一と言うことも起こりうる。
一応俺の目は光らせておくが、なんかどうにもならないことがあったら、すぐに狼煙を上げろ」
アルノー先生が、皮袋を手渡しながら言う。
中を開くと狼煙用の着火材に加え、塩の小瓶と
つまり残りの期間、
「獣の生息具合はどうですか?」
「
そいつらもうまく使えよ。時には味方に、時には食料に。
この山はそんなに高さは無いが、夜は冷え込むからな。蒲団がわりにもなってもらうのもよしだ」
なるほど、と思った。
確かに動物に寄り添ってもらえば夜の寒さも凌げるだろう。アルノー先生が言っていた「
「分かりました、頑張ります」
「おう、死ぬなよ」
頷く僕の肩を、アルノー先生は優しく叩いた。
いよいよ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます