Automatic writing

鹽夜亮

実験Ⅰ

第1話 シュルレアリスム的実験

 自動筆記、という記述法がある。厳密には半覚醒状態で文章を書くことや、異常な速記によるものであるが、今回はそこまで制限を加えず、これを試みることとする。

 私はこれ以降の文章の中で、なんら意識を使用しないことを明言する。ただし、それはあくまで主観的に意識を使用しないことを「決意」するに留まるということは、重要な項目となろう。

 これは、私個人に対する実験である。なんら意図を持たない。なんら意思表示を持つ事もない。ただ、浮かんだ言葉を並べるだけである。

 その中から、私自身が、もしくは奇特にも是に目を通さんとする読者に対し、何らかの知的探究心の満足を得られれば幸いに感ずる。




 半月の鳥が鳴いている。空は紅い、鳥は鳴くばかりだ。青空のもとに、小鳥が一人突っ立って嗤っている。蟻は全て死んだ。抗虐の試みは厚い壁に焼かれる。もとい、白菜は煮えたぎった湯に放り込まれて泣いている。足がつく程に尋常ならざる空の元、後は死ぬるものみと化した化け物達の群れが巣を作っている。あたらしい夜明けは近く、存在は無意味に等しい。当たり前の世界を破壊せしものは、何者にも代え難く甘美である。空に橋がかかる

 盲目の老人が歩く。新しい目を下げ。袋のネズミははち切れんばかりの音を持って、その存在価値を嘆いている。霊夢の果てに起こるのはモザイクである。コミットをとる事は重要な任務だ。世界は欲している。新しい専門家による血の箱をこじ開ける空の元、眠りについたあたらしい赤の、何もない空の腹部を。送電線は裂いている。悦楽に我々は酔う。程々に。

 紅色の狐は死に絶えた。息つく間もないほど、世界は寒々としている。血みどろの猪は車に轢き潰された。またしても踊り子は眠りながら犯されている。迸る。労え。反逆を。珍しいものに身を捧げる。当人にもわからずに。

 血が出る。口を裂く花の巫女は踊っている。あたりは薄暗く、森はしんと静まり返っている。眼球が大きい。右目はパスタのように赤々としている。口紅を引け。出来る限り満遍なく。オートマのリズムに乗せて、あたりを走行する。変人の群れに乗せて。我々に自由はない。空は澄み切っている。平行線の上はあくまで空を横切る。眠れ。さすれば与えられん。授けるは光。暗転した白目。目つぶし。暗転。

 総じて何もかもが焼けている。ただれた皮膚は発酵臭にまみれ、泡が穴を埋める。音が鳴り止まない。音が鳴り止まない。背筋は骨ばんでいる。折へつらえた泡のくじに、何もないものが乗っかる。レイティングの化け物、グラスボックス。ブラー。盲目の執事。赤目の科学者。音のない音。恥ずかしめ。鬱病の狩人、めいめいと踊る。果てしない世界の果て。あたり一面の空。……。



 長々と書き連ねれば、いつまでも続けることができるだろう。どこかで意識的に切りをつけねばならない。

 よって、今回はこのあたりでキーボードを叩くことを終わりにしよう。分析を行うつもりは今のところないが、定期的にこの実験を繰り返す意志はある。

 以上。



 

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