誰も知らない【未知】を求めて
【CLOWN】時雨 十六夜
第1章 未知へのプロローグ
私はずっと願っていた。【何でもいい。ただ誰も知らない、誰にも汚される事の無かった、本当の未知を知りたいと】
西暦3000年人は、様々な過ちを犯しながらも、確実な成長と共に、全ての大陸を大橋で繋げるという特大プロジェクトを完遂していた。
現在最先端技術を用いて多くの実験を行って来た研究者達が、人類にとって、莫大なる進歩と言える実験を2つ成功させていた。
一つは、人間の脳内にBrain console《ブレイン・コンソール》と呼ばれているチップを埋め込む事で、人間の能力を
もう一つは、宇宙開発の研究が飛躍的に進み、地球とほぼ同じ酸素濃度の星、現在はsecond earth《第2の地球》と呼ばれる星が発見され、その星へ行く術を編み出した事だ。
遥か昔から人間の能力は、脳の約十パーセントから二十パーセント程度しか、その能力を発揮出来ていないと言われていた。だが、近年開発に成功した「ブレイン・コンソール」によって、理論上100パーセント、もしくはそれ以上の能力を引き出す可能性もあると開発チームは世間に発表した。
この「ブレイン・コンソール」は、脳に直接埋め込むのだが、手術自体にリスクを伴う事は無く、時間経過と共に「ブレイン・コンソール」は形を無くし、脳と一体化するので危険性はない。
しかしブレイン・コンソールは、最初脳内に直接埋め込むという事もあり、殆どの人は興味を持ってはいたが、自分がやろうとは決して思わなかった。
次第にブレイン・コンソールを取り入れた人間の飛躍的な能力の向上をその目で目の当たりにした人や、手術の失敗が全くない事から、次第にこの手術を受ける人の数が大幅に増えていった。
セカンドアースへ行くのにブレインコンソールが必要不可欠になったことも追い風となった。
何故、必要不可欠になったのか?
それはセカンド・アースへ行った際に、生存率を大幅に上げる為である。「セカンドアース」へと行った300人近くの研究者、冒険家が、返って来た時には、50人にも満たない数にまで減るという惨事があったからだ。
多くの人間が命を落としたのは、未知の領域に自分が足を踏み込んでいる事を自覚せず、好奇心と興味だけに駆られ、グループを10隊に分けて行動したのも1つの原因だ。
ある者は、自分よりも10倍以上の大きさがある白い虎に襲われたとか、黒いドラゴンに火を吐かれただとか、目の前の地面が急に沈み出して、仲間の半数が地面に呑み込まれたとか、到底普通に生活している人間には、理解が及ばない様な事を、生き残った人間同士が必死になって話していたそうだ。
また、15歳未満の人間の脳には、手術の失敗は無いにせよ負担が大きい為に、手術を受ける際にこの様な条件が付け加えられた。
「15歳になった時点で一定以上のステータスが確認出来た者のみ手術を受けることを認める」
あの大事故から5年、今では星拓者という職業が世間一般に認知される様にまでなっていた。
私の父も星拓者だ。
私の父は、5年前にドラゴンに襲われた事があるそうだ。そんな生き物がこの世界に本当にいる訳ないと思ったりもしたが、父の話方が上手いせいで、私までヒヤヒヤする様な話を聞かされた。他にも父には沢山の冒険話を聞かせて貰った。
父はよく「星拓者はいいぞ~」と口癖の様に言っていた。
どうして父は危ない目に遭ってまで、星拓者を続けるのか、一度聞いた事がある。
父は難しそうな顔をしながら「大人になるに連れて自由に生き辛くなるからだよ」と少し哀しげな顔で言った後、付け加えて「単純に父さんが冒険が好きだって事が一番の理由だけどね」と笑いながら話していた。
私も最近になって、やっとその言葉の意味が、少しだけ分かるような気がしてきた。
大きくなるに連れて法であったり、社会の中で生まれる暗黙のルール、学校にも独自のルールがある。周りの目を必要以上に気にして、自分の思っている事を言い出せなかったりもする。
私は自由とは何なのか、最近になってよく考える様になった。人は常に、何かに縛られていないと、生きれないのだろうか?
こんな事を毎日の様に考えてしまう私は、凄く捻くれているのかもしれない。それでも強く願ってしまう自分がいる。
「自由に生きたい」と。
私も明日で15歳になる。3年前に星拓者から鍛冶師に転職した母「マフタン・舞」の手伝いをしながら、武器をよく買いに来る常連さんや、母に毎日剣の稽古を付けて貰っている。
母の作る武器はどれも一級品で、分厚い鉄板に本気で刀を振り下ろしても少しも刃こぼれする事なく、鉄板が真っ二つに切れる程だ。
母が作る武器は只の刀ではない。特殊な能力が刀に付いているらしい。そんな武器を作る母は冒険者の間ではとても名が知れた有名な鍛冶師だ。
今日は母の武器屋が休みの日なので、朝から母に稽古をつけて貰っている。
明日受けるステータス検査で、一定水準以上のステータスが、確認出来ない場合、私は「ブレイン・コンソール」の手術を受ける事が出来なくなる。
一度ステータス検査に落ちてしまうと、来年まで星拓者になるのが持ち越しになってしまうのだ。考えずにいようとしてもやはり気になってしまう。
検査を受けられるのは15歳になってからで、受けるのも年に一回までと定められている。年に一回と定められたのもやはり身体への影響なども考慮した上での事だと思う。
「シェリー今日は集中力がないわね。今からそんなだと、明日まで持たないわよ?明日の事は明日にならないと分からないのだから、今気にしても仕方ないでしょう?今は稽古に集中なさい」
母はそう言うと、凄まじい速さで木刀を振り上げて、私に迫って来た。
私は素早く身を右へ傾けた後、直ぐに左へ身を翻し母の攻撃を躱した後、肩に軽く木刀を当てた。
「シェリー、本当に強くなったわね。明日の検査の事だけど、間違い無く落ちる事はないと思うわよ」そう言って母は嬉しそうに笑った。
私は「それだと良いんだけど」と言って母の笑顔につられて微笑んだ。
「よし、じゃあ今日の稽古はここでお終い。明日は早いんだから今日は早めに休みなさい」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「シェリーそろそろ起きて、出かける準備をしなさーい。ステータス検査までは、まだ時間あるけど、ちょっと早めに行って、手続きしてたら丁度いい時間になるでしょ」
「ふぁ~~ぁあ……お母さんおはよう」
「ちょっと貴方、髪の毛が凄い事になってるわよ」
母が顔を抑えながら、必死に笑いを堪えるのを見て、私は洗面台の鏡で、自分の頭を確認した。鏡の中に映った自分を目の当たりにして、母が笑っていた事にも納得がいった。前髪が全て逆立っていて、本当にもの凄い事になっていたからだ。自分の寝癖の凄さに圧倒されつつも、顔を洗って、しっかりと髪を整えた。
「お母さん。それじゃあ行ってくるね」
「ちょっと待って、これ今日のお昼ご飯と、少し前から作っていた最高傑作よ。セカンド・アースで、父さんが取ってきた鉱石で作った特別製よ!持って行きなさい。きっと役に立つわ」
母はそう言って、お弁当と、柄が黒色の1mと少しありそうな長めの刀らしき物を、私に渡してくれた。
刀らしき物と表現したのは、刀の持ち手から、刀身に至るまでの出っ張りに、引き金と、細い銃身の様な物が取り付けられていたからだ。
「お母さんありがとう。それじゃ行ってくるね」
私は母に手を振りながら、目的地に向けて歩いて行った。
私は星拓者関係者のみが、住む事を許されている星拓者の国「ブリテン」に住んでいる。
何故、星拓関係の人だけしか住めないのか、それは「セカンド・アース」へ行く為の装置が、この国の中央部にある為で、万が一「ブレイン・コンソール」の手術を受けていない一般の人が、間違えて転送されない様にする為らしい。
勿論そんな事が起きない様に、しっかり複数の管理人が注意し、見ているのだろうが、面倒事は増やしたくないと思うのが、上のお偉いさん達の考えらしい。
この国に、一般の人が入国する時は、15歳になって、ここにステータス検査を受けに来る人や、資源を運搬しに来る人くらいだ。
目の前に迫ってきている、超巨大な建物が、「セカンド・アース」へ行く為の転送マシンが設置されている建物だ。
大きさは縦に700m、横の長さが500mもある。
建物の中には、「セカンド・アース」の生態や、環境、の情報を常に新しく更新する機械が設置されていたり、新しい武器を開発する研究チームや、武器、防具などが売られているエリアなど、沢山の店や、施設が設置されているらしい。
この街にずっと住んでいて、何度も見ている筈なのに、近くで見るとやっぱり、デカ過ぎだろ!と思わず声が漏れそうになるくらい大きい。
今日は、この建物の左にある、ブリテン中央病院でステータス検査を受けに行く。
私が検査の事で知っているのは、6つの現在のステータスを測定するという事位だ。
・筋力
・体力
・器用
・知力
・精神力
・敏捷
この6つの項目で、一定水準を上回る数値が出れば、晴れて冒険者になる事が出来る。
「本日、ステータス検査を受診される方、受付は此方になります」
「あっちだってさモリト。さっさと行こ」
「ちょっとここ病院なんだから走るなって。って前!前見ろ危ない!」
「いったぁ~い」
「うぅぅ~~」
シェリーは、突然の衝撃に思わず声を漏らしながら、頭を抑えた。
「本っ当にごめんね。私前見てなくて……」
シェリーは、自分も考え事をしていて、背後から走って来る彼女に、全く気づかなかったので、お互い様だなと思い「私も考え事してて、前から貴方が走ってくる事に気付かなかったから、お互い様って事で」とまだ少し痛む頭を撫でながら、彼女にそう言った。
「エヘヘ。優しいんだね。貴方名前はなんて言うの?私はミラよ。貴方も今日検査を受けに来た人でしょ?」
「私はシェリーよ。ミラさんの言う通り、私も今日ステータス検査を受けに来たの」
「シェリー、可愛い名前だね。私の事はミラって呼んでね」
「分かったわ。じゃあ、よろしくねミラ」
「モリト~、貴方も自己紹介くらいしなさいよぉ~」
「あの、初めまして。僕は、森田勇人と言います。この人は僕の事を、モリトと呼ぶのですが、出来れば勇人と呼んで貰えると嬉しいです」
え……モリト?何でモリトなんだろう。少しだけ疑問に思いながらも「勇人さん。私はシェリーです。気軽に名前で呼んで下さい」とそう言った。
「じゃあ僕も勇人でお願いします」
少し変わった二人だけど、二人とも面白くて、良い人そうだ。
「検査用の番号カードをお渡ししますので、此方へお並びください」
「皆んな何番だった?私はね37番だった」
「私は38番でした」
「僕は39番だったよ」
「なぁ~んだ番号順なんだ。つまんないの~」
私は、そこはどうでもいいんじゃない?と思ったが、口には出さなかった。
「少しご注目下さい。軽く本日の流れについてご説明させて頂きます。先ず、先程お渡しさせて頂いた番号カードの番号順に、ステータス検査を受けて頂きます」
「ステータスが一定ラインを超えた方は、ブレイン・コンソールの手術を受けて頂くかどうか、もう一度ご自身でよく考えて判断して頂いた後、手術を受けて頂く事になります」
「手術が終わり次第星拓者に必要な、ライセンス登録をするお部屋まで、案内させて頂く形になります」
「それでは番号を呼ばれた方から、此方へお越し下さい」
ふと辺りを見渡すと、凄い大人数の人が周りにいて、真剣な表情の人、見て分かるほど緊張している人、ソワソワしている人、など沢山の人が検査を受けに来ていた。
こんなに沢山の人が、受けに来ているんだなぁと思い、改めて星拓者と言う職業が、どれ程魅力的で、沢山の人に注目されている職業なのかが伝わってきた。
「緊張してきたぁ~」
「私も昨日から凄く緊張してるよ」
「僕も」
「35番、36番、37番の方、此方までお越し下さい」
「よっし。私か。じゃあ2人とも又後で会おうね」
ミラはそう言って、手を振りながら検査室の中に入って行った。
「はぁ……本当に緊張する」
後で本当に会えたらいいなぁ。これだけの人数がいて、私達3人がこの検査を突破出来るのか、正直凄く不安だ。それでも、私が星拓者になるには、先ずはこの関門を通らなければならない。結局は絶対に通らなければ行けない道なんだと、私は、自分に言い聞かせた。
「シェリー僕も少し緊張するけど、今から緊張しても仕方ないよ。後で皆んなで会える事を祈ってるよ」
「そうだね。後の事を今考えてもしょうがないよね。よし!自信持って行こ」
「38番、39番、……」
「じゃあ又後でね」
「うん。又後で」
勇人と短くやり取りした後、私は検査室の個室へと、入っていった。
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