26話 勇者side 悲劇

ピルーク王国大広間。この日スフランに宝玉を運ぶための旅立った神崎率いるグループ以外の勇者達は王女に招集され、集まっていた。

「王女様、緊急の会議とは一体?」

「…とにかく皆さん。座ってください。」

「はい。」

「…」

「?…何か…あったんですか?」

「…落ち着いて聞いてください…」

「?」

「…今朝、城の兵士が城の門前で何かが入った布を発見しました。」

「布?」

「中には何が入ってたんですか?」

「…それは…」

「…もしかして…爆弾…とかですか?」

「い、いえ爆薬などの危険物ではありませんでした。」

「じゃあ…何が?」

「…セバス。持ってきてください。」

「…はい、かしこまりました。」

そう言ってセバスさんが持ってきたのは赤く変色したボロボロの布だった。

「な、なんですか?それは…」

「皆さん…決してパニックにならないようにお願いします…」

そう言って王女様はゆっくりと布の結びを解いた。

「きゃっ!」

「はぁ?!」

「か、神崎…」

「み、美羽ちゃん?」

「み、美琴…」

「な?え?どうな…き、木下…なのか?」

「真司…」

「うぷ…おぇぇ…」

「そんな…なんですか!これは!王女様?!」

「…今朝門の前で発見しました…」

「嘘…嘘だ!渉…真司。」

王女様は静かに目を伏せた。

「そんな…誰が…こんな…」

「…スフラン共和国からの通信によると、一人生き残っていた兵士がいたそうです。その兵士の情報によると…おそらくロキア帝国襲撃の犯人と同一人物と考えていいでしょう…」

「神崎でも…勝てない相手なのか?」

「嘘…嘘よ…望美…もう話せないなんて…望美!」

「誰…なんですか…?五人を殺した二人は…」

「今わかっているのは…エルフ族の女と魔族の男ということだけです…」

「な、なんで頭だけなんだよ…体は…こいつらの体はどこにあるんだよ!」

「…生き残った兵士によると…魔族の男が焼き尽くしたそうです…」

「そんな…」

「宝玉は…宝玉はどうなったんですか!」

「壊されました…」

「う、嘘だろ…もう二つも…」

「それで…集まってもらったのはこの事と…今後についてのことです。」

「…今は…それどころではないので…少し待ってもらえませんか?みんなついていけてません…僕もです。」

「天城様…そうですね…では今夜また大広間にお集まり下さい。」

「…はい。」




「…うう…なんで…こんな…」

「くそぉ!」

「天城くん…」

「…菜々…大丈夫?」

一人伏せていた江ノ島に、松山は優しく声をかけた。

「…うん…でも…」

「…ええ…」

みんな放心状態だった。泣いているものもいればどこか虚ろげな、生気を無くしたような顔をしている。

「くそ!渉!真司ィ…誰だ!誰がこんなこと!」

橘がやり場のない怒りをテーブルにぶつけていた。

「…みんな…聞いてほしい。」

「…天城…」

「天城くん…」

「こんなことになったのは…俺はこの前襲ってきた…魔神軍の仕業だと思う。」

「魔神軍…」

「だから…残り五個の宝玉を集めたら…魔族に宣戦布告をしないか?神崎達の仇だ。俺たちで…仇をとってやらないか?」

「天城…」

「俺は…やるぜ。」

「賢治…」

「あいつらの仇…俺達が取らないで誰がとるんだよ!なあ!みんな!」

「…ああ」

「取ってやろうぜ!みんな!」

「おお!」

「みんな…」

「僕は反対だね。」

「な、小宮…」

「なんだとてめぇ!」

「…君達虫がよすぎるよ。」

「どういう事だ…」

「…藤山が死んだ時君達はそんなに必死になったかい?」

「藤山は関係ねえだろ!あいつが裏切ったんだろ!」

「…君たちは本当にそう思っているんだね…馬鹿にも程がある…」

「なんだとぉ!」

「いいか、藤山があんなこと出来るわけないだろ…僕はスキルに鑑定がある。あの時の藤山のステータスを見たがとてもあんなことが出来る強さじゃなかった。」

「…じゃあ一体誰が…」

「そんな事分かりきってるだろ…王女だよ。」

「な!…お前は王女を疑ってるのか…?」

「当たり前だろ?逆に他に誰がいるんだよ?教えてくれよ。」

「…それは。」

「言っておくが僕は王女のことも王女のあやつり人形の君たちのこともこれっぽっちも信用しちゃいない。」

「なんだと?」

「いいか?藤山を殺したのは他でもない…君たちなんだぞ?…まあそれに僕も含まれているが…それなのに五人が死んだから仇を取ろう?笑わせてくれるね…。」

「て、てめぇ黙って聞いてればぬけぬけと…」

橘が小宮に殴り掛かる。

「待って!」

「江ノ島さん…」

「…菜々。」

「たしかに、小宮くんの言っていることは間違いないと思う。優くんを追い詰めたのは私たち。」

「なら…「でも!」」

「…でも優くんは…死んでない…きっとどこかで生きてる。そう…思うんだ…」

「…ふん、どうだか…」

小宮はそう毒づいて去っていった。


「…」

「今日は夜まで休もう。色々あって疲れた…」

「天城…」

「夜にまた大広間に集合だ。いいね?」

「ああ…」

神崎達の死は勇者たちにとってあまりにも辛すぎる出来事だった。




夜、大広間。

「皆さん、こんな時ですが集まっていただきありがとうございます。」

「いえ…」

「集まっていただいたのは他でもありません。今後のことについてです。」

「はい。」

「まずは残りの宝玉をこの城に予定通り集めます。メンバーはこの前決めたとおりにお願いします。」

「その後は?」

「…今回の事件魔王様により、女の方の犯人の特定が完了しました。」

「!…本当ですか?」

「はい。魔神と同じエルフ族なのですからその身内です。…犯人は魔神の妹…ミーシェ、ミーシェと呼ばれるダークエルフの女です。」

「魔神の…妹…?」

「…その推理はおかしいな…」

小宮が反論する。

「魔神の妹は倒されたんだろ?魔王の手によって…」

「はい…ですがロキア帝国北部に保管してあるはずのミーシェの遺体が消えておりました。何らかの形で蘇ったものだと…禁呪には死者を蘇らせるものもあります。」

「なるほど…妹が…」

「ですのでおそらくこのピルーク王国にもやってくるでしょう。そこを向かい打つという作戦です。…おそらく禁呪で蘇ったのなら殺すことは出来ないでしょう。なので封印します。そのために勇者様の力が必要なのです。ですが…今の人数では一人足りません。なので藤山様が生きていることに望みをかけて探し出して欲しいのです。…なぜあんなことをしたのかは知りませんがことはそれほど重大です。

頼みましたよ。」

「…はい。」

こうしてこれからは藤山を探し出す方針に意見がまとまった。


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