別れの言葉を胸に秘めて

  ワシントン州 レイクビュー墓地 二〇一五年八月二四日 午後二時三〇分

 ワシントン州シアトルにあるレイクビュー墓地で、安らかに眠るトーマスたちへ心の中で祈りをささげている香澄。この時の香澄は瞳を閉じながら静かに両手を合わせるという、日本風の故人への冥福を祈る方法だった。

 数年前にトーマスへ別れを告げた際には、キリスト教が主流のアメリカの様式に合わせ、レイクビュー墓地で少年の亡骸を埋葬するという方法だった。その際に香澄も参列していたことから、彼女がアメリカ流の埋葬方法を知らないわけではない。

 にもかかわらず香澄が日本風の形で祈りをささげていたことから、彼女の心の中で何かの決心がついたと考えられる。


 トーマスたちへ祈りをささげ終えたであろう香澄は、髪をなびかせる風の動きに合わせるかのように、ゆっくりとまぶたを開く。そして軽くため息を吐くと同時に、左腕に着けている腕時計に目を向ける。

『今の時刻は二時三〇分ね――そろそろシアトルへ移動しないと』


 今までどこか悲しい顔をしていた香澄の瞳だったが、何かの合図を送るかのように一瞬だけ眉を細める。そしてレイクビュー墓地を去る前にもう一度、

「それじゃ、トム。私はそろそろ行くわね――今はまだ“さようなら”は言わないから、安心して。それから……リース、ソフィー、お邪魔しました。トムのこと、よろしくお願いします」

と静かに語りかけるようにサンフィールド一家が眠る墓石へ振り返る。

 そのまなざしは何かを語っているようだが、香澄の口からこれ以上言葉が出ることはなかった。

 

 そして冷静な香澄にしては珍しく、今日に限って時間を気にする素振りを見せることが多い――彼女は一体何を企んでいるのだろうか? エリノアたちを困惑させるような、過激な内容でなければ良いのだが……

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