初夏
あっという間に春は終わった。そして、梅雨を通過することを季節が忘れてしまったかの如く、すぐに夏がやってきた。今年の夏は特に暑い。夏服への衣替えも、いつもよりかなり早い時期に行った。このままでは、やってられない。涼果も、夏乃も、同じように早い時期に衣替えをした。私たちと同じように、クラスメイトの大半が衣替えを終えた頃、七月の学期末試験がやってきた。新しい科目も多く、なかなか先が読めない試験。だが、この試験は私たちの将来を決める。担任も必死になって、生徒たちに発破をかけた。一日目、二日目、三日目。期末考査の時はいつもそうだが、テスト期間中はいつ何時も心が安らぐということはない。いつも何処かそわそわしていて、落ち着かない。緊張のせいか、ご飯も喉を通りにくくなっていた。
「深青、朝から顔が赤いよ?」
「ちょっと緊張しててね。」
「大丈夫。私たちも一緒だから。」
涼果は私の肩をポンと叩いた。もう、今日が終われば、夏休みはすぐそこだ。勉強は個人戦でもあり、チーム戦でもある。それを強く意識した瞬間だった。そして、最後の教科が終わり、期末考査は終わった。
「お疲れ。」
「深青もね。」
「ありがと。」
「ほら、これ飲む?」
「涼果、ありがとう!!」
涼果はカルピスウォーターを二人に差し出した。喉を伝うカルピスの味は、これまでで一番美味しかった。ああ、今年も夏なんだな。青春最後の夏がやって来たんだな。また水着を用意しなきゃ。あっ、今年は受験生だから海に行けないんだった。
「一日だけ、何処か行かない?」
「いいかも。」
「でも、夏休みは講習あるでしょ?」
「まあね。」
「どこか、日を作ろう。」
「バイトのスケジュール確認しなきゃ・・・」
「あのね、七月終わりにカネットのライブ取ってあるんだけど。」
「カネット?」
「うん。」
「涼果、いい?」
「焼けないし、いいかもね。」
「やった!」
夏乃は両手を上げて喜んだ。彼女は大のアイドル好きである。カネットもまだ売れていない時から応援していたと、私たちに散々自慢を繰り返して来た。そんな彼女が、久々に行くライブ。そして、私たちと初めて行くアイドルのライブ。次の日も、その次の日も、夏乃は少し落ちた成績には目もくれず、私たちは只管カネットの話を彼女から聞かされた。今年の夏もまた忙しくなりそうだな。私と涼果は悟った。クラスの隅に寂しく佇む、埃を被った風鈴が揺れている。まだ静かな初夏、穏やかに始まったこの物語という名の旋律を見つめながら。今日も青空が眩しすぎて。
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