第44話 大きな毛虫
「きれい……」
昼休み、阿部さんは校庭の桜を見て感動しています。
「桜の木には毛虫がいっぱい潜んでいるよねっ!」
「きゃっ!」
毛虫など昆虫が苦手な阿部さんは、サッと桜の木から離れました。毛虫の話を始めた子は、それを見て笑いました。
「ビビり~」
「……やめてよ田崎さん!」
阿部さんは後ろを向いて怒りました。田崎さんは阿部さんに注意されても楽しそうです。
「けむっしむっしむっし~♪ モジャモジャ~♪」
「歌わないで!」
「何で怒っているの? ただの歌じゃん。そこに毛虫がいるわけでもないのに……。急に怒り出した、あんたの方が毛虫より怖い」
「歌われると毛虫が頭の中に浮かんでくるのっ! もう想像するだけで嫌なの!」
「ふぅん……モッジャモッジャ毛虫~♪ 将来は蝶々? それとも蛾~?」
泣きそうな顔になった阿部さんですが、それを見ても田崎さんは何とも思いません。自分で作った毛虫の歌を歌い続けています。
「気持ち悪いっ……嫌!」
「ふふっ」
耐えられなくなった阿部さんは、その場から逃げました。阿部さんの走る姿を見て、田崎さんは満足そうです。
「はー、何よ毛虫ぐらいで……。ヒステリーなんだから」
「我々のために素晴らしい歌を作ってくれて、ありがとうございます!」
「えっ?」
田崎さんは突然お礼を言われたので、キョロキョロと周りを確認しました。しかし誰もいません。
「上ですよーっ! 上を見てくださいっ!」
「上……?」
教えられて、すぐに田崎さんは見上げました。田崎さんの目に入るのは美しい桜。しかし田崎さんに桜を観賞する余裕は与えられませんでした。
「こんにちはぁーっ!」
「へっ? ……ギャアーッ!」
田崎さんが顔を上げた直後、大量の毛虫が挨拶をしながら桜の木から降ってきました。
「おえっ……」
たくさんの毛虫たちが田崎さんの体にピタッとくっつきました。また田崎さんは口を開いていたので、その中に入り込んだ毛虫たちも多いです。一瞬で田崎さんは気持ち悪くなりましたが、一匹も毛虫は離れません。
「あなたの歌は最高よ!」
「ステキな音楽家ですね!」
「大ファンになりましたっ!」
なぜなら毛虫たちは田崎さんのことが大好きだからです。毛虫たちは、みんな田崎さんへの感謝の気持ちでいっぱいでした。
「う、うわーっ!」
大量の毛虫に包まれた田崎さんを、ある児童たちが発見しました。
「先生~っ! でっかい毛虫がいます!」
毛虫だらけの田崎さんは、もう大きな毛虫にしか見えませんでした。
やがて害虫駆除のおじさんたちが学校に来て、その大きな毛虫を退治しました。これで校内の毛虫は全て排除されました。
「きれい……」
毛虫も意地悪な子もいなくなった今、阿部さんは心から幸せそうに桜を見ています。
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