44.証拠(2)

「さて、一応これで隅から隅まで探したな」


 この2時間で見つかった証拠らしきものは、文字通り山のように出てきた。


 最初のレリーフに続いて、ラウト公爵家の人しか持てないという短剣や、シアーのものらしき金髪。挙句、リーベの誘拐計画が書いてある手帳まであった。まぁ、その計画は大きく狂ったようだが。


 うーん、やっぱりおかしい気がする。こうも確定的な証拠が出てきてしまうと、逆に怪しい。他の家か、一個人がしたと考えた方がいいな、多分。


 また、次いでにゴット・ストゥール関連のことも調べたが、こちらはレポート以外目立つ証拠はなし。俺が倒した謎のヤツらも、立つ鳥跡を濁さず、みたいな感じでカプセルごときれいさっぱり消えていた。詳しい鑑定とかに頼めばまだなにか見つかるかもしれないが、しょうがない。


 一応、これらの証拠は公爵に頼んで鑑定してもらおう。その方が確実だ。もし偽物なのなら、とんだ食わせ物だからね。極力無駄は省きたい。無理だろうが。


 これ以上長居するのはあまりよろしくない、と思い、ここで一旦帰ることを選択。次来る時は専門家も来るから、転移剣ウヴァーガンは残しておかねばならない。


「リーベ、もう帰るけど……どうした?」


 少し遠くにいたリーベを呼び寄せようとして、やめた。リーベはどこかを見つめていた。視線の先には壁しかない。もしかして、壁に仕掛けとかが……?


「壁になんかあるのか?」

「いえ、何もないです」


 何もないんかい。隠し扉は結構見てきたのに、未だ少しだけワクワクしてしまう。男なら、分かるよな?


 少しだけ調べたが、本当に何もなく、結局そのまま帰ることにした。


 さて、こんなに確定証拠があってしまっては、なんだか釈然としない。公爵は昼頃に帰るはずだから、その時に彼の意見を聞こう。


 隠し扉を探したい衝動を抑えて、俺はプリンゼシン公爵家の館に転移した。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「──それでは、洗いざらい話してください」


 現在、プリンゼシン公爵家の館。その応接間にいる。俺が質問している目の前の人はプリンゼシン公爵家メイド長だ。確か聖書を得物とする人だったはずだ。


 そう、俺達が帰る10分前、彼女が目覚めたらしいのだ。公爵が不在なため、今は俺が代理で話を聞いている。


 隣には真雫とリーベもいる。嘘をついているかどうかを見極めるための要員だ。嘘を見抜けるかどうかは甚だ疑問だが、本人達がやりたいと言っているので、ここは彼女らのやる気に成果を出してもらおう。


「あれは、昨日の、私たちが仕事を終えてのことでした──」


 メイド長曰く。


 その日はいつも通り、滞りなく仕事を終えて、メイド室で後片付けをしていたらしい。他のメイドも同じ時間帯に仕事を終えるので、プリンゼシン公爵家のメイドのほぼ全員が、その場にいたらしい。


 いつものように雑談をしながら片付けをしていると、ふと、窓の外に誰かがいたのが見えたらしい。


 恐る恐る近づいてみると、そこには1人の金髪の青年が立っており、顔は憎悪に満ちていたそうだ。


 メイド達には、プリンゼシン公爵家のメイドである以上、プリンゼシン公爵家の機密や秘密を他人に漏らさない守秘義務がある。故に、彼女らはある程度の戦闘訓練を受けており、並の冒険者では相手にすらならない。


 しかし、その男は存外強く、メイド達はあえなく全滅。そして、男の魔法により、俺を見たら襲うよう、指示したらしい。


 そこで記憶はプッツリ、のようだ。


 目配りで、真雫とリーベに確認をとる。二人とも頷いた。……これどっちの反応?多分、嘘はついていない、の方だろうけど。


 だが、嘘をついていないとしても、腑に落ちない点がある。


 それは、魔法の件だ。精神魔法は、大勢にかければかけるほど、それ相応の魔力量が必要になる。メイドはざっと30人ぐらい。人一人が一斉に精神魔法をかけられるほどの量ではない。物理的に、俺でもない限り無理だ。


 俺と同等の魔力量を保有していない、という前提でいけば、精神魔法を大人数にかけるには、方法は2つ。


 1つ目は、道具。つまり魔法道具だ。どう言った魔法道具かは見当はつかないが、可能性としては一番高いだろう。


 2つ目は、他にも人がいて、そいつらと共同で精神魔法をかけた、という方法。こちらは無理ではないが、色々と面倒であり、あまりやろうとは思わないだろう。口止めもしないといけないから、余程信頼している人じゃないといけないしね。


 俺的には、魔法道具が怪しいと睨んでいる。


「次にその男を見つけた時、俺か公爵に言っておいてください」

「承知致しました」


 丁度いい時に、館のドアが開く音がした。同時に「お帰りなさいませ」と執事たちの声が聞こえてくることから、バータ公爵だということが分かる。


 俺はそれを機に、部屋から出て公爵のところへ向かった。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 再び、応接間。今度は目の前に公爵が座っている。情報交換、と言ったところだ。


「まず、ノアさんから話してくれ」


 そう言われ、魔法ベルトポーチから確定的な証拠を出していく。多分偽物だろうけど、可能性は捨てきれない。


「…………」


 公爵があまりの確定証拠の多さに黙ってしまった。分かります、その気持ち。


 気を取り直したようで、俺にこの証拠が手に入った経緯を聞いてきた。それに応じて、俺も経緯を伝える。


「うむ、これは……どうだろうな。ラウト公爵家を貶めようとしている家、もしくは一個人かもしれない」


 流石に公爵でも真実の行方は分からないか……。


 次に、公爵が見つけた証拠を出してもらう。


 出てきたのは、軽く1000ページは越えてそうな数の書類だった。……まさか、これを今から読むのか……?


「察しがいいな。これにはラウト公爵家に関係のある家のリストと、その詳細が載ってある。所謂歴史だがな。これなら、ラウト公爵家に恨みや妬みを持っている家の詳しい情報が分かるだろう」


 なるほど、といいたいが、これは流石に俺とこの人とでは多すぎる。真雫とリーベも道連れにしよう。ごめん、二人とも。


 外で待機していた2人を部屋に入れ、経緯を説明して、作業に入ってもらう。二人とも何の嫌気もなく手伝ってくれたのが幸いだ。後でなんかお礼をしよう。


 そんなことを考えながら、分厚い書類に目を通す。


 そして、約4時間。


 分かったこと。ラウト公爵家は敵が多い。以上。


 巫山戯ているのか、と言われそうだが、本当にそうなのだ。実績は高いのだが、周りの貴族への重圧を多くかけていて、どの家に恨まれようと無理はない、という状況だった。


 真雫や公爵、リーベの調査結果も総合した結果なので、この書類だけでは、どの家の犯行かは分からない。


「ああそう、それともう1つ。今から約1時間後に王の御前でこの事件の裁判会が開かれる。君も出席してくれ」


 ……え?早くね?確か事件があったのは1日前だよね?事件翌日に裁判?どういう事だよ。この国ってやっぱりおかしいよな。


「そこで一度ラウト公爵家を追い詰めるつもりだ。証拠も持ってきておいてくれ」


 多分ラウト公爵家の仕業ではないと思うけど、可能性がゼロではない。


 公爵は準備があると言って、部屋から出ていった。


 それにしても裁判かぁ。人生初だな。ミスしないようにしよう。

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