4.不安

 国王陛下の先導で着いたのは、先程の図書館とは趣が違う図書館らしき場所だった。魔道実験室みたいな名前だったら、しっくりくるような場所だ。想像以上に狭い。


「はい、これだよ」


 アビリティプレートとは違い、今度は白金色のプレートを渡された。


「これはステータスプレートというものでね。これも血を垂らすと、己の基礎能力が分かるんだよ。アビリティプレートよりも高価だから、気をつけて扱ってくれ」


 言われた通り、慎重に血を垂らす。これも情報が空中投影された。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


カミジキ ノア

基礎能力

《普通状態》

攻撃:150

防御:125

俊敏:175

体力:190

魔力:5000


《魔眼覚醒時》

攻撃:1500

防御:1250

俊敏:1750

体力:1900

魔力:50000


《魔眼共鳴時》

攻撃:4500

防御:3750

俊敏:5250

体力:5700

魔力:150000


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 ……え?魔力が飛び抜けすぎなんですけど?他と10倍以上差がある。しかも共鳴時は、10万超えている。国王陛下曰く、国最強の騎士、パラディンでも基礎能力が全ておよそ2500ないぐらいらしい。基礎能力は鍛えれば上がるそうだ。それでも、俺のこの数値は異常だろう。ちなみに、一般は平均100が普通らしい。


 横では、やはり真雫が苦戦していたので手を貸す。投影された情報は……


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


ホシミヤ マナ

《普通状態》

攻撃:100

防御:190

俊敏:150

体力:125

魔力:3000


《魔眼覚醒時》

攻撃:1000

防御:1900

俊敏:1500

体力:1250

魔力:30000


《魔眼共鳴時》

攻撃:3000

防御:5700

俊敏:4500

体力:3750

魔力:90000


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 真雫もチートと呼べるような基礎能力だった。転移者は、最初から規格外が普通らしいが、それでも俺たちは飛び抜けているらしい。主に魔力が。なんか、恐ろしいな。


「ふむ、これでクリアだな」

「クリア?何がです?」


 何故か国王陛下は微笑むと、数秒間を置いて、


「明日、君たちの授爵式を挙げる。しっかりと休んでくれ」

「……は?授爵式?何で俺たちが貴族になるんです?」

「代々そうしていたのだよ。君たちも嬉しいだろう」


 ここでの貴族の立場がわからない以上、喜んでいいのかわからない。少々嫌な予感がする。


「ではまた明日。部屋は王宮に用意してあるから、そこの使用人に案内してもらってくれ。部屋は一つしか取れなかったが、そこは勘弁してくれ。それでは、私は仕事がある」


 俺たちが唖然としている間に、国王陛下は奥に消えていってしまった。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「必要なものがございましたら、私たちに申し付けください」


 バタン、と音を立てて扉が閉まる。


 俺たちが案内された部屋は、ホテルなどで言うVIPルームみたいな場所だった。

 

 浴槽は所謂ジャグジーだし、部屋の大きさもうちのアパートの3倍以上だし、キッチンも完備されているし、ベッドもソファもなんかすごく大きくて高そうだし……ってちょっと待った。


 あることに気づき、もう一つあるはずのそれを探す。丁寧に全部屋探したが、ない。


 そう、ベッドがひとつしかないのだ。確かにやけに大きいなとは思っていたが、まさかそういうことだとは。


 元中二病の俺には、友達が少ない。勿論、女友達も、だ。だから、女の人にはあまり耐性がない。確かに真雫は幼馴染だが、それでも同じベッドの上で寝るのはちょっと……。今更だが、個別の部屋にして欲しかった。


「真雫、夜、寝るときは俺はソファで寝るから、真雫は1人でベッドを使ってくれ」

「やだ」

「……は?」

「ノアも一緒」

「いやいやいや、なんでだよ!」

「なんでも」

「答えになってないわ!」


 そのまま押し問答が続いたが、何故か真雫が意地を見せて、1歩も引かなかった。結局俺は押し問答に負け、真雫と一緒のベッドで寝ることになった。このことはもう意識しないようにしよう。


 時は過ぎ、夜。


 侍女らしき人が運んできた豪華な料理に舌鼓を打ち、ついでにこの国のことをある程度侍女に聞いた。


 海に近いため、主要産業は漁業ということ、世界で国土面積が1番大きいこと、戦争で負けたことがないこと、社会主義国ということ。聞けば聞くほど、この国のことが分かる。しかし、明らかにこの国の悪い面を話さそうとしない。まぁ、無理に聞くことでもないか。どんな国でも、黒い部分はあるだろうからね。


 食事を終え、俺は読書をしていた。別に読書家、という訳でもないが、とにかく暇だったのだ。今後のことを真雫と相談したいが、真雫は食べすぎた、と言ってどこかへ行ってしまった。


「ノアー、こっち来てー」

「はいはい」


 真雫に言われ、声のする方へと歩く。リビングらしき場所から聞こえたからリビングに行ったが、誰もいない。


「こっちこっち」


 ひょこっと、ベランダのドアから真雫が顔を出していた。ベランダに出ていたのか。多分、夜風に当たりたかったんだろう。真雫に招かれ、俺もベランダに出る。


「おぉ」


 感嘆の声が漏れ出てしまった。月に照らされて、街が輝いている。今までで見たこともないような綺麗な空の星々とも相まって、どこか寂しさを感じさせるような景色だ。控えめに言って、綺麗。


「綺麗だな」

「うん」


 真雫はこの景色を俺に見せるためにここに呼んだみたいだ。今も目を輝かせてその街並みを見ている。目を輝かせて街並みを見る美少女。……意外と絵になるな。


「……?どうした?」

「……いや、なんでもない。先風呂入ってるな」

「うん」


 魅入ってしまっていたようだ。言葉を濁してその場を去る。


 とりあえずクローゼットにかけてあったバスタオルを持ち、浴室へ向かう。あっ、そういえば替えの服はどうすればいいのだろう。


 部屋の扉を開け、1番近くにいた侍女に替えの服の有無を聞く。「少々お待ちください」と言い残すと、向こうへかけていき、1分で戻ってきた。寝間着と下着、そして明日のための礼服や外で活動するための服だ。真雫の分もある。


 服を受け取り、早速服を脱いで浴室に入る。


「分かっていたけど、やっぱり広いな」


 改めての浴室の広さに、感想が口に出てしまう。よく見れば黄金のライオンの蛇口まである。初めて見たな、あれ。


 さっさとシャワーを使い体を洗って浴槽に入る。この匂いはアロマか?こういうのには疎いからよくわからん。


 肩まで湯船に浸かり、今日1日を振り返る。異世界転移して、その先で邪神退治任されました。以上。展開が早すぎて、頭がまだ整理しきってないのか、未だに実感がわかない。


 とりあえず、今後の方針について考えるか。

 

 邪神は退治する方針でいいだろう。話を聞く限り、名の通り悪いヤツみたいだし、恐らく俺たちが転移者というだけで敵対してくるだろうしね。


 ただ、相手のことがわからなさすぎる。歴代の転移者で倒せたなら、国王陛下に歴代最強といわれた俺たちでも倒せるかもしれない。でも、全てたまたま勝てたのかもしれないし、勝てる確信がつくまであまり目立って行動しないようにしよう。もしかしたら、近くに邪神教信者みたいなヤツもいるかもしれないからね。


 そしてその後のこと、邪神退治を成したあとのことだけど……。やはり地球に帰りたいかもしれない。家族や数少ない友人のことも気になる。何年後になるか分からないが。ただ、どうやって帰るのか、それが問題だ。俺らを転移させた神々に頼めば、帰してくれるだろうか。最悪、それ系の魔法を探すとしよう。司書らしき人が言っていた空間魔法を使えば行けるかもしれない。


 そういえば、魔法は火属性魔法みたいな汎用魔法は、この世界にはあるのだろうか?もしあるなら、俺達には使えないのだろうか?ここら辺も明日調べてみるとしよう。


 まとめると、


・邪神退治

・地球帰還


 が、今後の方針だ。とりあえずこれを行動理念に動くとしよう。


 ガラガラ、と扉の開く音が浴室に響く。ギギギ、とぎこちない感じに首を振り向かせると。真雫が体に1枚布を巻いた状態で立っていた。


「ちょっ、真雫!?」

「何?」

「何?じゃない!?なんでいる!?」

「お風呂に入るため」

「簡潔且つ分かりやすい説明ありがとう。でもそうじゃない!」


 マジでなにやってんの!?いくら幼馴染でも異性の人と裸の付き合いは無理だ!


「話がある」

「後にしてくれよ!?ここじゃなくてもいいだろう!?」

「ダメ。今じゃないと話さない」

「いや、でも、」

「ダメ」

「……ぐう」


 かろうじてぐうの音は出た。聞く感じ、重要な話みたいだし、仕方ない、ここで聞くか。真雫に視線がいかないよう、壁の方を向く。


「これから、どうする?」


 なんだその事か。ちょうど頭の中で今後の方針が決まったところだったので、そのことをすべて話す。真雫も、今後の方針については異論なしのようだった。流石に女子と風呂で二人きりは精神衛生上良くないので、かつてないスピードで浴室を出る。【身体強化】にひたすら感謝した。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 髪を乾かした後、俺はソファで寝転がって読書していた。この作品意外と面白い。


 題名は『二人の英雄の夢想曲トロイメライ』。魔神を倒した英雄、デイシードとレーギシードが圧政を敷く王にたった2人で歯向かう、という話だ。デイシードとレーギシードは恋仲であったが、デイシードは王の手下の部下、ダナによって殺され、レーギシードは怒り狂い、命を賭して王のいる王国を滅ぼす、という物語だ。登場人物の心情が繊細に書かれていて、とても気に入った。もう2回読み終わっている。


「ノア」


 頭にタオルをかけている真雫が立っていた。読書に集中しすぎて気づかなかったみたいだ。真雫の顔を見れば、少し赤みがかかっていて、艶っぽい。


「どうした?」

「…………」


 真雫が俺の服を無言で引っ張る。ふぅ、と一息ついて、本を閉じ、真雫に連れていかれる。ついた先は、ベッドだった。


 いかがわしいことが頭に浮かぶが、真雫のことだ、それはない、勘違いだ、と心の中で首を振る。


 案の定、背中合わせに寝るだけだった。……ガッカリしてないからな?


「ノア……」


 不意に真雫が、右手を握ってきた。一瞬ビクッ、として、まさか……と思ったが、その考えも一瞬で吹き飛んだ。真雫の手は、震えていた。


「私たち、大丈夫かな……?」


 明るく振舞っていた真雫だが、実は不安を感じていたようだ。それはそうだろう。俺も不安は感じているんだ。真雫も不安ぐらい感じるはずだ。


 でも、俺は大丈夫、なんて正直言いたくない。確信のないうちに、そういうことを軽々しく言いたくないから。でも、それで真雫の不安を少しでも拭えるなら。俺の不安も拭えるなら。


「きっと大丈夫だ。俺達には、魔眼と並外れたチートといえる基礎能力がある。それを使っていけば、きっと、な」


 より安心できるよう真雫の手をしっかり握り、自分にも言い聞かせるように言った。


「……うん」


 そう手を繋いだまま、俺達は眠りに落ちた。

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