第十三話 そのころ・・・
リンとマヤとミトナルが王都に向かった。
神殿は、ギルドに任されていた。
リンとマヤが居なくなった神殿では、ロルフが管理を行うのだが、ロルフは、リンの眷属たちの統率を行っていて神殿の運用までは手が回っていない。
リンからも神殿の裏側はロルフが手を出してもいいが、居住区と通路はギルドに任せるように言われている。
残っているメンバーは、それぞれが生き残るため・・・。と、いう思いは持っているが、それ以上に、自分の想いを叶えるために行動を起こし始めている。その中でも、イリメリは精力的に動いている。
森の村とフリークス村を行き来して、必要な物資の調達を行っている。アロイの町に出かけて、物資の調達を行う事もある。
メルナには、リンの邸だけではなく、行商人の窓口や貴族に物資を売る者たちがいる。アゾレムのマガラ渓谷の通行料の値上げが、皮肉な事にリンたちの神殿勢力にとって都合がいい方向に動いている。
本来なら、メルナにいる商人や行商人たちは、マガラ渓谷を越えてマカ王国や近隣の村や町との交易を行う。しかし、現在はマガラ渓谷を越えるために必要な金と物が負担になってきている。そのために、越えるための資金を抑える目的で、一部の者だけがマガラ渓谷を越えて戻ってくるようになっている。託した物や商品を受け取るためにメルナに留まっている。
イリメリは、商人たちに物資を売ることで資金を得て、アロイで必要な物資の調達を行っている。
忙しく駆け回っているイリメリを呼び止める声がした。
「イリメリ!」
イリメリを呼び止めたのは、神殿の中で、宿屋兼飲食店を開業させるフェナサリムだ。
「なに?」
「宿屋の準備が出来た。食事処もオープンできそう」
フェナサリムは、日本式の宿屋と食事処をオープンする予定にしている。
従業員は、イリメリの故郷から流れてきた者たちだ。表に出られない者もいるが、大丈夫だと判断した者たちは、神殿で生活を行う。商店やギルドで働くことになっている。
表に出られない若者は神殿の
最初は、タシアナやイリメリやルアリーナやサリーカやフェナサリムの護衛だったのだが、彼女たちはスキルが優秀なためなのか、すぐに戦闘になれてしまった。そして、忌避感が拭われてからは、本人たちの意識が変わったためか、護衛の役割が逆転してしまっていた。
今では、
「わかった。セバスさんには伝えた?」
「ルナが伝えてくれた」
「ギルドは?」
「そっちは、ナッセさんが基本方針を決めれば終わりかな?そうだ。イリメリ。ロルフを知らない?」
「え?ダンジョンに居ない?」
「うん。ヒューマが居たから聞いたけど、ダンジョンには居ないみたい」
「わかった。フェムは、今からギルド?」
「ううん。メルナに移動して、セバスさんと打ち合わせ」
「わかった。ロルフを見かけたら、フェムが探していたと伝えておくね」
リンが居ない間に、神殿は同級生たちによって整えられている。
ギルドの稼働は、まだ時間が必要だが、通路としての神殿の稼働は可能な状況になっている。
メルナにある門は、4つ作られた。セバスが、運営のシミュレーションを行って、アデレードがロルフに交渉を行った。神殿は、人を招き入れることで力を得るが、表面的な運営は”金銭”を得て行っていると見せかけた方が、疑念を抱かれない。4つの門と、森の村に設定されているカバーストーリー用の門。アロイ側の門は3つと決まった。神殿で暮らす人が増えたために、設置と維持ができる門が増えたために実現された。
リンが求めていた門の設置は準備だけが行われている。
メルナに設置された門は、”上級貴族用の門”と”中級以下の貴族と豪商と裕福な者たちが使う門”とその他が使う門だ。一つは、従業員用としている。
門は、神殿が作る物だが、設置場所が違っている事や、設置された施設が違っている。サービスの違いで、金額が違うと考えればよい。神殿内部に接続する場所も変えている。
フェナサリムが窓口になって、セバスと話をして決めている。
決まった内容で、ロルフに神殿内部の改変を頼むことになっている。
「お願い。あっ!イリメリにも参加して欲しい。あと、タシアナとルナも!」
「わかった。場所は、ギルドでいい?」
「うん。ナッセさんも居るだろうから、最終決定をお願いしたい」
「了解。やっぱり、貴族向けと庶民向けは別ルート?」
「うん。アデレードは気にしなくてもいいとは言っているけど・・・。ルナは、分けた方がいいと考えているみたい。ナッセさんは、問題を起こしたら潰せばいいと・・・」
「ははは。それで、セバスさんと調整」
「うん。分けるのはいいけど、人員が倍では・・・」
「そうね。そうなると、金額も高くしないとダメだね」
「うん。だから、その辺りの調整をする」
「了解。お願い。私は、フリークス村の様子を見てから、ダンジョンに行く。誰か、ダンジョンに行っている?」
「タシアナが、タシアナの弟や妹を連れて行っているよ?」
「え?大丈夫?」
「低階層での採取と、アイルたちとの連携を訓練すると言っていた」
「え?スコル?」
「そう。ほら、森で新しい群れが傘下に入ったでしょ?ヒューマたちは、神殿の門を守るお役目がある・・・」
「そうね。リデルたちでは、リデルたちが”人”に狙われてしまうよね。ジャッロやヴェルデやビアンコやラトギでは、警戒されてしまうよね」
「それで、ブロッホ殿が森に居た物たちの・・・。一部だけど、アイルの配下になることを了承すれば、リン君が帰ってきてから、名付けを行うことを条件に、子供たちの護衛を依頼した。順番が違うかもしれないけど・・・。そんな感じ」
「わかった。安全なら、いいと思う。採取は必要だけど、私たちだけでは手が回らなかったのも事実だよね」
「そうだ!森の村で、鍛冶や加工ができる人はいるよね?」
「どうだろう?簡単な物なら大丈夫だけど・・・」
イリメリが言い澱むのは当然だ。
フェナサリムが求めているのは、自分たちが使う武器や防具の作成を行う者たちだ。カルーネやアルマールが居れば頼むことが出来たのだが、道が分かれてしまっている。合流は難しいと考えている。
今は、セトラス商隊から購入した武器や防具を使っている。試しに、ラトギやビアンコたちが武器の作成を行ってみたが、種族特性なのか同種族や類似種族の専用武器や防具になってしまう。使うことは出来るのだが、しっくり来ていない。
今はまだ、深い部分に入っていないが、これから訓練の密度を濃くして、力を付ける時に、今の武器では物足りないだけではなく、武器が付いてこられなくて、危険な目にあう可能性もある。
イリメリやフェナサリムが危惧しているのは、遠くない未来に確実に来る。同級生たちとの戦いだ。その時に、カルーネやアルマールが作った武器や防具を、立花たちが装着していると、1段も2段も上の力が発揮されてしまう。
神殿に残っている者たちが危惧しているのは、リンが立花たちに捕縛されることだが、リンのステータスを聞いて難しいとは思っている。それ以外としては、立花たちが権力を持つことだが、それもアデレードとルアリーナの分析では難しいだろうと思われている。
リンが王都に行くことを認めた背景には、リンの意向が大きいのだが、神殿と王家勢力・・・。特に、アデレードの兄である”アルフレッド=ローザス・フォン・トリーア”との繋がりが強くなることを考えた。最悪でも、ルアリーナの実家であるミヤナック家との連携強化が計れれば、神殿としえは、立花たちが得ると考えられる権力とは違う権力と結びつけられる。そのうえで、立花たちが権力を掌握した場合でも、王家からの命令という大義名分を得ることができる。
神殿が表に出る時期が近づいてきている。
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