第十五話 王都へは?


 神殿での役割が決まって、これからの事を決める前に、王都の奴隷商アッシュの所に行こうかと思っていた。


 王都の様子も気になる。

 教会勢力と宰相派閥とローザス派閥。それに、王族を指示する派閥が複雑に絡み合っている。正直、神殿に影響がなければ放置でもいいと思っているが、どうやら宰相派閥の中に、俺たちの”敵”が居るらしい。教会勢力も、いくつかに分断されている状況で、こちらに手を出してくるか解らない。友好的なのか、敵対的なのか、その時の状況次第だろう。


 数日は、神殿で皆に意見を聞きながら調整を行っていた。

 俺が、神殿の調整を行っている最中に、ロルフとミトナルが、森の廃墟を作り終わったと報告してきた。


 俺は、アデレードやルアリーナとイリメリと一緒に廃墟の確認に向かった。


 森の出口までの街道もいい感じになっている。

 所々、道が途切れるようになっている。他にも、木々に覆われていたり、土が露出していたり、風化しているようになっている。ミトナルの力作だと説明された。廃墟と言っているが、少しだけ手直しをしたら住めるくらいには整えてある。


 道の終着は、木々に覆われて、岩で塞がれる形になっている。

 本当に、こんな形で今まで眠っていたかのように思えるから不思議だ。


 アデレードもルアリーナもイリメリも感心している。


 廃墟の周りは、魔物が出ないようになっている。

 街道も、街灯になるような物が存在して、その周辺には魔物が入らないようになっている。街道には、強い魔物は入って来られないように設定が行われている。弱い魔物でも、俺やミトナルは余裕だが、アデレードでは対処ができない。今のルアリーナも難しい。多少、訓練を積んだイリメリだと1体だけなら対処が可能なのだと教えられた。


 これ以上に弱い魔物だけを通すのは難しいので、ここは訓練をしてもらう事になる。


 イリメリは、ここから隠れている人たちに話をするために、神殿から離れることになっている。


「リン君。行ってきます」


 イリメリが俺の所に来て挨拶をする。


「イリメリ。無理しなくていいぞ?人が居なければ、俺の眷属に廃墟は任せる事にする」


「うん。解っている。廃墟はいいとしても、アロイ側は人が居ないとダメでしょ?」


「まぁそうだけど、王都に居るアッシュに依頼してもいいからな」


「うん」


「まぁ無理するな」


「わかった」


 あの表情は、自分だけ何も出来ていないのを気にしている時の表情だ。

 白い部屋での事を気にしているようだけど、俺はあれがあって、覚悟が決まった。瞳の言葉にはびっくりもしたし傷ついた。だけど、瞳は瞳でギリギリだったのだろう。皆がギリギリの中で、俺だけ・・・。違うな。冷静なのは、もう一人鵜木和葉が居たな。まぁあの中でも、俺が冷静になれたのは、瞳の言葉がきっかけになった。瞳の本心なのか解らない。今は考えない。決めなければならない時に、聞けばいい。


 それに、俺はもう別の方法を考え始めている。

 その為にも、イリメリにも協力してもらう必要がある。イリメリだけではない。他にも、フェナサリムにも、サリーカにも、タシアナにも・・・。まだ、解らないことが多い。だけど、少しだけ解ったことがある。はっきりしたら、皆にも意見を求めよう。

 そして、協力を求めようと思う。その為にも、俺が力を付けなければ・・・。


 俺との挨拶の後に、アデレードとルアリーナにも似たような挨拶をしてから、イリメリは走り始めた。

 神殿の仲間たちには挨拶を済ませてあると言っていた。


 イリメリを見送って、俺たちは、神殿に戻ってきた。

 戻るのは、俺がロルフに指示を出せば、転移の発動ができる。神殿の領域内という条件があるが、便利だ。


「リン様」


 神殿に戻ってきて、皆に合流するために、歩いていると、アデレードが話しかけてきた。


「アデー?」


「はい。先ほどの、話の中で出た、”アッシュ”は、奴隷商の”アッシュ=グローズ”ですか?」


「そうだ」


「それなら、お兄様の・・・」


 アデレードが言い難そうにしているので、抵抗があるのか?

 違うな。アデレードの表情から、話しにくいという表現が正しいか?

 もしかしたら、ローザスの秘密の暴露になってしまうことに抵抗があるのだろう。


「あぁ言わなくてもいい。なんとなく、想像ができる」


 言わなくても解る。

 ハーコムレイがアッシュの店を進めてきているのだし、繋がりがあるのは最初から解っている。


 ローザスが抱えている部隊の独りなのだろう。


「はい」


 アデレードには、全部を言わなくてもいいと伝えておく必要があるかもしれない。

 言えない事や、言い難い事は、最初に”言えない”や”言い難い”と言ってくれた方が嬉しい。話が進められる。そして、俺たちの想像が間違っていなければ問題にはならない。知らなくても、話はできる。


「それで?」


「はい。彼を、神殿に誘致してはどうでしょうか?」


 誘致?


「は?」


 誘致が出来れば、戦力という意味では大きな前進だ。

 今のところ、転生者とアデレードと護衛してきた者たちと、セトラス商隊と、タシアナの弟妹が居るだけだ。

 セトラス商隊は、情報収集という意味では、大きな組織だけど、貴族家との付き合いがあるアッシュが入れば、大きく前進ができる。ルアリーナやアデレードの情報だけでは、裏の情報まで入ってこない。


「彼の商売は、忌避されやすいのですが、彼がやっている奴隷商は、教育を行う上に、買う時にも条件を付けるほどです」


「・・・。わかった。アデーが行くのは、無理だな。どうするか・・・」


 話を横で聞いていたルアリーナが、ニコニコしながら話に入ってきた。


「リン君。それなら、タシアナとサリーカを王都に送り込めば?」


 タシアナとサリーカ?

 二人なら、情報収集の意味では大きな戦力だけど、アッシュとの接触や交渉には不向きだと思う。


 アデレードは、”それはいい考え”みたいな表情をしている。


「ん?なぜ?」


 ルアリーナの提案の意味が解らない。

 二人だから・・・。


「護衛として、着いて行くのか?」


 サリーカのセトラス商隊の一部として着いて行くのか?


「はい」


 いい笑顔で、ルアリーナが頷いているけど、大丈夫なのか?


「大丈夫だと思いますよ?」


 今度は、アデレードが話を引き継いで、問題が無いように言ってきた。


「なぜ?入る時には、検閲が発生するのだろう?」


「はい。ですが、セトラス商隊なら大丈夫です」


「ん?あぁローザスの力か?」


「はい」


 ローザスの力を示せば、王都の門番程度なら軽く通過ができるだろう。

 セトラス商隊が楽に王都に入ってくるのにも事情があったのだな。何度も使える手ではないと言っているので、裏技みたいな方法なのだろう。


「わかった。タシアナを連れて行くのは?」


 二人は顔を見合わせる。


「私だけで、アデレード殿下を守るのはおかしいでしょ?」


「ん?あぁ従者という立場なのか?」


「うん。正確には、タシアナとサリーカが主人で、私たちが二人の従者になる」


 不思議な表現だ。


「え?」


 考えてみれば、ルアリーナとアデレードは王都に居ないことになっている。

 実際に、神殿にいるわけだが、今は身代わりがミヤナック領に向っている。ミヤナック領に向かっている二人が王都に現れたら・・・。


「フェムは、王都では顔を知られている可能性があるでしょ?」


 確かに、フェナサリムは王都にある宗教都市ドムフライホーフの入口近くにある宿屋兼食事処の看板娘だ。


 それなら、王都で暮らしていたタシアナも・・・


「それは、タシアナも同じ・・・。あぁそうか、今のタシアナを見て、パシリカ前のタシアナを連想するのは無理だな」


 俺たちの中で、パシリカの前と後で大きく変わったのは、タシアナだろう。

 施設での生活から抜け出して、服装だけではなく、いろいろ変化した(らしい)。父親のナッセが言っている。


「でしょ?」


 今度は、アデレードが置き去りになっている。

 でも、ルアリーナの言っている事は解る。


「それで、リン君?」


「ん?」


「私たちに眷属を紹介して!」

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