第六話 料金設定


 屋敷に戻って、セバスチャンにゲートの説明を行った。

 仕組みは、俺も理解していないので、”こういう物”とだけ理解をしてもらった。セバスチャンと屋敷に戻って、神殿側のゲートやアロイ側に作ったゲートに関する修正箇所の聞き取りを行った。セバスチャンが考える問題点を上げてもらった。


 簡単に言えば、貴族用は手続きを煩雑にして、”自分が優遇されていると思わせる方がいい”という事だ。簡素な手続きでは、面倒な貴族や豪商は、軽く見られると思うようだ。神殿側のゲートを出た先に、貴族用の個別の部屋を設置する。ここで、手続きを行うのだ。最初は、ギルドに任せようと思っていたのだが、貴族家や豪商は、面倒なマナーや矜持があるので、屋敷の者で対応することになった。


 屋敷には、既に20名を越える者たちが働き始めている。執務室と主寝室だけは設置したが、それ以外は自由にしてもらっている。セバスチャンの話では、倍の人数でも足りないと言われた。

 俺が、ローザスたちから貰った”森”を含める土地の広さから、侯爵家に近い伯爵家と同じくらいの格式が必要だと言われた。


 そこで、心配になったので、セバスチャンに資金面の状態を聞いた。


 賃金は、数年は大丈夫だと言われて、確認を行った。

 それだけではなく、セバスチャンに注意されてしまった。


「旦那様」


「なに?」


「ふぅ・・・。旦那様は、主人として必要な素養はお持ちのようですが、大事なことが抜けています」


「え?」


 主人になったことがない。

 貴族になるつもりも全くない。屋敷や森は押し付けられた物で、全部ニノサが悪い。


「私たちは、旦那様の奴隷です。私たちへの配慮はありがたいのですが、必要はありません」


 そういえば、奴隷だった。

 これから増える人員も奴隷でまかなうと言っていた。

 神殿に繋がる屋敷の管理を行う関係上、セキュリティを高めたいと思っていた。


「でも、俺は貴族ではない」


「関係はありません。それに、旦那様に私たちは救われた気持ちです」


 ”救われた”

 屋敷の者たちからも”救われた”と言われたが、”何”から救われたのかは、教えられていない。時期が来たら、アッシュから説明するとだけ言われた。気にしてもしょうがない。俺や神殿を”裏切らない”ことだけでも、解っていれば十分だ。


「そうなのか?」


「はい。金銭的な部分は、お任せください。旦那様には、神殿街に入る入場料の設定をお願いします」


 賃金を含めて、セバスチャンに任せて大丈夫だと言われている。

 俺は、俺の財布だけで生活を行う。神殿に籠ることを考えれば、生活費は必要がない。マヤとミトナルの二人も同じだ。ギルドが正式に動き始めたら、魔石を換金したり、素材を売ったり、討伐を請け負えば、生活には困らないだろう。


「うーん。マガラ神殿の通行料よりは安くしたいけど、あまり安いのもよくないのだろう?入場料だけで、この屋敷の維持をまかなうのは難しいか?」


 セバスチャンも解っているのだろう。

 頷いてくれている。マガラ渓谷の通行料よりは安く設定をしたい。しかし、そうなると通行料だけで、屋敷の維持ができない可能性がある。この場合は、補填を考えなければならない。補填の金額次第では、なにか考えなければならない。

 はじめに解っていれば、対処を考えることができる。


「可能だと思われます」


「え?本当?」


 ん?

 大丈夫?本当に?


 確かに、マガラ渓谷の通行料は安くはない。

 しかし、想定している通行量では・・・。セバスチャンは、自信があるように見える。奴隷だから、賃金は必要ないとか言い出さないだろうな?


「はい。屋敷の維持を含めまして、アゾレムが設定している半分の入場料でも十分だと考えます」


「マガラ渓谷は・・・。それほど、多くの者は使っていないよな?」


 俺が懸念しているのは、俺たちがマガラ渓谷を越えようとしていた時にも感じたのだが、利用者が少ないことだ。

 マガラ渓谷を越えた先にあるのは、マカ王国だが、マカ王国との交易はアゾレムや宰相派閥の者が取り仕切っている。その為に、王都に入ってくるのも、アゾレムや宰相派閥の者たちが、マカ王国と交易した物で、奴らが関税以上の利益を上乗せしている。


 セトラス商隊などの村や町を繋ぐために行商を家業としている商隊は、マガラ渓谷を越えてまでマカ王国に行かない。


「”使っていない”ではなく、”使う事が出来なかった”が正解です」


「ん?どういうこと?」


「商隊でマガラ渓谷を越える場合には、アゾレムが定めた法では、1人1人で支払いが発生します。そのうえで、荷物の見分や重さで支払いが加算されます」


「そりゃぁ無理だな。神殿の入場料はどうしたらいい?」


 あの渓谷を、越えようとしたら、大変なのは解る。

 その上で、支払いが発生する。あの文章では、渓谷越えの最中に商隊の荷に何かあっても、アゾレムが保証はしない。


「入場の手間や渓谷越えの煩わしさを考えれば、同額でも貴族家は使うと思われます。セトラス隊にご確認を頂ければ、”詳細におわかりいただける”と、思いますが、商隊はマガラ渓谷の渓谷越えが厄介で、マカ王国との交易を断念しております」


「そうなのか?」


 マカ王国か・・・。

 よくわからない国だけど、交易を行うメリットがあるのだろう。


 アゾレムが領地替えをしてまで、マガラ渓谷を含む一帯を手中に入れたほどだ。宰相派閥の財布とまで呼ばれるようになったのは、マガラ渓谷があったからだけでは納得ができない。


 トリーア王国は、細長い領地を持っている。マガラ渓谷を背にして、領土を広げた。中央の湖に守られ、スネーク山脈に挟まれた場所を王都と定めた。そして、トリーア王国を大きくしたのは、宗教都市ドムフライホーフを王都の中に誘致したためだ。


「はい」


 基本は理解ができた。


「あっ!セブ。ギルドの紹介や、貴族や商隊以外も神殿を使うことになる。同じでは、高いよな?」


 貴族家のプライドとか俺には理解ができない。

 セバスチャンに任せてしまうのがいいだろうが、そうなると、手が足りなくなる可能性がある。


 それなら、貴族や豪商などの面倒な輩を、セバスチャンたちに任せて、それ以外をギルドに任せるほうがいいだろう。


「神殿内部での待遇に違いはあるのですか?」


「考えていない。あっ!ゲートは別にする予定だ」


 内部での違い?

 何が必要か解らないから、区別は考えていない。


「別のゲートなら大きな混乱はないと思われます」


 ゲートを別々にするのは考えていたけど、やはり貴族家は分けた方が無難だな。


「わかった。あと、貴族家は、下級貴族と上級貴族を分けるべきか?」


「”可能なら”と・・・。あと、出来ましたら、公爵家と王族も分けられた方がよいと思います」


「貴族用に、3つのゲートか?」


 ”可能なら”・・・。

 セバスチャンの表情から、分けた方がよさそうだな。

 建物は、セバスチャンが用意するだろうけど、ゲートの位置は、セバスチャンに相談しなければならないな。


 神殿で、ゲートの作製が可能か確認しなければならない。


「はい」


「わかった。あと、商隊向けとその他で分けるか?」


「可能なら・・・」


 商隊向けは、サリーカに聞けばいいかな?


 神殿のカバーストーリを合わせて、考えればいいかな?

 森の中心に向けての道を作る必要がある。馬車が通られるようにするのは、ギルドに依頼すればいいのか?


 考え出すと・・・。面倒になってくるな。

 森の中に隠れ村を作るか?


 ローザスやハーコムレイに相談したら、村民になるくらいの人間は用意できないか?

 犯罪者の集団では問題があるとは思うけど・・・。ポルタ村や、周辺の村は・・。アゾレムの配下だからダメだけど、伝聞で移住を施すくらいはできそうだな。税を安く設定して、農地があると言えば、移住を決断しないかな?

 村長や取り巻きは無理だろうけど、抑圧されている連中なら・・・。

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