第十七話 合流


 ドアが勢いよく開かれた。

 タシアナが、涙目のミトナルの腕を引っ張る形で、入ってくる。


 タシアナとミトナルの後ろには、ルアリーナとサリーカが続いて、フェムやカルーネやフレットやアルマールも居る。最後には、目を伏せたイリメリが続いている。イリメリは、ミアと手を繋いでレオの首輪を握っている。さすがは、委員長だ。ここでも、委員長をやっているのだろう。


 タシアナの目が怖い。

 俺を睨んでいる。涙目のミトナルから推測できる。俺が想定していた中では、最悪な部類だ。


 次は、タシアナがいうセリフも想像ができる。


「ギルドマスター。いえ、お父さん。少しだけ、席を外してください。少し、そこで、俺は悪くないという雰囲気で座っている、リン・フリークス殿に確認したいことがあります」


 きつい表情ではないが、覚悟を決めている声だ。

 ナッセは、俺を見て来るが、俺はナッセの”どうする”という表情と目線に、頷いて答える。


 ナッセが、立ち上がって、タシアナに何か話しかけてから部屋を出ていく、部屋の扉が閉められてから、多分、フレットだと思うが、スキルを発動した。結界に似た物だろう。声の遮断か?


 タシアナが、ナッセの座っていた場所に座る。

 ミトナルは、俺の横に座る。イリメリを探せば、後ろでミアに飲み物を出している。アルマールとカルーネは、レオを撫でている。モフモフが好きなのか?


「さて、リン君。質問に答えてください」


「あぁ」


「『ハッピーグルメ弁当』」


(・・・。ん?)


「どんどん?」


「『パヤと言えば?』」


「コンコルド?」


「・・・」


「・・・」


 そこで黙られると、こっちが困ってしまう。質問と言われたから直球で来るのかと思ったら、地元で流れた有名なCMのキャッチフレーズ?を質問してくるとは、それに、”パヤ”はないな。”学生服の”と言ってくれた方が面白かった。


「ねぇ」


「はい?」


「なんで・・・。なんで、黙っていたの?」


「え?」


 タシアナから、怒りとも、悲しみとも、なんだか解らない感情が噴き出してきている。


「黙って・・・」


 タシアナが立ち上がって、テーブルを強く叩く。


「黙っていたよね。教えてくれても・・・」「タシアナ!」


 後ろから、イリメリがタシアナを呼び捨てにする。


「・・・。ゴメン」


 タシアナが座りなおした。

 イリメリを見ると、申し訳なさそうな表情は変わらない。でも、吃驚しているミアを、ミトナルの所に向かわせている。カルーネとアルマールが撫でていたレオと一緒に・・・。


「フェム?」


 タシアナの肩に手を置いたのは、フェナサリムだ。


「リン君?神崎君?」


「あぁ」


 タシアナが立ち上がって、タシアナが座っていた場所に、フェナサリムが座る。タシアナは、イリメリの横に移動して、イリメリに抱きついている。学校で見たことがある図式だ。変わっていないのだな。


「ふぅ・・・。ミトナルが、帰ってきて、驚いたけど・・・。リン君が神崎君だと・・・。そのあとに、質問攻めのような状況になってしまって、ゴメン。言えない事もあるよね」


 ミトナルを見るけど、頷いている。怯えているのとは違う。タシアナの勢いに怯えていたのだろう。他にも、ルアリーナやサリーカからは、タシアナと同じ匂いがする。


「ううん。僕が、うまく説明ができなかった。リン。ゴメン」


「皆。凛君にも事情があった。そして、敵か味方か解らない者に素性をばらすのは・・・。もう、この件は、それで終わり。いいわよね」


 前から決めていたのだろう。フェムサリムの宣言のような話で、これ以上は、話さなかった理由の説明はしなくて済みそうだ。


「リン君。それで、ギルドの様子を見に来たの?ミトナルが何か、私たちに話があるらしいけど・・・。ほら・・・」


 ミトナルを見てから、タシアナとルアリーナとサリーカを見つめる。ミトナルが、3人に詰め寄られたのだろう。

 それで、俺がナッセと話をしていると聞いて、この部屋に殴り込んできたという流れなのかな?


 イリメリとフェナサリムが止めたけど無駄だった。カルーネとフレットとアルマールは、なんとなく一緒についてきたという所だな。


「ミルは、どこまで話した?」


 ミトナルを見ると、顔を上げて、俺の質問に答えてくれた。


「僕?リンが凛だって所まで・・・」


「わかった。長くなるけど、俺が王都を出てからの話でいいな?」


 フェムサリムが頷いたので、今度は詳細な話を始める。

 長くなると前置きをしていたので、気を聞かせて、カルーネとアルマールが飲み物を持ってきてくれた。座れるものはソファーに座った。


 それでも、イリメリは後ろに控えるようにして立っている。

 なぜか自分に罰を与えている印象がある。


 気にしてもしょうがないので、話を進める。


 マガラ渓谷に落された話と、村を殲滅した話も、しっかりと伝える。

 これで彼女たちが拒否反応を示したら、手を組むのは難しい。


 これから、俺たちは立花たちを殺すための方法を考えて、多くの人を巻き込むかもしれない、戦争になるかもしれない。嫌悪の感情があるのなら、ここで引いてもらったほうがお互いのためだ。


 俺は、もう決めている。覚悟を決められているとは思わないけど、それでも覚悟を決めたつもりになっている。守るべき者も場所もできた。


「それで、王都に向かう途中で、ミアたちの部族と出会って、ミアを預かった」


「ミアは、僕とリンの妹!そして、ミアは、僕をママと呼んで、リンをパパと呼ぶ!」


 ミトナルが、一気に補足にならない補足を入れる。

 ドヤ顔を決めてもなんの情報も伝えられていない。


「ミルお姉ちゃん?あるじは、あるじだよ?パパじゃないよ?」


 ミアが、空気を読まないセリフで、場の空気を戻してくれる。


「ミルとミアの話は、横にずらして、ここまではいいか?質問は受けるけど、答えられるとは限らない」


「リン。それで、マヤちゃんは無事なの?」


 ルアリーナからの質問だ。


「無事。完全に、無事とは言えないけど、無事だ。種族が、妖精に変わった。この辺りの話は、これからの話を聞いてからにしてくれ」


「・・・。それで?」


「俺がマガラ渓谷に落ちて、助かったのは、神殿があったからだ。その神殿を、仮にマガラ神殿と名付けたのだけど、この神殿は解りやすく言うと、ダンジョンだ」


「・・・。え?」


 まぁそうなるよな。

 俺も、話を聞く方なら、皆の反応に近い反応になる。


「リン君。大丈夫?」


「大丈夫だ。失礼だな。それで、マガラ神殿だけど、マヤが所有者で、俺が管理者になっている」


 皆の表情がよくわからない事を聞いた時と同じ表情になっている。

 予想していた通りの反応なので、次の話もすんなりとできる。


「今は、そういう物だと理解してくれ、実際に現場に行けば、また印象が違うだろう」


「わかった。皆。今、質問しても、話が進まないから、先に話を聞きましょう」


 またイリメリだ。やっぱり、委員長なのだな。フェムサリムがまとめているようだけど、やはりイリメリが率先して居るのだろう。


「ありがとう。マヤに何ができるのか・・・。まだ、解らない。俺の管理者は、ある程度は把握してきた」


 ここで、一息入れる為に、飲み物を口に含む。コーヒーもどきだが先ほど飲んだ物よりもおいしい。淹れ方が違うのだろうか?


「そうだな。ゲーム風に言えば、管理者はダンジョンマスターだ。マガラ神殿の改装ができる。地上への出入口の設定ができる。今は、アゾレム領にある森の奥に設定してある」


 その表情だと、サリーカは気が付いたようだ。


「ねぇリン君。話の途中で悪いけど、一つ教えて」


「なんだ?」


「その出入口は、どこにでも設置できるの?数は?」


「数は、わからない。場所も制限があるとは思うけど、現状では解っていない。ただ、マガラ渓谷から離れている場所は無理だ。アロイやメロナなら問題はない。正確なことは解らないけど、マガラ神殿の広さから森の橋はマガラ神殿の領域だと思う」


「そう・・・。そうなると、そのマガラ神殿の広さに依存しているって事?」


「多分だけどな」


「ありがとう」


 また、サリーカが考え始めた。


「それで、ギルドに提案を持ってきた」


 似合わないと解っていても、”にやり”と笑ってから皆を見回す。

 俺が言い出す事は、サリーカとタシアナとフレットは解っているような雰囲気だ。イリメリは、俯いてしまっている。


 すでに、ナッセにしている話なので、皆に聞かせないのは、おかしなことだ。


 俺とミルが持ってきた提案を皆に聞かせる。


「ギルドの本部を、神殿に移動させないか?」

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