第六章 ギルド
第一話 三月兎
ミルは、妖精の姿を気に入っていて、元のサイズに戻ったときにも、背中に羽を生やそうとしていた。
「ミル。やっぱり、羽は・・・」
「僕には、似合わない?」
可愛く言っても・・・。確かに、似合っている。似合っているが、人ではないのが解ってしまう。
「似合うよ。すごく、可愛い。でも、これから、王都に行くのに、スキルやステータスは隠蔽でごまかせるけど、羽は無理だからね?」
「うん。わかった」
ミルは、服の袖を握りながら、目を閉じた。
羽だけを消すようだ。
「これでいい?」
「完璧!」
「よかった」
ミルが腕を絡めてくる。
社から出て、街道に向って、森を歩いている。皆と相談はしたが、社への道は整備しないことにした。社の場所を隠したいという意図もあるが、それ以上に整備を行うのが面倒だという話をした。整備するメリットが思いつかなかったのも理由の一つだ。
俺とミルがゆっくりとした移動を行っているのは、次に”社”を作るとしたら、どこにするのかを見定めるためだ。
絶対の条件は、アゾレム領ではないことだ。実は、候補は上げている。あとは、王都で確認を行うだけだ。村長に聞いたことがある。社がある森は、王家の直轄領になっている。他にも、街道(を含む)から中央の湖までの間は、王家が所領としている。村を作るのに適していない為に、価値がないと思われている場所だ。それに、村を作る為の資材は、アゾレムから持ってくるか、国境を越えて共和国から運搬をするか、マガラ渓谷を越えなければならない。諸々の事情から、コストに見合う税収は難しい。
「ねぇリン。ギルドに、神殿を解放するのはいいとして、どうやって説明するの?」
「そうだよな・・・。それが最初に困るところだよな。茂手木が合流していたら、俺の素性をばらした上で、協力を求めてもいいとは思っている」
「ねぇ前にも聞いたかもしれないけど、なんで、茂手木君にそこまで拘るの?」
「うーん。ミル。この世界に来ている同級生を覚えている?」
「うん。バランスの話だよね?」
「そう。茂手木だけが、特別な感じがしている」
「うん」
「人数にも関係しているけど、茂手木はジョーカーだ」
考えれば、考えるほど、茂手木が鍵を握っているように見えてくる。
立花たちグループと、女子の対立だ。俺は、立花サイドには立たないから、必然として女子サイドになる。茂手木を懐に入れて、活用したほうが、人数で上回る。多数決ではないが、最終的には、支持を集めたほうが”よい”に決まっている。
「そう?」
「それだけではなく、茂手木だけは、異世界に来て喜んでいると思う」
「え?」
「茂手木は、異世界に行ったら、何をするのか考えていた。知識もある。それに、趣味はキャンプを含めたサバイバルだ」
茂手木のプロフィールを思い出しながらミルに説明を行う。それ以上に、アイツは”ハーレム”願望があった。エルフやケモミミの女の子を従えたいとか言っていた。
「あ!」
「意外と近いな」
途中から、小走りで移動した。
夕方くらいには、アロイに到着したかったからだ。でも、小走りが思った以上に早かったのかもしれない。アロイが見えてきた。
「リン。なんで、アロイは、町の柵があんなに貧弱なの?」
「アゾレムに聞かないと本当の所はわからないけど、前に調べたときには、魔物が発生するのは、マガラ渓谷側だけだから、守備隊が行動しやすいようにしているとか説明されていたよ」
「ふーん。ウソくさいね」
「多分、嘘なのだろう」
嘘なのはわかるが、何のために、わかりやすい嘘を説明として使っているのか・・・。理由が、わからない。
「リン?」
「なんでもない。ナナの店は覚えている?」
「うん。大丈夫」
アロイの中央広場から少しだけ離れた場所に、
以前に来たときと変わらない。
「いら・・・!リン君!それに、ミトナルちゃん!」
カウンターテーブルを乗り越えて、駆け寄ってきてくれた。
「ナナ。心配をかけた。俺は無事だ。マヤは、ちょっと・・・。あとで何があったのか・・・」「いいわ。いいわ。リン君が無事なら・・・」
ミルが後ろから、俺の服を引っ張る。
ナナが力強く、俺を抱きしめてくれている。
「いいのよ。リン君。無事なら・・・。何が、合ったか、教えて・・・。ね」
「あぁそのつもりだ。それで、少しだけ相談にも乗って欲しい」
「もちろんよ!サビニにも頼まれているから、何でも言って!あの腐った男を殺すのなら、手伝うわよ」
ん?
腐った男?多すぎてわからない。
ナナが、俺を解放してから、ミルを抱きしめる。そのまま、奥の部屋へ移動する。
声が外に漏れない状態にしてから、椅子を勧めてきた。
俺の横には、ミルが座って、正面にはナナが座った。
「それで?ミトナルちゃんには、簡単に事情を聞いたけど、何が有ったの?」
「あぁ・・・」
俺は、王都での出来事から、話をした。
長い話だが、ナナは黙って聞いてくれた。
マガラ渓谷で、殺されそうになった所では、ナナから発する”気”のような物で、室温が下がるように感じた。背中に汗が滴るのがわかる。
村長に復讐して、愚かな親に娘たちの死に際を伝えた所で、話を切った。
「そう・・・。やっぱり、サビニは・・・」
「わからない。わからないけど・・・」
「ありがとう。リン君のほうが辛いのに、ごめんなさいね。新しい、飲み物を持ってくるわ。少しだけ待っていてね」
ナナが、冷めた飲み物が入ったカップを持って部屋から出る。なにか、思うことが有ったのだろう。俺とミルを見比べるようにして見てから、立ち上がっていた。
ナナは、魔道具を切ってから部屋を出ていった。
「リン」
「ん?」
「ナナさん。いい人だね」
「あぁ」
店の厨房からだろうか、ナナの声が響いてくる。
「リン君。ミトナルちゃん。果実水でいいわよね?」
「あぁ」「はい。手伝います!」
「いいわよ。座っていて!」
戻ってきたナナは、コップを3つと、魔石を1つ持ってきた。
「それは?」
「魔道具の魔石が無くなりそうだったからね。予備を持ってきただけよ。入れ替えておけば安心でしょ!これから、話の本筋なのでしょ?」
十分に、問題な行動を話している。
ミルとマヤの話と、今後の話が残っているだけだが、たしかに、今まで以上に問題になりそうな話題だ。
「リン君も、ミトナルちゃんも、今日は、泊まっていくのでしょ?」
ナナは、魔道具の魔石を入れ替えながら予定を確認してきた。
「そのつもりです。部屋は、空いていますか?二部屋なければ、一部屋で二つのベッドがあれば・・・」
ナナは、俺の言葉を聞いてから、ミルを見る。ミルは、ナナの視線に気がついて、頷いた。
「残念。ベッドが2つある部屋が空いているわ」
「よろしくお願いします」
何が、残念なのか、わからないが、部屋の確保ができた。
「明日は、渓谷を超えるの?」
「そのつもりです」
ナナの手元での作業が終わって、魔道具を元の位置に戻して発動した。
「ふぅ・・・。リン君。ミトナルちゃん。渓谷は注意してね」
「はい。わかっています」
「うん。特に、リン君は素性がわからないようにしておいたほうがいいでしょう?」
「どうでしょう。もう死んだことになっていますし、問題はないと思いますが?」
「そうね。でも、用心はしておいたほうがいいでしょう。私の店からVIPチケットを出すから、使って」
「え?VIPチケット」
「そう、アゾレムのクズが始めたことで、渓谷の関所を超えるときに、荷物がなければチェックされないのよ」
「え?いいのですか?」
「あいつら、この辺りの店に無理やり買わせているよ。それも、通常の入場料の5倍以上の値段。買わないと、”店を出す許可を取り消す”と脅迫してね」
「なりふり構わない感じになっているのですね」
「そうなの、それで入場料もまた上がったのよ」
「・・・。ちょうどいいかもしれない。ナナ。ポルタ村の後の話だけど・・・」
神殿に戻った後の話をナナに聞いてもらった。
マヤの復活と、ミルとの関係を含めて、全てを語った。俺の懺悔になってしまったが、ナナは黙って聞いていてくれた。
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