第五話 ここどこ?


「ロルフ?」


「マスター。大丈夫ですか?」


 真っ暗な場所に出た。

 転移門の光が収まると、何も見えない。


「ここは?」


 やっと目が慣れてきた。

 小さい祠のようにさえ思える。


「マスター。どこかの祠のようです」


「さすが!猫だな。暗い中でもよく見えるのだな」


「マスター。猫型精霊です。猫ではありません!」


「そうだな。悪かった。俺も、目が慣れてきた。正面に扉があるけど、開けても大丈夫だと思うか?」


「わかりません。あの、転移門を使ったのも、10年前です」


「え?10年?」


「はい。それで、魔力がなくなり、休眠状態になったのです」


 10年。

 マヤが、連れられてきたのがそのくらいだ。もしかしたら、マヤは転移門を使ったのではないか?そして、何かしらの問題が発生して力を失った。


「考えてもわからないことは、わからない。出てみないと、始まらない」


「・・・」


 ロルフ猫型精霊が黙ってしまった。今までよりも、小さくなって、俺の肩に飛び乗ってきた。


『マスター。何者かの気配があります。これからは、念話でお願いします』


『え?わかった』


 ロルフ猫型精霊は何かを感じたのだろう。

 気配を感じるくらいは出来たほうがいいのかもしれない。


 扉を開けると、目の前には・・・。


『ロルフ。扉を閉めて、また開けたら、居なくなる・・・。なんて、ことにはならないよな?』


『無理ですね。マスター』


 完全に武装した、リザードマンたちが俺とロルフを囲むように、武器を突き出していた。


『ロルフ。言葉が通じると思うか?』


『マスター。意味が無いと思います』


『そうだよな・・・。勝てると思うか?』


『マスターは勝てると思いますか?』


『無理だな。逃げるか?』


『マスター。それも、難しそうです』


 ロルフ猫型精霊が、何かを見つけたようだ。肉球で、顔を前に向けさせる。

 そこには、屈強という言葉で物足りないリザードマンが立っていた。


 こちらに向かって、歩いてくる。

 俺たちを取り囲むようにしていたリザードマンが、その屈強な男は、俺たちの前まで来た。


「なぜ、そこから出てくる!」


【鑑定】

///名前:ドラゴニュート(20)

///真命:ヒューマ

///体力:2800

///魔力:1200

///腕力:1900

///敏捷性:1500

///魅力:100

///魔法:黒魔法(2)

///スキル:長剣武技(4)


『ロルフ。駄目だ。真命を持っている。それに、種族が、ドラゴニュートになっている。リザードマンの上位種だよな?』


『・・・。マスター。真命は?』


『ヒューマ』


『そうですか』


 ロルフ猫型精霊が俺の肩から飛び降りた。

 足元で、元のサイズを通り越して、ライオンと同じくらいになる。


 ロルフ猫型精霊を見ると、ヒューマは跪いた。


「ロルフ様。ご無礼をいたしました。隔世の祠から気配がすると見張りから連絡があり、約定の通りに致しました」


「ヒューマよ。ご苦労。汝の忠義。マノーラ神もお喜びであろう」


「ありがたきお言葉」


『おい。ロルフ。説明をしろ!』


『マスター。もう少しだけ待って欲しい。今、思い出してきた』


 思い出してきた?

 忘れていたな。


『わかった。大丈夫なのだな?』


『多分、大丈夫』


 多分と言われると不安にもなるが、目の前の状況を見れば、大丈夫だと言うのは解る。

 武器を収めて、跪いている。


 俺ではなく、ロルフ猫型精霊を見ている。


「ロルフ様。50年ぶりの来訪。何か、新しいご指示ですか?」


「ヒューマ。隔世の神殿は、マガラ神殿と名前を変え、新たな管理者を迎えた」


「え?その人族でございますか?」


「ヒューマ。我の言葉を疑うのか?」


「いえ、しかし・・・」


「ヒューマ。今一度だけ聞く、我の言葉を疑うのか?」


 ヒューマが、頭を地面に付けるくらいに下げる。


「もうしわけございません。ロルフ様の言葉を疑っておりません。しかし、その貧弱な人族が隔世の神殿の管理者とは・・・」


「ヒューマ!」


「いいよ。ロルフ。俺が貧弱なのは事実なのだし、認められないのなら、無理に認めてもらおうとは思わない」


「マスター。それでは?」


「ヒューマさん。俺は、貧弱な人族です。でも、俺には、やらなければならないことがあります。そのために、地上に出てきました」


「・・・」


「マヤの・・・。妹を殺した奴らに、報いと後悔を与えなければならない。それが、終わって、マヤが復活したら、俺は管理者の権利は必要ない。それまで、貧弱な人族が、貴方たちが大事にしている場所の管理者になっていることを許してもらえないだろうか?」


「ロルフ様。人族の言っている話は真実なのですか?」


「間違いはない」


「ロルフ様。その人族には、父親と母親は居るのですか?」


 なぜロルフに聞くのかわからないが、俺への質問だと思っていいよな?


「死んだ・・・。と、思う」


「・・・。ロルフ様。その人族の両親の名前と妹の名前は?」


 だから、なんでロルフに聞くのかわからない。ロルフは名前を知らないから、俺が答えるしか無い。


「ニノサとサビニ。妹の名前は、マヤだ」


「フリークスという名前に覚えがある。我の右目の傷は、ニノサ・フリークスに付けられた。左腕の怪我は、サビニ・フリークスの魔法によるものだ」


「え?」


「そうか、二人は死んだのか・・・。ロルフ様。その人族の妹が、マヤ様なのですね」


「そうなる」


 ロルフが答えるが、俺もヒューマに向かって宣言するように答える。


「そうだ。血は繋がっていないが、俺の妹だ」


「ロルフ様?」


「どうした?」


「ロルフ様。その人族・・・。リン殿と少しだけ話をさせて下さい」


「わかった。マスター。お願いします」


 ロルフが、俺の横に移動する。俺も、祠から一歩だけ外に出る。本当に、祠を囲むようにリザードマンたちが武器を構えていたようだ。今は、武器を下ろして跪いている。ヒューマだけがドラゴニュートという種族で、他はリザードマンだと思える。小声で、何かを話しているようだが、はっきりとは聞こえない。


「リン殿。まずは、我の言葉が解るのか?」


「え?普通にわからなければ、会話にはならないと思うけど?」


「やはり・・・」


「ん?ロルフ。どういうことだ?」


「あっ!」


「どうした?何かあるのか?」


「マスター。マスターは、魔物の言葉が解るのですか?」


「え?何それ?」


 言われてもピンとこない。

 普通に言葉として認識ができる。イントネーションに訛りがあるなとは感じるが、意味は解るし、言葉として認識できる。

 話しが通じているから、俺の言葉も通じているのだろう。


「ヒューマ殿。わかりやすく説明してはもらえますか?」


 ヒューマが言うには、リザードマンは人族とは意思の疎通が出来ない。俺が、リザードマンたちが話している内容が解ると告げると、驚かれた。俺も、驚いた。リザードマンたちは、俺の言っている内容が理解は出来ないようだ。

 ヒューマは、ロルフと話す時には、人族が古代語と呼んでいる。共通言語で話をしていたらしい。俺には、同じに聞こえた。エルフの長老の一部やハイエルフ以外では知らない言語なのだと説明された。知らないと言われても、俺は今までと同じ言葉で話している。


 ロルフ猫型精霊も俺には古代語で話しかけていたらしい。だから、俺が古代語を知っているのだと思っていたようだ。


 知っていたと考えるのが一番だが、ヒューマがリザードマンたちにだけ解る言葉で話しても、俺に通じてしまったのだ。


 言葉の件は、そういうものだと受け入れてもらうしかないと思っていたが、ヒューマは違う解釈を持っていた。


「リン殿。先に、ニノサ・フリークスとの話を聞いて下さい」


「あっ。うん。ニノサが何か迷惑をかけた?」


「・・・。ニノサ・フリークスは、”ヒューマ”という名を我に与えてくれました」


「え?名付けをしたってこと?」


「はい」


「それなのに、戦ったの?」


「逆です」


「逆?」


「はい。我が、まだ長老の座についていない。リザードマンの戦士でした」


 話を要約すると、10年前に祠から一人の少女が現れた。

 約定に従うと、人族の子供だった場合には、近くの村に引き渡すのだが、40年の間に、村は町になり、町は街になり、人族は約定を守らなくなっていた。しかし、リザードマンでは、人族の子供は育てられない。

 そこで、リザードマンの戦士だったヒューマが、近くに居る人族を連れてくることになった。


 近くに居たのが、ニノサとサビニだった。二人は、他のリザードマンと戦闘中だった。リザードマンの苦戦を感じだ、ヒューマが戦闘に参加した。ニノサとサビニの攻撃で、怪我を負ったヒューマだったが、仲間を逃がすために必死に戦った。だが、約定があり、ヒューマには人族を殺せなかった。

 殺気が籠もっていない攻撃を、不審に思ったサビニが攻撃を止め、ニノサを止めた。

 会話が成り立たないが、サビニが単語だけの古代語でヒューマと話をして、ヒューマの意図を感じ取った。


 ニノサが、ヒューマに名付けをしたのはこの時だった。どうやって、名付けが成功したのかは、誰にもわからなかった。

 ただわかっているのは、保護したはずの”女の子”がその場に居て、倒れそうな位に衰弱していたことだった。

 ニノサからの名前を受け入れた、ヒューマは”念話”でニノサに事情を説明した。念話なら、古代語でも話がある程度は通じたのだ。


「そうか・・・。話は繋がったが・・・」


 まだ何か隠されていそうだな・・・。

 でも、ニノサもサビニも居ないし、マヤに聞いても覚えていないだろう。ヒューマも、あまり詳しい事情はわからないようだし、ご都合主義だけど、気にしないでおいておいたほうが良さそうだな。

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