第三話 神殿の調査


「マスター。行き先が不明の転移門ゲートを開く前に、施設の案内をしたいのですが、問題はありませんか?」


 リンは少しだけ考えてから、ロルフ猫型精霊の提案を受けることにした。

 この場所がわかれば、対応も変えなければならないと思ったのだ。同時に、ゲートが他にも存在しているのではないかと考えたのだ。


 他にも、疑問点が山積みで、リンは案内をされながら、ロルフ猫型精霊に質問を続けた。


「ロルフ。適合者には、何か特別な印があるのか?」


『まずは、精霊が見える必要がありますが、絶対ではありません。それ以外は、不明です。マヤ様と波長が合えば、可能性が高いです』


「ん?ロルフの声が頭の中で響いたぞ?」


『念話です。マスターが、スキルを所有していますので、念話の方が楽です』


「わかった。念話だと、俺以外には聞こえないのか?」


『聞こえません』


「俺から、ロルフに念話を送れるのか?」


『可能です』


 リンは、ロルフに念話を繋げたいと考えた。リンが知っている念話ではない。今までだと、念話で繋がる人物を選ぶ感じになっていたが、同じように行っても、”ロルフ”が選択肢に出てこない。マヤとミルも範囲外になっている。


「うーん。よくわからないな」


『マスターの熟練度レベルが足りない可能性があります』


「そうか、どうしたら、念話の熟練度レベルが上がる?」


『まずは、繋げる必要があります』


「わかった」


 リンは、ロルフに言われて、ロルフを抱きかかえるようにして、念話を繋げる。

 それで、選択肢にロルフが現れるようになる。


『これなら、話せる』


『はい。ですが、選択は手間です。熟練度レベルを上げましょう』


『このまま話していれば、熟練度レベルが上がるのか?』


『はい』


 そのまま、念話で会話を続けた。

 魔力を使うのだが、近くでの念話なので、さほど気にならない。消耗してきたら、念話での会話を止めればいいと考えていた。


『それにしても広いな』


『以前は、ここに街がありました。神殿街と呼ばれていました』


『神殿の関係者が住んでいたのか?』


『いえ、違います。マノーラ様を信じる者たちが住んで街となっていました』


『政治体制は、宗教一体型なのか?』


『マスター。質問がわかりません』


『えぇーと。簡単にいうと、神殿のトップが、物事を決めていたのか?法とか・・・』


『あぁ違います。各セクションに分かれていて、セクションのトップが話し合って決めていました。神殿は、話し合いには参加していません』


『そうなのか、意外と進んだ政治体制だったのだな』


『はい。マノーラ様は特別だったと思います。他の神々は違う形です』


『そうなのか?』


『はい』


 リンは考え込んでしまった。

 白い部屋で話をした神はとマノーラは別だと思える。他にも神が居るような雰囲気がある。

 話が壮大過ぎてわからなくなってしまっている。まずは、脱出して、村長たちにいろいろと教えて欲しい。いろいろ、知っているのだろう。答えなくても、答えたくなるようにするだけだ。


 本当の敵が領主なら、領主を打倒する力が、国が相手なら国を倒す力が必要になる。

 リンが欲しいのは、平穏だ。しかし、無抵抗で居るつもりもない。

 マヤの依代も見つけなければならない。


 やることは沢山ある。


 力が必要だ。今の、リンでは力が足りない。力は、純粋な暴力にも繋がる。場面によっては、権力も必要になるだろう。札束で殴るような、財力が必要になる場面も考えられる。リンには絶対的な力がない。


 神殿の中を、時間をかけて巡った。


『ロルフ。管理者になるための手順を知りたい』


『マスター。管理者登録は終了しています』


「え?」


 念話ではなく、声に出してしまった。

 リンは、声に導かれて、扉を開けたり、魔力を流したり、指示に従っただけだ。何かに登録した記憶はない。


「ロルフ。俺は、管理者になっているのか?」


『はい』


 リンは、誘導されたパネルがある小部屋まで移動した。

 パネルに手を翳しながら魔力を流す。


--- パネル表示

神殿名:[    ]

所有者:マヤ・アルセイド

管理者:リン=フリークス・マノーラ

サポート:ロルフ・アルセイド

担当者:[    ]


 神殿名が設定されていません。

 担当者が設定されていません。

 パネルは、管理者以上の権限者により隠蔽する事ができます

---


 リンの”現在”の真命が表示されている。


「ロルフ。神殿名や担当者は記載した方がいいのか?」


『担当者は、必須ではありませんが、神殿名を決めて頂ければ、転移門以外の施設が有効になるはずです』


「わかった。どうしたらできる?」


『パネルに触りながら念じて下さい』


「わかった」


 リンは、パネルに手を置いて、わかりやすい名前を考えた。


”マガラ神殿”


--- パネル表示

神殿名:マガラ神殿

所有者:マヤ・アルセイド

管理者:リン=フリークス・マノーラ

サポート:ロルフ・アルセイド

担当者:[    ]


 担当者が設定されていません。

 パネルは、管理者以上の権限者により隠蔽する事ができます

---


”施設の名前を確認。活性化プロセスを開始します”


”魔力不足のため、活性化プロセスを停止”


「ロルフ?」


『神殿の機能を十全に使うには、魔力が必要です』


「どうしたらいい?」


『緊急対処としては、マスターの魔力をパネルに注いで下さい。でも、全部の施設を稼働させるには、膨大な魔力が必要です』


「うーん。注いでもいいが、本来の方法では無いのだろう?」


『はい。現状は、落ちてくる魔物や人を魔力に還元して充填しています』


「魔物を落とせばいいのか?」


『簡単な方法は、施設内に魔力をまとった者が滞在すれば、漏れ出す魔力を吸収し、充填します』


「人が居れば、充填できるけど、人が使う施設の活性化が出来なければ、人を呼べない。”箱の中の鍵”に思える。まずは、マヤだな」


『はい。転移門は、所有者であるマヤ様のご許可があれば設置が出来ます』


 リンは、話が堂々巡りになっているのを感じながら、根気よくロルフの話を聞いている。

 何か、ヒントになるような話がないか?ヒントは無理でも、何か新しい発見がないか?


 施設は本当に広い。アロイとメロナを足しても、施設の方が広いだろう。


「広さだけなら王都よりも広いかもしれない」


『マスター。施設は、前管理者が広げた物です』


「それなら、俺が広げることもできるのか?」


『魔力があれば可能です』


 何をするにも魔力が必要になってくる。


「そうだ。さっきの二人を魔力に還元したら、どの程度の量が貯まる?」


『およそ、1%です』


「そうなると、200名を還元すれば・・・」


『いえ、違います。溜まっていた魔力もありますし、同時に落ちてきた魔物も還元しています。先程の雌と同等の魔力では、800名の還元が必要です』


「魔物を落とす方が・・・」


 施設が活性化されれば、それだけマヤの復帰が早まる可能性があると考えていた。

 そのためにも、自由に神殿に来られなければ意味がない。


 そして、自分とマヤを、そして、サラナとウーレンを殺した奴に報いを受けてもらわなければならない。


「なぁロルフ。マガラ渓谷を領域に組み込めないか?」


『魔力が不足しています』


 やはり、魔力が必要になる。

 リンは、一つの可能性を思いついた。


「なぁ俺と一緒に落ちてきた、マジックポーチは?」


『さきほどの部屋に置かれています』


「あの中に、使いみちがなかった”魔核”があるけど、魔核では魔力の充填は出来ないのか?」


『品質によります。マジックポーチは、魔力登録がされているので、神殿からの中身を確認できません。マスターが取り出して頂ければ、調査します』


「わかった。まずは、魔力充填に使えるか確認する」


『はい』


 リンは、ロルフ猫型精霊と一緒に、サラナとウーレンが安置されている場所に向かった。

 部屋の隅に、マジックポーチが落ちていた。


 リンが中身を確認してみるが、何か取り出された様子はない。


「ロルフ。この魔核だけど、魔力に還元・・・。ん?どうした?」


 ロルフ猫型精霊は、リンが取り出した魔核を見て驚いている。目を見開いて、顎が外れてしまっているのではないかと思えるほど、大きく口を開けている。

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