第二十六話 フェムとイリメリ

/*** フェナサリム・ヴァーヴァン Side ***/


 リンの協力で、ギルド設立の目処がたった。

 資金稼ぎに数年間はかかると覚悟していたので、嬉しい誤算だ。


 私の中で問題になっているのが、凛君がまだ見つかっていない事と、立花たちも全員集合しているらしい事。その上、奴らは、貴族だという事だ。


 凛君が何をやったのかわからないが、トップだという事だが、考えなければならないのは立花たちの方だ、すぐに立場を利用し始めるだろう。地球に居たときにも、親や親類の権力をちらつかせて行動するのが好きだった。


 それにしても、この短時間に、凛君は何をしたのだろう?

 あれから、皆と話し合ったが、想像する事しかできない。彼のスキルやステータスは、ミルが知っていた。なかなか話すのを渋っていたが、今後の協力の約束をしたところで、教えてくれた。しかし、スキルやステータスを知ったら余計に謎が増えただけだ。


 リン=凛君を、未だに疑っているのだが、それだとしても、成し遂げた事がわからない。


「フェム」

「ん?なに?」


 イリメリだ。彼女も、凛君の事が好きなのは確定しているが、本人がそれを認めていないだけだ。


「リンはまだなの?」

「うん。タシアナの孤児院に行ってから来るらしいよ?」

「そう・・・なのだね」

「どうしたの?」


 イリメリも、リン=凛君を疑っているのだろう。

 でも、何かが引っかかっているようだ。


「ねぇフェム。職種や環境が違うから私の戯言かもしれないけど・・・それでも話を聞いてくれる?」

「ん?いいよ?どうしたの?」


 イリメリが、私の正面の椅子に腰掛ける。

 彼女の癖が出ている。両手をテーブルの上に置いて、指でテーブルを叩いている。この癖が出ている時には、話しかけないほうがいい。何か、考えをまとめている時だ。


「フェム。不思議に思わない?」

「なにが?」


 同じ様な事を繰り返すのも、自分の考えを否定して欲しい時の癖だ。


「あのね。私・・・は、もともと、そんなに変わった環境じゃなかったら参考にならないけど、ミルとタシアナ・・・それに、ルナもサリーカもフレットも・・・多分、カルーネとアルマールも、日本に居た時と同じ様な環境じゃない?」

「・・・・」


 それは、私も不思議に思っていた。


 ミルは、日本に居た時の事は話したがらないが、一人暮らしだというのは知っている。凛君を見つめる目が気になって調べた事がある。タシアナも日本では孤児だった。事故で両親を亡くしている。


 ルナの実家は、立花たちとは違う”党”の議員の家だ。ただ、ルナは祖父母に預けられているので、実家の事はあまり知られていない。

 サリーカも、実家は商売人だ、いろんな物を扱っている。特産物を売り歩くような事もしているらしい。


 フレットも日本では実家が教会だ。本人は、洗礼を受けていないと言っていたが、それでも実家の教会で育ったのは間違いない。


 そして、私だ・・・父親はマスコミに努めていた。しかし、こちらでは食堂を行っている。違うと思っていたが、こちらのお父さんは情報屋の様な事をしている。日本のお父さんもルナのお父さんと親密にしていた。こっちのお父さんも話を聞いたら、ルナのお父さんとは関係が有るらしい。


 そして、変わった環境ではないと言っていた、イリメリも話を聞く限りは、家族との関係は同じだ。

 一般的な家庭という所も同じなのだが、日本のイリメリの両親も、イリメリには表面的な関心しかないように思えた。実際に、何度か私の家に泊まりに来たが、当日に一本連絡をいれるだけで許可が降りていた。どこかに遊びに行くときにも同じだ。そんな両親の気を引きたくて、委員長をやったり学校の行事を頑張っていた感じがある。

 こちらの世界の両親も同じ様な感じに思える。他の者たちは、両親が付いてきたり、付いてこないまでも、連絡はしているようだったが、イリメリに関しては、手紙で”帰らない”とだけ伝えて終わりだ。


「フェム。どう思う?」

「私も、それは感じていた」

「私たちだけならすごい偶然で片付けたかもしれないけど、立花たちまで似たような境遇だと、少し考えてしまうよね」

「そうだね・・・あっ!」

「どうしたの?」


 もし、そうなら・・・・

 リン=凛君ではない可能性が出てくる。”家族環境”が似ている状況だとしたら、凛君に居るのは、”弟”であって、”妹”ではない。


 でも、リンの両親が、私たちの両親と関係が有ったように、凛君の両親も私たちの両親と関係が有った。少なくても、私はそう聞いている。ルナ千明の両親が協力していたのは間違いない。タシアナ里穂の所の園長先生との関係もあったとも聞いている。サリーカ沙菜の所の父親との関係も知っている。


「うん。イリメリ。リンのことなにか聞いた?」

「え?うん。フェムと同じ位だとは思うけど、聞いたよ?」

「今の話に当てはめると、リンが凛君だという事になるためには、”マヤ”が男の子で年下って事にならない?」

「あっそうだね。それじゃ、リンは凛君じゃないのかな?」

「・・・う・・・ん。でも、マヤのこと以外は、リン=凛君になるよ」


 また、イリメリはまた考え始めてしまった。


「ねぇフェム。今、私たちって13歳だよね?」

「そうだね」

「確か、凛君の弟の・・・」「ユウ君だよ」「そうそう、ユウ君がプールで溺れて死んだのって・・・」

「あ!私たちが13歳の時だ!」

「一応、ミルに伝えておく?」

「なぜミル?」

「多分だけど、ミルは、凛君の所在を知っていると思うの・・・」

「え?」

「そう思う・・・だけど、確認はできないよね」


 またイリメリは指で机を弾き始めてしまった。

 もしイリメリの考えが当たっていると、13歳という年齢にも意味がある事になる。異世界物の定番では、15歳が成人になる物が多い。13歳は珍しいと思う。確かに、子供が産める年齢を成人と考えれば、13歳でも不思議ではない。


「そうだ。フェム。ギルドの建物とかどうするの?」


 これも変わらないな。

 いきなり話題が飛ぶ。イリメリの中では繋がっているらしいのだけれど、話をしている方はいきなり変わったと思えてしまう。イリメリも友達が多いと思われているけど、実際には多くない・・・多分、私を含めて5~6人がいいところだろう。


「うーん。ルナ待ちかな?」

「どういう事?」

「ルナが交渉しているけど、ルナのお兄さんの物件が街中にあるらしいから、そこを使わせてもらおうかと思っているよ」

「そう・・・しばらく、私が出る場面はなさそうだよね?」

「どうして?」

「うーん」


 また机を弾き始めた。


「あのね。フェム。今、私たちは、リンのおかげで少しは先が見える状況になってきたよね?」

「そうだね」

「うん・・・なら今のうちに、私は、チート能力を磨きをかけようと思っている」

「どういう事?」

「あっ話が飛んだよね。ごめん」


 何度かイリメリには注意しているから、話が飛んだ事を自分で認識してくれる。

 治らないけど、自分で解れば、今のように説明してくれる。


 イリメリは、焦っているわけではなさそうだ。

 凛君がトップだと聞いて安心したのも有るだろうけど、立花たちの立場を聞いて、やることを考えていたのだろう。


 イリメリは、立花たちが貴族だと聞いて、思ったのが”楽をする事”を考えるだろうという事だ。楽な方向に逃げるのは、奴らの日頃の態度から疑う余地は無い。


 そんな状況で、今イリメリができる事は殆ど無い。ギルドが立ち上がってくれば話は別だろうが、準備段階であるために、私やイリメリは家で報告を待つしかない状況だ。確かに、お金はリンのおかげでなんとかなりそうだ。

 でも無駄に使うわけにはいかないし、自分たちで稼いでおくのも悪くないのだろう。


 そんな事を考えていたらしい。


「ねぇフェム。一緒に、狩りに出ない?」

「狩り?」

「うん。私にできるかわからないけど、生きている・・・魔物と言っても、生き物を殺す事ができるのか?早いうちに確認しておきたい」

「あっそうね。ゲームに似ていると言っても、現実には違いないのだよね」

「うん。ミルは・・・なんか違う。タシアナもちょっと違うように感じる時がある」

「そうね」

「だから、私たちがタシアナたちの足を引っ張るのだけはダメだと思うの!チートがあるからって心が強くないと勝てないよね?」


 イリメリのいう事は正しいと思う。

 多分、今の私たちは、ゴブリンを殺す事はできるかもしれない。魔法という手段がある。でも、これが対人になったときに、魔法を打てるのか・・・多分、立花たちは私たちでも笑いながら殺しに来るだろう。奴らはそういう連中だ。


「わかった、一緒に行こう。この辺りだと・・・」

「マガラ渓谷が1番だろうけど、難しいと思うから、近場の森に行こう」

「わかった、サリーカのところで、武器と防具を買ってから行ってみよう」

「了解!」


 結局、サリーカとアルマールとカルーネも一緒に行く事になった。

 役割分担を決めながら森で狩りを行う。お父さんに、森に出かける事を告げたら反対されるかと思ったが、メンツを見てため息をつかれた。その後で、できるようなら、食べられる物を頼むと言われた。


 ギルド(準備中)の初めての依頼だ!


 サリーカの店で、短剣/短槍/メイス/杖/弓/盾/大盾を買ってそれぞれで試してみる事にした。

 魔物や動物と戦っている間に、それぞれ特色にあらわれていった。


 私は槍使いになった。短槍が妙にしっくりくると思ったら、武技スキルを習得していた。

 イリメリは見事なまでのタンクになった。盾だけではなく、大盾を持ってメイスか杖を持つのが良さそうだ

 サリーカは弓使いだ、魔法と併用する運営ができるようだ。他にも、鑑定も持っているので森の中で食べられる物や貴重な物を探している。

 アルマールは、短剣と盾で前線に出るのが良さそうだ。

 カルーネは、完全に魔法職だ。それも、補助魔法が得意なようだ。


 皆魔法は使えるが攻撃系が多くなっているようで、補助魔法は重宝する。


 あと、フレットは回復魔法が使える事が解っている。

 ルナとタシアナは、今度同じ様な訓練をすれば解るだろう。


 私たちは、食べられる魔物や動物を荷台に乗せて、街に帰る事にした。

 門番に驚かれたが、罠で倒した事にしたら、すんなりと受け入れてもらえた。


 家にもって帰る前に、お父さんが仕入れに使っている肉屋を紹介してもらって、そこに狩って来た物を卸す事にした。下処理をしなければならないし、お父さんが懇意にしている肉屋だから、変な事はしないだろう。


 サリーカが肉屋の解体を見学することにした。

 使えそうな素材が有る時には、サリーカが持って帰りたいという事だ。


 売上に関しては、皆で均等に分配する事にした。

 サリーカが素材分を引いてくれと言っていたが、武器だけではなく防具もかなり安くしてもらっているので、今日の分に関しては、皆で均等にする事になった。この辺りの仕切りは、イリメリがしてくれている。誰からも文句が出ないのは流石だと思う。


 解体してもらった肉を持って家に帰る。全部の肉はもちろん持って変えられないし、食べ切れる量ではないので、そのまま肉屋が買い取ってくれた。正直に言えば・・・日本でバイトしていた一か月分を稼ぎ出してしまった。合計金額ではなく、分配した金額が・・・だ。これには、私だけではなく、皆が驚いていた。

 サリーカだけは、だいたいの価値が解っていたのだろう。驚かなかったが、手元に来たお金を見ると嬉しそうにしていた。


 確かに、命がけと考えれば安いのかもしれないが、チート能力を使っての狩りだったので、怖さよりも強くなっていく感覚のほうが大きくて楽しくなってしまっていた。


 いつもの部屋に武器と防具をおいていこうという事になって、部屋に入ると、ルナとタシアナが帰ってきていた。

 そして、知らないダンディーなおじさまが1人タシアナの横に座っていた。


 どうやら、ダンディーなおじさまは、タシアナのお父さんのようだ。

 名前を”ナッセ・ブラウン”と言うらしい。


「リン・フリークスから話を聞いた」


 いきなりそんな切り口で話し始めた。

 ギルドマスターを引き受けてくれるという事だ。もちろん、私たちの賛成が必要だが、タシアナとミルは既に賛成している。大きいのは、リンからの推薦という事だ。凛君が見つかって、彼がギルドマスターを引き受けた時には、その座を譲る事まで話されていては反対してもしょうがない。それに、実際問題として孤児院の先生が立ち上げる組織のほうが、街の人たちも受け入れやすいだろう。

 少なくても、13歳の女ばかりの組織よりは安心できるのは間違いない。そして、資金に関しては、ルナの実家・・・ミヤナック家が出すことにしてはどうかという事だ。これも、リンの承諾を得ている。


 次に、ルナからの報告で概ね全部OKになったようだ。

 ギルドの建物は、偶然今日私たちが卸に行った肉屋の近くにある。建物だという事だ。


 三階建の建物が三棟。

 商人街と職人街と住宅街の丁度間にある建物だと言うことだ。

 壊して作り直しても良いし、そのまま使ってもいいという事だ。見に行ってから決める事になった。

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