第三章 裏切り

第二十一話 白い部屋

/*** フェナサリム・ヴァーヴァン Side ***/


 不思議な感じがする人だ。

 私たちが使っている部屋から出ていく時にも、1人1人に挨拶をしていった。スキルの事もあるが、それ以上に資金提供を申し出てくれた。

 そして、懸案事項で出ていた、トップ人事に関しても、彼がアイディアをくれた。


 本当に、リン=フリークス・テルメンは、神崎凛ではないの?

 皆、同じ疑問を持っている。まず、なんと言っても、”ミル”が、リン=フリークス・テルメンの妹の所に行って帰ってこない。もともと、本人から”別行動をする”と言われている。

 私たちは、女子+神崎凛で協力する。そのためのギルドだ。領主になって名前を売ったり、なにかを開発して名前を売るのもいいかも知れないが、それでは時間がかかる上に、狙われるリスクも高い。


 アドラが言っていたのは、影響度の事だろう。それなら、ギルドで、この世界の住人に対して影響していけば、”いい影響”だといえるのではないか?それが、私たちの基本的な考えだ。その上で、自分の得意分野で名前を売っていく。


 そのためにも、資金が必要だ。

 私たちもそれで詰まってしまった。それが解決した。彼のスキルで、私たちが懸念していた、身バレの可能性もなくなった。あとは、言葉遣いを注意すればいい。誰かに鑑定されたり、ステータスを見られても、困る事はない。


『ピンポンパンポーン。今、最後の1人が、パシリカをうけました。僕は、アドラ。繰り返す。僕は、アドラ。君たちを、僕の領域に招待する。意義が有る場合には、5分以内に、正当な理由を付けて申告せよ』


 はぁ?

 どいう事?アニメでいう所の説明回でも作るつもりか?


『ピンポンパンポーン。異議を認めます。丁度、今集団になっている所があります。集団または個別に呼び出す事にします。まずは、一番人数が多い所からになります。終わったら次を呼び出します。暫くお待ち下さい』


 暫く待ってみたが、私たちが呼び出された様子はない。

 確かに、今ミルがいないから、私たちは、8名しか揃っていない。皆もその事実に気がついている。


 立花たちは、全員もしくは、9名以上になっている事を示す。

 できれば、これで、彼らが調子に乗ってくれる事を祈ろう。


 それから、すぐに

『君たちの番だよ?準備はいい?』


 そう言われて、周りが光ったと思ったら、前に来た、よく記憶に残っている白い部屋に居た。


「え?」

『あぁ地球の姿は、病院に有るからね。その姿で我慢してね?次は、地球の姿になれるように調整するよ』


 そう、異世界の身体のままになっている。

 別にそれでも問題は無いのだが、高校生の状態に戻れるのではないかと少し期待していた。


『君たちは、何の問題もなさそうだね』

「ねぇアドラ。神崎凛がどこ居るのか教えてほしいのだけど?」

『ごめん。それはできない』

「そう・・・やっぱり・・・でも、パシリカは受けたのは間違いないのだよね?」

『そうだね。結構早い段階でうけているよ。それ以上は教えられない。ごめんね』

「ううん。無事なのが解ればいい」


 ホッとする。

 そして、やはり、リン=フリークス・テルメンが”神埼凛”で無いかと思ってしまう。


「アドラ。今時点では、誰がトップなの?」

『今?彼らにも聞かれたけど、そんなに気になる?』


 ひとみが質問をしている。

 私もそれが気になっている。


『今の時点では、”神崎凛”がトップだね。ま、トップと言っても、それほど変わらないけどね。2~3日活動したら抜かれてしまう程度だからね』


 え?”神埼凛”がトップ?

 少なからず動揺が走る。私たちでは無いだろうとは思っていたけど、彼がトップだとは誰も考えていなかっただろう。


「え?」

『不思議?』

「え・・・っうん。正直に言えば」

『いいね。素直で・・・。彼らはこの話を聞いた時に、うるさかったよ。でも、君たちは違うのだね』

「彼ら?」

『あぁもう解っているよね?』


 そう、立花たちがこの話を聞いたら、なぜだ?どうしてだ?俺が負けるわけがない!とか言っていそうだよな。


「アドラ。質問いい?」

『いいよ』


 サリーカだ。


「凛くんが何をしたのかは教えてくれなよね?」

『そうだね』

「残念。じゃ凛くん以外だと誰がトップなの?」

『ちょっとまってね。ほぼ横並びなんだよね。あぁ”鵜木和葉”だね。そして、次が”韮山里穂”だね』


「え?私?」

『そうそう、自分が何をやったのかを思い出せば、中里さんの答えは見つかるかも知れなよ?』

「あっ」


 声に出してしまった。

 そういう事か・・・サリーカが気にしていたのは、曖昧な採点方法だ。


『聞いてくれれば答えるよ?』

「え?そうなの?」

『うん』


 皆の視線が私に集まる。


「ねぇアドラ。採点方式を聞きたいけど、教えてくれる?」

『いいよ。彼らもそうやって聞いてくれたら教えたのに・・・バカだよね』


 彼らとは、立花たちの事をさしているのだろう。彼らは、採点方法を知らない?


『現地に影響を与えた人の勝利と言うのは変わっていないよ。現地の人と言うのは、君たちも含まれるよ。それで、”神崎凛”がトップになった理由が解るかな?ちなみに、パシリカ前は、加味されないよ。パシリカ後の影響を評価しているから安心してね』

「その評価の基準は?」

『うーん。かなり禁則事項に近いのだけど・・・大丈夫だね。評価は、神々が下しているよ』

「神々?」

『そう、僕の他にも神は居るからね。それぞれの神が影響を評価しているよ』

「うーん。わかったような、わからないような感じだな」

『ごめんね。これ以上いうと、君たちがかなり有利になってしまうのだよ。あっ言える事として、君たちの方向性は間違っていないよ』

「!!」


 皆、ここで少しだけほっとおした雰囲気が流れる。


『さて、時間が来たよ。あと1つくらいかな?なにかある?』

「はい!」


 最後の質問は、ルナがするようだ。


「アドラ。2つ有るけどいい?」

『簡単な事なら問題ないよ』

「よかった。こういう機会は次もある?そして、今回、アドラは”あと何回”これをやるの?」

『次も考えているよ。誰かが脱落したときか、あまりにも差が付いた時だと考えているよ』

「そう?それで・・・もう一つは?」

『熱川さん。君ずるいね。その質問には答えられない。が答えだよ』

「・・・」

『やっぱりね』


 そういう事か・・・。


『もう時間だよ。応援しているよ。頑張ってね!』


 周りを光が覆った。

 光が消えてくると、さっきまでいた部屋に戻ってきたのが解る。時計がないから、時間的な感覚はわからないが、飲んでいた飲み物がぬるくなっていない事を考えると、こちらの時間が止まっていたと考えるのが妥当だろう。


「ルナ!」


 ひとみだ。ひとみも気がついたのだろう。


「残念。ヒントだけでも貰おうかと思ったのだけどね」


「え?どういう事?」


 カルーネはわからなかったのだろう。


 ルナが説明するようだ。


「私たちは、8名揃っている」

「うん。ミルが居ないからね」

「それで?」


 そう、私たちは8名揃っている。

 私たちの前に、立花たちが呼ばれたのは、アドラの話から確定だろう。

 そうなると、立花たちは、9名ないしは10名揃っている事になる。


 アドラが、あと1回と答えたら、茂手木くんと凛くんとミルが一緒に居る事になる。そうしたら、ミルを問い詰めれば、二人の居所が判明する事になる。問い詰めなくても、ミルに橋渡しを頼める事になる。


 2回と答えたら、”茂手木くん+凛くん”または、ミル+どちらかという事になる。または、先程と同じで、3人揃っている+立花達の1人という事になる。


 3回と答えたら、茂手木くんと凛くんとミルがバラバラになっているか、立花たちの1人が絡んでくると、誰かがペアになっている事が考えられる。


 どっちにしろ、ミルに聞いてみるのが一番だ。


 そして、私の考えでは、最後にパシリカをうけたのは、立花たちの誰かでは無いかと思っている。

 それで、合流した所で、白い部屋に呼ばれたと考えている。根拠はないが、そう思える。


 そして、今回の事で、リン=フリークス・テルメンが、”神崎凛”だと思えてくる。イリメリとも話をしたいとは思うが、まだ白い部屋での事を引きずっている。この話題を避けようとする。女の戦いは既に始まっている。でも、その話は今は置いておこう。


 ルナが説明を終えた。

 やはり、私が考えていた通りだ。やはり、立花たちは、全員揃っていると考えているようだ。

 立花達は、私たちよりも遅れてパシリカをうけている事から、貴族やそれに連なる者だと思うと言うのは、フレットの意見だ。


 真命の事も少しわかったようだ。

 今は、リンのおかげで隠蔽できているが、そうじゃない時には、現地の人?にもバレてしまうのではないかという事だったが、フレットが教会筋からの話として聞いた所、”真命が読めない”事象は確認できていなかったようだ。

 私のお父さんも、真命を確認していて、本当の名前が刻まれていたと言っていた。


 考えてもわからない事は、この際置いておくとして、これからの事を、皆で話し合う事になった。


 リンからの要望にあった、書類の件は、ルナとフレットが動く事になった。早速実家に問い合わせたら、”ニノサ”の名前を出しただけで、すぐに会うという返事が来たと言っていた。会合は、明日行われる事になった。場所は、ここで行われる。最初は、ルナの家という意見も会ったが、ルナのお兄さんがそれを却下した。

 曰く

 ”可愛い。可愛い。ルナによりつく害虫を、家に招くわけにはいかない”という事らしい。苦笑するしかなかった。教会側もそれで問題ないという事だ。教会で話をして、宰相派の人間に漏れるよりは、その危険性が少ない場所で話をしたいという事だ。リンには、宿屋に伝言を頼んだ。簡潔に、昨日の件で話がしたい。明日来られたし。だ。彼なら、これで解ってくれるだろう。


 タシアナの方も面会がOKというか・・・すぐにでも会いに行くという話だったが、これも明日にしてもらった。

 リンには悪いけど、明日にまとめさせてもらった。


 タシアナの方は、前のめりというのは、こういう事を言うのかというくらいの勢いだったようだ。

 まずは、リン=フリークスが、資金援助を申し出たと言った時に、”フリークス”が引っかかったようだ。タシアナも詳しい事は聞いていないと言っている。その後で、リンが、”ニノサ”の息子だと聞いた時には、すごく微妙な顔をされたと言っていた。


 ますます、リンという人物がわからない。

 父親は、かなりの有名人なのだろう、辺境伯も教会の重鎮も、そして孤児院の先生を知っている。どんな関係があれば、それらの人たちと知り合いになれるのだろう。それで、自分は冒険者のような事をしているのだろう?

 辺境のむらに引っ込んでいると聞いている。意味がわからない。


「フェム!フェム!」

「ん?あっごめん。聞いてなかった」

「誰かさんの事でも考えていたの?」

「え?ちっ違うわよ。それで?」

「うん。リンが置いていった物だけど、一時伯爵家で預かるでいいわよね?」

「いいと思うけど、タシアナの所は大丈夫?」


「うーん。お父さんは、ひとまず、リンに会ってからじゃないとダメだと言っているから、それでいいと思うよ」

「了解。それじゃ大丈夫だけど、ルナ大丈夫?」

「大丈夫じゃないと思う。価値を聞く前なら、大丈夫って言ったけど、聞いちゃったから、怖いかな」


「だよね・・・」


 私でもそう思う。

 金貨を持っただけでもドキドキしてしまいそうだ。

 白金貨や、魔核なんて飛び抜けた物を無造作に置いていきやがったからな。大人数で移動したら目立つという事で、私とルナとフレットで、持って搬送する事になった。

 それを、”サリーカとイリメリ”と”タシアナとアルマールとカルーネ”が少し離れた所から監視と護衛をする事になった。


 昼間にできるだけ大通りを通って移動する。

 貴族街に入ったら、辻馬車を拾って移動する事が決まった。


 順調に移動した。

 貴族街に入る手前で、私とルナとフレットは、辻馬車を拾う事ができた。ルナが、ミヤナック家の家紋が入った物を見せたら、それだけで移動を開始してくれた。その上料金は、ミヤナック家が持つ事になる。


 貴族街は、大きな屋敷が立ち並ぶ一角だ。

 5分くらい馬車に揺れていると、前から、同じくらいの男10名が歩いてきた。どこかの貴族なのだろう、後ろに従者を連れている。


 急に、その中の1人が馬車の前に飛び出して、馬車を止めようとした。車と違って、すぐに止まるはずもなく、暫く動いてから、馬車は止まった。飛び出した男が近づいてきて、御者に文句を言っている。ルナがこういう時には、私たちは出ないほうがいいと言うので、馬車の中に留まっていた。

 一緒に居た1人の男が馬車のドアを開ける。


「なんだ女か?」

「おい、三塚!触って確認しておけよ!」

「あぁ解っている!解っている!」


 三塚?

 こいつら?バカなの?


 ルナとフレットに合図を送る、解っているという感じだ。震える演技をする。


「すみませんね。うちのボスが、少し触らせてもらいますよ」


 そう言って、手を伸ばしてきた。払いのけようか迷っていたが、フレットが私の手を抑えた。

 肩を触られた。


「っち違うか」


 全員に触ってステータスを確認したのだろう。


「すみませんね。人を探していたのでね。オイゲン=フンメル・エストタールという男を見かけたら、アゾレム男爵家まで連れてきてください。報奨を出しますからね」

「・・・」「・・・」「・・・その方は何を?」


「あぁそうか、極悪人ですよ。俺たちから逃げ出したね」


「おい。三塚!御者も違ったぞ、茂手木じゃなかった。あいつ、どこに逃げた?あいつ、金まで持っていったぞ!」


 茂手木!茂手木を探しているの?


「え・・・あっわかりました。その方をお見かけしたら、ご連絡いたします」

「頼んますわ。うちのボスを殴って、財布を盗んだだけじゃなくて、武器とかもね」


「おい三塚。余計な事喋ってんじゃない!」

「はい。はい」


 そういって、三塚・・・マニュエル・レイザーは、馬車から降りた。悪振れる様子もなく淡々としたものだ。


 でも、これで解った、アゾレムが立花だ!

 そして、やはり全員揃っている。顔を覚えた。神崎凛の敵。そして、私たちの敵!

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