第十六話 鑑定と隠蔽

/*** ミトナル=セラミレラ・アカマース(鵜木和葉) ***/


 宿屋は、朝早くに出た。

 そして、フェムの店によって、今日一日用事があると告げてから、門に急いだ。僕が遅れるわけには行かない。凛くんを待たせる訳にはいかない。


 よかった。

 まだ来ていない。来ないかも知れない。でも、このアドラの”ゲーム”の意味がわからないとは思えない。21人のサバイバルではない。凛くんの奪い合いになるのは間違いない。茂手木くんというジョーカーが居る。でも、僕が知っている事実。これが多分重要な意味を持ってくる。


 重久さんや中里さんの言葉が正しければ、これは凛くんが中心になるように考えられている。


 二人が覚えていた、男子の名前を聞いたときに、全身の血が沸騰するかと思った。凛くんに仇なす者と思っていたが、本当に”仇”だとは思わなかった。


 立花肇/山崎徹/西沢祐太/冴木武夫/川島茂/橋本芳雄/加藤恵一/三塚浩市/細田博行/森中定和


 美和さんの報告書を呼んでから、頭から離れない名前だ。

 偶然にしては出来すぎている。立花と山崎が混じっていたのは認識していた。全員が、凛くんの弟さんの”事件”の関係者だとは思わなかった。そして、凛くんの両親と、僕の両親の”死の原因”を作った奴ら。


 まだ、僕はこの事実を、凛くんに告げる勇気がない。告げていいのかわからない。



 マヤさん?

 向こうから歩いてきているのは、確かに、凛くんと一緒に居た女の子。妹と言っていた。


 僕をまっすぐ見ている。凛くんが、女の子だけで、危ない可能性がある所に送り出すわけがない。でも、間違いなく、僕を見ている。綺麗な目で、まっすぐと・・・。


「ミトナルさん?」


 やはり、僕が目的で間違いなかった


「はい。そうです」

「これを見て!」


 そう言って出されたのは、僕が凛くんを呼び出すのに使った、羊皮紙だ。

 僕の署名の下に、”神埼凛”と書かれていた。涙が出そうだ。


「内容は僕には読めなかった、読んでもらって、全部説明してもらった。カズハさん。貴女は、リンの敵ですか?味方ですか?」


 そう言って、マヤさんは後ろに飛んで、腰の短剣に手をかける。

 僕は慌てて、両手を上げる。


「僕は、味方・・・ううん。違う。僕は、僕の全部は、彼の物。僕は、彼の役に立ちたい。ただそれだけ、彼の事が好き。でも、彼を求めているわけじゃない」

「そう・・・嘘じゃないよね?」

「うん。僕は、彼のためなら何だってやる。死ねと言われたら、この場で死んでもいい。だから、お願い」


 ダメ。涙が出てくる。こらえないと、僕は、泣いていい立場じゃない。


「今は信じる。でも、裏切ったら殺す。どんな些細な事でも傷つけたら殺す」

「それでいい。僕の命を彼に預ける」


 マヤさんから急に、握手を求められた。

 ステータスの確認をしたいのだろうか?僕は、迷わず、マヤさんから差し出された手をにぎる。僕は、ステータスの確認はしない。マヤさんからしてもいいと言われるまで・・・。


 マヤさんから手を離してくれた。合格だったのだろうか?

 すごく可愛い笑顔を向けられた。


「わかった。ついてきて、待っている」


 マヤさんは、僕の少し前を歩く、僕は、それに着いていく状態だ。


「ミトナルさん。そう言えば、僕の名前言っていなかったね」

「えぇ」

「僕は、マヤ。マヤ=フリークス・テルメン。リン=フリークス・テルメンの義理の妹」


 え?義理?


「義理?」


 マヤさんが、横に並んでくる。


「そ、だから、結婚もできるし、子供作れる!」


 あっそうか、僕の事を・・・。


「大丈夫。僕は、彼の彼女じゃない。彼が僕を求めたら従う。でも、僕から、彼を求める事はない。してはダメ」


 緊張している。


「・・・そう・・・わかった。こっちだよ。あっ僕の事は、マヤって呼んでね。呼び捨てにして」

「うん。僕の事は、ミルと呼んで。親しい人は、そう呼んでいた」

「わか・・・ん。”呼んでいた”?」

「うん。両親・・・だけじゃなくて、僕を除く、村人全員。貴族のバカ息子の遊びで殺された。僕は、偶然村に居なくて助かった」

「え?あっごめんなさい」

「ううん。もう・・終わった・・・こと」

「違うの・・・僕・・・なんでもない。でも、ごめんなさい。ミル」

「ありがとう。マヤ」


 宿屋にたどり着いた。

 凛くんの部屋は知っている。そこまでまっすぐに向かった。


「リン。連れてきたよ」

「え?あっありがとう。入って」


 部屋に入った。

 そこには、何も変わらない笑顔でこちらを見ている。僕の初恋の人。


 僕の両親が、彼の両親を奪った。


 ダメ。泣いちゃダメ。でも、意識とは別に、涙が溢れてくる。


/*** リン=フリークス・マノーラ ***/


 マヤがいい出した事だ。

 自分が、和葉。ミトナルを連れてくるから、宿屋で待っていて欲しいと・・・。


 マヤが部屋から出ていって、20分くらいが経った頃だろうか?


「リン。連れてきたよ」


 すごく緊張してしまっている。

 声が上ずっていないといい。


「え?あっありがとう。入って」


 それだけは言えた。

 ドアが開けられて、先に、マヤが入ってくる。身長は、マヤより少し低いだろうか。青い髪の毛をすごく綺麗にまとめている。綺麗な黒目が僕を捕らえている。マヤは、可愛いという表現がぴったりだが、和葉・・・ミトナルは、綺麗で、美人という表現が合っている。


 僕を見て、目をそらさない。

 左目から、一筋の涙が流れている。それから、右目からも決壊するように涙が流れ出ている。


「和葉さん?」

「あっごめん。凛くん。鵜木和葉。こちらでは、ミトナル=セラミレラ・アカマース。ミルと呼んで欲しい」

「そうだね。僕は、リン=フリークス・テルメン。神崎凛です」


 次の言葉が出てこない。


「リンも、ミルも、とりあえず座ったら?」

「そうだね。ミル。よかったらベッドに座って」

「いいの?」


 ミルは、なぜかマヤを見る。マヤもどうぞという動作をする。ミルが、ベッドに座って、僕は、備え付けの椅子に腰を下ろす。マヤは、ミルの近くに座るようだ。


「ミル。情報交換したいけど問題ない?」

「ない。なんでも聞いて」

「え?いいの?」

「もちろん。知っている事は何でも話す。僕は、そのために来た、リンくんに会いたかった」

「あぁそうか、まずは、リンと呼んで、”くん”付けされるの好きじゃない」

「ごめん。”リン”でいい?」

「うん。ありがとう」


 さて、まずはどうしよう?

 そうだマヤの事を聞かないと・・・


「ミル。マヤが一緒でもいい?」

「僕は問題ない。リンが一緒の方がいいと判断するのなら、一緒でいい」

「わかった。マヤ。悪いけど、下で、飲み物を3つ買ってきて、その後は話に加わってほしい」

「わかった」


 マヤにお金を渡した。マヤが部屋から出ていくのを確認してから、ミルに問いかけた


「ミル。白い部屋で、僕に話しかけたよね?なんで?」

「僕は、リンに報いなければならない。だから・・・」

「そう・・・理由は、いずれ教えてくれる?」

「うん。ごめん」

「いいよ。それよりも、アドラがゲート開いてすぐに入ったよね?なんで?」


 これが一番疑問だった。

 僕に対してなにかあるのなら、安全を確認してから入るべきだったのではないか?行動が矛盾しているように感じていた。


「あの時は、説明できなかった。アドラが言っていた、1秒が1440倍になっている世界だって」

「そうだね」

「僕は、少し考えた。白い部屋が、地球の時間感覚なのか、こっちの世界なのかわからないけど、1秒で1日進む世界に飛び込む」

「うん」

「あの場所で、誰かが先に飛び込んで、それから6分程度躊躇していたら」

「あっそうか!それだけで、一年無駄に過ごしてしまう事になるのだね」

「うん。実際に、僕たちが飛び込んだ、後で、躊躇している皆に、アドラが似たような事を言ったらしい」

「そうか、ありがとう。これで、ミルの事を信用できる」

「え?」

「あと、ミルに聞きたい。きみは、日本に帰りたい?」


 少しの沈黙


「僕は、リンが望むのなら、喜んで死ぬ」

「え?」

「あっごめん。今のは忘れて」

「あぁわかった。なぁミル。僕の両親の事故」


 表情で解ってしまった。

 噂話程度で聞いていた。間違いないだろう。僕は、あの事故は別のなにかが隠されていると思っている。おかしなことだらけなのだ。もしかしたら、ミルが知っているのかも知れない。


「リン。これでよかった?」


 マヤが部屋に戻ってきた。


「あっうん。ありがとう。足りた?」

「うん。あれ?何も話していなかったの?」


 マヤがなんでそう思ったのかわからないけど、ちょうどよかった。

 話を変える丁度いいタイミングだ。


「そうだな。ミル。他の連中は?フェムは、重久だろう?」

「あ・・・うん。僕が、知っているのは、松田さん以外の女子だけ。昨日の段階で、8人揃った。それにリンが加わって9人になる」

「そうか・・・茂手木だけは、早く見つけたいのだけどな」

「え?なんで?茂手木くん?」


 僕の考えを述べる。

 僕は、地球に、日本に帰るつもりはない。心残りがないとは言えないけど、こっちに残る。マヤがすごく嬉しそうにしているのが印象的だ。


「立花たちは、10人揃うだろうけど、どうせ、数年もしたら、仲間割れしだすだろう?そのときに、女子がまとまっていれば、女子の誰かがトップになれる可能性がある。そうしたときに、僕をこっちの世界に残してほしいとお願いする事ができる。立花たちにはできない。3人選ぶよりも、2人選ぶ方が、心理的な負担は少ないだろう?気休めだろうけどね」

「そうだね。3人選ぶよりも、を選ぶほうがいいだろうね」

「ミル?」

「うん。僕も、こっちに残るつもり。あっちの世界に未練は・・・ない」


「そうか・・・それで、重久たちは何をしようとしているの?」

「え?”ギルド”を作ると言っていた」

「へぇギルドかぁ・・確かに、すぐには無理だろうけど、じわじわと効いてくるだろうな。ギルドの代表になれば、名声も得られるだろうからな」

「うん。フェムもそう言っていた。ギルドの代表に”リン”を考えてるみたい」


 はぁ?僕を?なんで?


「なんで?僕が?重久や瞳がやればいいのに?」

「うん。でも、”リン”が適任だと言っていた。それよりも・・・いくつか聞きたいけどいい?」

「僕に、答えられる事なら」

「まず、なんで、茂手木くんを見つけ出す必要がある?」


 茂手木の能力は過小評価すべきではない。


「一言では難しいし、ひとみや、重久たちは知らないかも知れないけど、茂手木が、多分このサバイバルのジョーカーだと思うよ」

「なんで?」

「ギルドを思いつく重久は、多分、異世界転生者とかが好きかもしれない。茂手木は、生粋のオタクで、知識が豊富というのはもちろん、中二病を患っていて、自分が異世界転生した時のために、余計な知識を大量に詰め込んでいる」

「は?」

「そうなるよね。多分、あいつ以上に、異世界に来て喜んでいる奴はいないと思うよ」

「・・・それで?」

「あぁミルは、砂糖の作り方や、塩・・・海水や塩湖からの作り方や、にがりのとり方、メイプルシロップの作り方や、味噌/醤油/日本酒やどぶろくの作り方知っている?ビールやウィスキーや他の蒸留酒の作り方は?小麦粉や薄力粉の作り方は?重久や瞳がいれば料理をするだろうけど、そのための包丁や調味料の調達は?あと、定番物とか言っていたけど、ポンプや馬車改良のためのサスペンションとか、できるかわからないけど、ボールペアリングとか、キャスターとか、水車の作り方とかも書いていたな」

「・・・それを、全部、茂手木くんが?」

「そうだよ。立花たちに見つかる前に確保すべきだと思わない?」

「たしかに・・・」

「でも、見つける事ができれば、釣るのはそれほど難しくはないと思うよ」

「どうして?」

「エルフや猫耳・犬耳の獣人族をあてがえば、縛れると思うからね」

「・・・わかった。もう一つ、リンは真命が違うのはなぜ?」


 僕もそれは気になっていた。

 みんなはなぜ真命を変えていないのか?

 最初は、皆と合流するためだと思っていたが、そうでもなさそうだ。


「ミルの”隠蔽”ではできないの?」

「うん。昨日やってみたけど、できなかった」

「そう・・・そうだ。ミル。僕を鑑定してみて、僕のステータスやスキルは覚えているよね?それと、僕が”神崎凛”だってわかったのはなぜ?」

「まずは、リンが凛くんだってわかったのは、ジョブとステータスの値、スキルを僕が覚えていたから、真命は違っていたけど、間違いないと思った」


 なぜか、マヤがうなずいている。

 いつ仲良くなったの?


「え?なんで?」


 鑑定したみたいだな。


「鑑定してみてくれた?」

「うん。ジョブも違うし、それに、スキルが?鑑定では見えるはず。たしかに、前は見えた。リンのスキルには、鑑定系と会話というスキルがあった」

「ミル。鑑定していい?」

「もちろん」


真命:鵜木和葉(1)

ジョブ:魔法剣士

体力:240

魔力:320

腕力:180

敏捷性:190

魅力:100

魔法:青(3)・赤(3)・黄(1)・灰(1)・黒(2)

スキル:隠蔽、(隠蔽)魔法の吸収、(隠蔽)剣技の吸収

ユニークスキル:(隠蔽)鑑定


 隠蔽されているスキルを見る事ができる。


「ミル。マヤに鑑定させてもいい?」

「いいです。マヤは、リンと同じ」

「マヤ。ミルを鑑定して、スキルとユニークスキルの数を教えて」

「わかった」


 マヤがミルを見ている。

 正直美少女二人が並んでいる眼福である。


「リン。3つと1つだよね」

「うん。ありがとう。今度は、ミルがマヤを鑑定してみて同じ事を教えて」


 さて、マヤの隠蔽されているエクストラスキルが見えるのか?


「スキルはないの?え?鑑定が有るはずだよね?」


 これで確実になった。

 僕の隠蔽と鑑定は、少なくても、ミルが持っている隠蔽と鑑定とは違うのだろう。鑑定は、なんとなくそう思っていたが、隠蔽まで別物だとは思わなかった。


 さて、これで、重久たちに協力する事ができるな。

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