第八話 アロイの街
柵の中に入って、一息付くことが出来た。まだ、街に入れているわけではない。
街に入るには身分証の提示が必要になって、そこでも時間が取られるのだが、身分証を確認されること無く通過出来た。
領主の息子が仕切りたがっているのか、街の中央に集合するように言っていた。
少し開けた広場の様な場所で、何やら偉そうに語っていたが、『俺様が、居たから”ここ”まで無事に来られた。明日には、マガラ渓谷を、越えるけど安心しろ』といいたいようだ。
「ねぇ。リン。」
「ん?」
「アイツは何が言いたかったの?」
「あぁ”俺様がすごい”って事だろ」
「なんだ、意味解らない事を一生懸命話していたから大事な事だと思ったけど、コボルトを殺した辺りからわけわからなくなってしまったよ」
「クックククク」
「「!!」」
「お前たちやっぱり面白いな」
「「ラーロさんかぁ!?」」
「お前たち、周りには注意しとけよ。馬鹿はどこにでも居るからな」
「そのセリフを言うって事は、ラーロさんもあんまり真剣に聞いていなかったのですね」
「俺が聞く必要はないだろう?別にお前達の領主に世話になっているわけじゃないのだからな」
「それもそうですね」
三人で顔を合わせて笑った。
ラーロさんは、護衛のリーダから約束の報酬を貰って”ここ”で、隊列を離れて、奥さんと娘さんが待つ宿屋に帰っていった。
「マヤ。三月兎亭に行こう」
「うん」
リンの腕を取って、少し引っ張るように移動し始めた。
「ねぇリン。それで、三月兎亭ってどこにあるの?」
「!?知らないで歩いていたのか?」
「うん。間違っていたら、リンが指摘すると思っていたからよ」
「なんだそりゃぁ。僕も初めてだから知らないよ」
「え!?そうなの?」
「・・・。あのさぁマヤ・・・」
「あ!ラーロさんに聞けば解るかも・・・」
そう言うと、ラーロさんが向かった方向にダッシュした。
「・・・・。いいかぁここで待っていれば・・・」
「「あの。リン君。どうしたら良いの?」」
「あぁゴメン。ゴメン。そのうち戻ってくると思うから、少し待っていてくれると嬉しい」
「「うん」わかった」
しばらくしたら、マヤがダッシュで戻ってきた。
「はぁはぁ。あの...はぁ....ね。ラー・・・...ロさんが知って・・・はぁ・・」
「いいよ。マヤ少し落ち着いて深呼吸して....落ち着いてきた?」
「・・・うん。もう大丈夫。あのね。ラーロさんが三月兎亭の事を知っていて、場所を教えてくれたよ」
「それは良かった。マヤ案内出来る?」
「うん。大丈夫だよ。ウーちゃんもサラナは、その後で、ラーロさんの所に案内するよ!」
マヤを先頭に、三月兎亭に向かった。思った以上に離れていなくて、中央の広場から少し離れた通りに面した宿屋だった。
「こんにちは」
「はいはい。可愛い妖精ちゃん達だね」
「はい。2人なのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。二部屋空いているよ」
「マヤ」
「うん」
「お願いします。料金は、ニノサに請求して下さい。アスタさん」
「ん?あ!?ぁぁニノサ?」
「!!」
「ゴメン。ゴメン。嫌な奴の名前を聞いたからね。あの馬鹿の関係者?」
「お忘れですか?一度お会いしたと思うのですが?」
「!!あらぁぁサビニの子供たちじゃない。馬鹿の名前じゃなくて、サビニの名前だしてくれれば、すぐにわかったのに・・・いけない子だね?」
「ゴメンなさい。父さんの知り合いだってお伺いしていたので・・・」
「ううん。間違っていないけど、違うからね。私は、サビニの友達なの!」
「「・・・」」
「マヤちゃんとリン君だったわよね。リン君も後何年かしたら、ニノサの馬鹿に似てくるのかしらね」
「あらゴメンね。料金だけど、サビニから預かっているから大丈夫ですよ」
「「!!」」
「え!?どういう事ですか?」
「ん?サビニから聞いていない?」
「何も....マヤは何か聞いている?」
「ううん」
「そうなの?サビニから、リン君とマヤちゃんが、パシリカの時に寄ると思うから、その時の宿代ってお金を預かっているよ。二部屋分ね」
「二部屋?!」
「うん。もしかしたら、リン君とマヤちゃんが別々に部屋をしたいって言い出すかもしれないって言ってね」
「ねぇリン。それなら、二部屋借りて、一部屋にウーちゃんとサラナに泊まってもらえば?私はリンと同じ部屋に泊まればいいよね!」
「うーん。ラーロさんの所にお願いするって頼んじゃったからな」
「あっそうだった。それなら・・・・どうすればいい?リン?」
「うーん」
「ラーロの宿屋?」
「あっはい」
「それなら、ラーロの所に、二人の妖精ちゃんは泊まりなさい。お姉さんが、話しておくから安心して、パシリカの子供に、お金の心配なんてさせないかわよ」
「え?いいのですか?」
「いいわよ!」
少し強引に話を終わらせて、宿を取る事が出来た。
夕飯は、このまま
食事が終わって、明日おマガラ渓谷越えの事もあり、消耗品の補充をして置くことにした。
マヤも一緒に行くのかと思ったが、流石に疲れたから休んでいることにしたらしい。一人で買物に行く事にした。食料は、まだ十分ある。武器になりそうなものは売ってもらえない可能性があるから、領主の街でダメにされてしまった服を一式購入しておくことにする。
宿に戻ると、アスタさんに呼ばれた。マヤが気になっていたので、先にマヤの様子を見に行ってくると伝えたら、食堂で待っているからゆっくりしてきていいからと言われた。
部屋に入るとマヤがベッドの端で丸くなって寝ていた。
「女の子なのだから、もう少ししっかりしてくれたらいいのに・・・」
マヤが、寝ているベッドの脇に、布にくるまれたナイフが目に入った。布と一緒に取り上げて、ナイフを確認する。しっかり手入れをしてから寝たようだった。ナイフには僕が指示した通り、毒が塗られていた。強い毒では無いが、皮膚に傷が残る程度の強さはある。買ってきた荷物を置いて、アスタさんが待っている食堂に戻った。
「アスタさん」
「リン君。ここよ。あれマヤちゃんは?」
「寝ていますよ?必要なら起こしてきますよ」
「ううん。いいのよ。リン君が聞いて、必要だと思ったら、マヤちゃんに話してくれたらいいからね」
「はい。それで話ってなんでしょうか?」
「固くならないでいいわよ。それから、私の事は、”ナナ”って呼んでね」
「え~と。アスタさんの真命ですか?良いのですか?」
「ううん。違うわよ。
「はぁナナさん」
「ううん。ナナ」
「流石に、母さんの知り合いを、呼び捨てにするわけには行きませんよ」
「ダメ。ナナ」
「はぁ?それで話ってそれですか?」
「違うわよ。”ナナ”と呼んでくれないと話さない」
「ナナ。それで話って何?」
「うん。それはね。サビニがね。君達が来たら渡して欲しいって置いていった物があるよ。受け取ってもらえる?」
「え!?なんですか?」
「良かった。ちょっと待っていてね」
そういって、アスタさん改めナナは、軽く言葉を紡ぐと、手を空間に差し入れた。
そして一つの袋を取り出した。
「これは?」
「ん?中身は知らないわよ。
「マヤは?」
「う~ん。多分リン君だけだとおもうよ。血縁関係で縛っているみたいだからね」
「あっ?ナナは知っているの?」
「私が言えるのは、昔”サビニとニノサと、一緒に旅をした事がある”と、いうことだけね」
「わかりました。いずれ話してくれると思っていいのですよね?」
「リン君やマヤちゃんが本当に知りたいと思って、サビニとニノサが話してもいいと言ったらね」
「わかりました。ありがとうございます。それで、このマジックポーチはどうやって使えば良いのですか?」
「ん~私も
恐る恐る袋の入り口に手を入れていくと、自然と奥に手が吸い込まれていく感覚になった。
そして、頭の中に袋の中のイメージが映し出されるようになった。手を取り出すと、そのイメージは消えて、また入れるとイメージが出てくる。イメージは小さな箱がいくつも並んでいて、箱に名前が書かれて居る。多分中に入っている物なのだろう、横に数字が書かれている。感覚を頼りに、箱の一つに意識を集中すると、箱の中身が詳しく表示された。手に持ったのは、”矢”と、書かれた物で本数は99となっていた。そして、簡単な説明が頭の中に表示された。
「ナナ。これって、父さんと母さんが俺にくれたの?」
「うん。そうだよ。中に何が入っていた?」
「沢山入っていて全部は見てないけど、かなりはいっていたよ」
「そう。大事に使ってね」
「はい。それはもちろん。ただ、なんで、これを今渡されるのか....。ナナは何か聞いていませんか?」
「う~ん。ごめんなさい。それも言えないの。約束しちゃったからね。ただ、それは、貴方を大事に思ってくれた人から、託された物だから大事にしなさい」
「ありがとうございます」
「うん。良い子ね」
少しせつない表情をして僕を抱きしめてきた。このまま時間だけが流れていくかと思った。ナナは思った以上に柔らかく、本当に母さんに抱きしめられているようだ。
「うん。リン君」
ナナは身体を離すと、正面に座って
「ニノサの馬鹿は別にして、サビニの話やマヤちゃんの事を話して、いろいろ知りたいの。」
マジックポーチの中身を確認したかったが、ナナに強引に座らせられて、村での生活やマヤの事をいろいろと話をした。
気がついたときには、かなりナナと話をしていた。
ナナが、マヤと一緒に寝るのは普段からなの?と嬉しそうに質問してきた時に、
”バンバン”と大きな音がした。その後で、マヤの
「リン!!リン!!」
呼ぶ声に導かれるように、マヤが眠っている部屋に急いだ。
/*** マヤ Side 場所:
リンと分かれて部屋に残ることにした。
アロイの街に来るまでに、何度か使ったナイフや弓の手入れしてきたけど、今日は、宿屋に泊まれたことだし、ナイフもしっかり手入れしておくことにした。リンが居るとできない。
たしか・・・買ったよね?
袋から、下着を取り出した。
今、身につけている下着を脱いで、ナイフで繋がっている部分を切る。サイズを調整して、ナイフを磨くための布にする。リンに、言われた通りに、毒を刃になじませる事にする。毒を塗ってしまうと、そのまま鞘に収める事ができない。そのために、使い捨ての布が必要になる。
そのために、布を買うと高くなってしまうので、下着を使うほうがいいと、ママに教えてもらった。
今日は、宿に泊まる事で、しっかりした手入れをする事が出来た。
(それにしても疲れたな。リンはよく動けるな)
(アスタさん素敵な人だったな。男性だなんて思えなかったよ)
ナイフの手入れも終わって、あとは、毒が馴染んでくれるのを待ってからしまえばいい。
今日は本当の意味でリンと二人だけになれそうだ。
そう考えると、顔が熱くなってくる。
何度、リンは兄妹と言い聞かせてもダメな事はダメ。一度意識してしまうと止まらない。
誰かの目があるときには自制出来ていると思っていたが、二人きりになるとどうなるか解らない。
(リンは覚えているのかな?)
それは二人が初めて会った日の事。兄妹になった日のことを?
リンは、私の兄さん。私が、パパやママに連れてこられた時から、そう決まっている。
リンは、覚えていないのかも知れない。私たちが初めて会った時のことを・・・。
複雑な気持ちになっていた。兄妹じゃ無いことを覚えていて欲しい。でも、バレたくない。今の関係が一番いい。
リン。何しているの?早く帰ってこないかな。リンに、名前を呼んで欲しい。
武器の手入れをして、ベッドで考え事をしていたら、いつの間にか眠ってしまった。
起きたときには、荷物が増えていた、私の脱いだ下着を巻いたナイフも鞘に戻されている。
帰ってきた。どこに言っているのだろう?
そのうち帰ってくるよね
眠くなって来て、また眠ってしまった。
/*** ?? Side 場所:
(おい。ここで間違いないのか?)
(あぁそのはずだ)
(よし、外れた、中に入るぞ)
男二人が、マヤとリンが泊まっている部屋に侵入した。
(男は居ないようだな。早く荷物を盗んで逃げるぞ)
(おいおい。女が居るだろう?)
(馬鹿っやめておけ、その女はあの方が最初に味見すると言っていたぞ)
(ばれなきゃ大丈夫だろう?)
男が一人、マヤに近づいてきた。
「誰?」
とっさに男はマヤに飛びついて、口を塞いだ。
「!!!!っク」
その瞬間、男の手に激痛が走った。
マヤは男を力の限り蹴り飛ばした。テーブルにあたって倒れ込む男。
「リン。リン」
マヤは出来る限りの大声で叫んだ。
男達は、とっさにリンが買ってきた荷物を、持って入ってきた所から逃げ出した。
「マヤ。どうした」
リンが見たのは、ナイフを手に持って木枠から外を睨んでいるマヤの姿だった。
「リン。ゴメン。逃がしちゃった」
「マヤ。何があった?」
「アスタさんもゴメンなさい。迷惑かけちゃった」
「ううん。それはいいの。マヤちゃんが無事なら....(ニノサとサビニの話が杞憂じゃないみたいね)」
「マヤ。大丈夫か?」
リンは、マヤが持っているナイフから血が垂れているのを見ていた
「うん。腕だとおもうけど、切りつけたら逃げていったよ」
「そうか。また、荷物か」
「うん。ゴメン」
「あぁ大丈夫だよ。消耗品や服だけだから、それにほらこれを貰ったからな」
リンは先程渡された、マジックポーチを見せた。
「何それ?」
「説明は後だな。まずは、ナナ。部屋変えて貰っても大丈夫?」
「う~ん。変えてもいいけど、いっその事今日は私の所に泊まっていけば?マヤちゃんは嫌かもしれないけど・・・ね」
「え?(っは)そんな事無いですよ(アスタさん気がついていたのですか?)」
小声で話す、マヤとナナを見比べて
「マヤが良いのなら、ナナの所に行くのが安全だろうな。それに、いろいろ話が出来るだろうからな」
アスタは、隣の部屋から出てきた宿泊客にワケを話した。
リンとマヤは、アスタの部屋に泊まる事になったので、荷物を持って、移動を開始した。荷物と言っても、ほとんど無くなってしまっているのも事実だ。
アスタの部屋に移動して、アスタからの話をリンはマヤに話をした。
マジックポーチの所有権に関しては、リンの取扱のミスで一人だけの登録になってしまった事を、マヤに謝った。
「別に、リンが使えればいいと思うよ」
と、軽く流されて、話は終わった。
明日もある事から、マジックポーチの中身の詮索は明日以降にして眠る事になった。
◆◇◆◇◆
「おい大丈夫か?」
「痛えよ。あいつナイフに何か塗ってやがる。さっきから薬塗っているけど一向に痛みが治まらねぇ」
「手をだすからだよ。自業自得だ」
「そうだけど・・・よ!アイツ結構良い身体していたからな」
「それこそやめておけ、あの方に殺されるぞ」
「怖い。怖い。それよりも荷物は持ってこられたのか?」
「あぁ大丈夫だ。あの部屋にあった荷物はこれで全部だから間違いない」
「そりゃぁ良かった。」
リン達の部屋から持ってきた荷物を掲げて二人は”クックククク”と笑って、あの方の所に急いだ。
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