第二話 転生するの?

「どういう事だよ。なんで俺が残っているんだ?死ぬのは、うすのろだけでいいだろう?」

 立花も残されていた。


「私も?」

 消えるような声で瞳が口に手を当て呟いた。


 その表情には、自分が残されたことが納得出来ない様子が伺えた。周りを見回したが、バスの運転手や添乗員さん、先生や副担任といった大人は、誰も残されていない。20名前後の生徒だけが残されていて、立花の取り巻き連中は、全員残されていた。

 女子も、ひとみの周りに7人ほどが集まっている。

 一人でいるのは、女子1名と男子1名だけだ


『おちついてね。君たち全員が死ぬわけじゃないから安心してね』


「あ?どういうことだ!さっさと説明しろ!うすのろだけを殺して終わりにすればいいだろう?」


『だから、君うるさい』


『さて、残された君たちは、事情があって残ってもらった。理由としては、地球に残っている身体の損傷が激しくて、すぐに戻しても、重篤な障害が残ったり、不自由な生活を送ったり、命の危険がある。僕の力はさっきの転送と、軽傷な人の損傷箇所の修復で使ってしまって、今は力が使えない状況だよ。それでもいい?力は、5日程度で戻ってくるから、そうしたら、君たち残された21名から、18名の身体を修復して返すことができるよ』


 そこでアドラは言葉を切って、21名を見回した。


『そう、君たちの中から3名は生き返らせる事ができない。これは、僕でも変えることが、できないことなのだよ』


「そんなの、うすのろとそれをかばう女とだれか一人を決めればいいだろう?なぁそう思うだろう?」


 立花が今まで以上にヒステリックな声でそう発言した、取り巻きもそれに賛同するような声を発している。

 こうなる事は想像していた。その時には、自分が死ぬのは構わないそう思っていた。


「そうだ、茂手木。お前が死ねよ。お前の母親。山崎の所で仕事しているんだろう?お前が自分から死んでくれたら、俺から言って首にしないでやるからよ。そうすりゃぁ妹も学校に通い続けられるだろう?」

「おぉそうしろ。俺からもオヤジに言ってやるから安心して死ね」

 茂手木と言われた少年に同級生の視線が集中するのが解る。


 女子の集団もひとみの周りから少し離れるようにひとみを見つめている。

 一人の少年が「僕は・・・」そう言いかけた時に、

 ひとみが「なんで私が死ななきゃならないの?凛君の事は先生に頼むって言われただけで別に好きで気にしているわけじゃないし、少しでも内申点を上げたくてしている事だから、なんで私が死ななきゃならないの?凛君でいいでしょ!あっ....」


 思いがけないひとみの心からの言葉。同級生の視線は、茂手木と呼ばれた少年から、ひとみに視線を移している。


 ふとした静寂のなか

「ひとみ・・・」

 幼なじみを見つめた。


『やっぱり、人間は面白いな。話を続けるよ。君たちに選ばせてあげるとは言ったけど、それは君たちが、よくつかう”多数決”ではないよ。僕に、力の証明ができた人に、地球から出て行く存在を決めもらう』


「あぁ?なんだ、それ?」


『力というのは、君たち自身の心の強さであって、”親の地位”や”体力”や”発言力”のことじゃない。君たちの”心の力”を、見せてもらいたいのだよ、それでなくては判断できないでしょ?』


「あ!?ここで喧嘩でもさせるのか?誰が最後まで立っているのかとかするのか?」


 立花は立ち上がって周りを威嚇した。


『本当、君うるさいな。それに、”心の力”だっていったでしょ。ちょっと黙っていてくれないかな。これからが大事なことだからね』


 アドラは、皆を見渡して言葉を続けた


『君たちには、地球によく似た別の世界に旅立ってもらう。そこで決められた時間を過ごしてもらって、勝者が地球から出て行く3人を決めてもらう』


 アドラは、地球によく似た別世界(異世界)の説明とこれからの説明を始めた。

 異世界は、地球とほぼ大きさは同じで、魔法と剣で身を守り、錬金術や魔術で生活を豊かにしている場所だという事だ。

 何から身を守るのかといえば、諸外国はもちろん、魔獣と言われる魔物も数多く生息している、他にも、亜人と言われる多種族との共存が行われている。宗教観は12世紀の地球と同程度で幾つかの宗教があるが、”統一教”と呼ばれるような全世界的に浸透している宗教も存在している。

 細かい事は、現地で確認して欲しいと言われた。


 俗に言う丸投げ状態だ。


 大事な事は、異世界の時間の概念が地球の1、460倍だという事で、異世界で1日過ごしても地球では、約1分程度しか経っていない計算になる。アドラの力が回復する5日、安全を考えて地球時間の7日間過ごして、その時点で”心の力”を一番示せた人物を決定する。

 決定方法は、”現地の人たちにどれだけの影響を与えたか”と、”心の力”を引き出した者という曖昧な指標になる。影響は、”いい影響”でも”悪い影響”でもどちらでも大丈夫だということだ。簡単に言えば何人に名前を覚えてもらったかになる。


 異世界で、28年間過ごして、そこで決着をつける事になる。ただ、いきなり、異世界に行っても、すぐに死んでしまう可能性もあるし、基礎知識の不足から現地の人々と軋轢が発生してしまう事もあるので、僕たちは、現地の人間として転生する事になる。転生するときには、今の魂を使って生成されるので、地球の時に培った知識は継続される事になる。

 そして、現地で成人となって、”真命”と言われる本当の名前を授かる儀式(成人式のようなものだと理解した)の時に、前世の記憶として、地球人である事や知識が思い出されると、説明された。


 成人は、13歳だから、実質的には現地時間15年で争う事になる。

『ここまではいいかな?』


『君たちは、既に人間関係が出来上がっているみたいだから、異世界でもその力関係を使って物事を進めようとするだろう?』


『それは、僕が望まない事だと言ってもダメだろうね。だから、君たちの姿形は変えさせてもらうよ。性別はそのままにしておいてあげる。地球での事を思い出しても、語らなければ誰だってわかる事は無いだろう』


『それから、君たちには少しでも役立ってもらえるように、現地の人たちよりも少しだけ能力が優遇されるような処置を施しておくよ。現地では、ジョブと言われる職業クラスが存在して、ジョブごとにできる事が違ってくるよ。簡単に言えば、戦士クラスのジョブを持っている人は剣で戦うときに有利になるようなスキルやステータスになっているし、魔術師クラスは魔法を使う事に特化している。いろんなジョブがあるけど、中には何それってものもあるよ。君たちは、そのジョブの中でもかなりの上位にいけるステータスになると思う、苦手な部分でも現地の平均以上のステータスにはなると思う』


『現地で死んでしまったりしても、君たちはこの部屋に転送されて、時間が来るのを待ってもらう事になるから安心して、だから面倒だと思っても、自殺なんてつまらないことはしないようにね。現地で培った力は、勝者が望めば、全部ではないけど地球に持っていく事もできるからね。僕達の管理ミスも有ったから、君たちにはそのくらいの恩恵を与えたいと思っているよ』


『君たちには、ステータスを偽るスキルを付与しておくよ。現地では、ステータスシートと呼ばれる物で、ステータスが表示される仕組みあるからいろいろ見られてしまうと、やりにくい事もあるだろうからね。ちなみに、スタータスを偽るスキルはそれほど珍しい物ではないし、現地の人たちでも1000人に一人程度は持っているからね。でも、偽ったステータスを見破る鑑定のスキルもあるから注意は必要だよ』


『それから、スキルに関しては、神々の加護だと現地では思われているからね。これも成人の儀式で権限する事になるよ』


 スキルは、通常一般スキルをさして、ジョブにつながるようなスキルを指している。ステータスの表示も通常は、スキルと言われる項目だけになっているらしいが、100万人に一人程度が持つと言われるユニークスキルと言う物もある。ユニークスキルにも種類はいろいろあり、成長により権限する物もあるとの事だった。そして、ユニークスキル以上に稀有なスキルをエクストラスキルと呼び、これは10億人に一人とも言われている。これらのスキルは現地でも権限している人は居るが、最初から権限する人は少ないとの事だった。


『一番になるために、全員を殺してしまって自分だけ、時間一杯異世界で過ごしていてもいい。何をするのも君たちの自由だよ。勇者や英雄を名乗って魔物退治や敵国への侵略をするのもいいだろうね。何か、現地にない事を発明して名前を売るのもいいだろうな。君たちの今までの知識を有意義に使って異世界を発達させてみせてよ』


『君たちの生まれる場所やジョブに関しては、現在の状態を参考にさせてもらうよ』


 一通りの説明が終了したのか、アドラは子供たちを見回している。


『さて誰からジョブとステータスを付与する?』


 アドラが手に持っている球体がステータスを付与する物だということになる。

 全員にステータスが付与されたら、異世界に転生するとの事。


 立花が立ち上がって、

「おい。聞きたい事がある。7日間たったらここに集まって、死ぬ3人を決めるという事だったが、他の18人は生き返るって事でいいのだな?」


『さっきそう説明したよね?』


「その間は、俺の身体は、無事なのだろうな?」


『病院の生命維持装置に繋がれた状態になっていると思うよ。生死の境を彷徨っている感じになるのかな』


「あぁそうか全部治っていきなり助かるのだな」


『そう思っていいよ』


「あのぉ?ちょっといいですか?」

 一人の女子が手を上げながら発言した。ひとみの友達の重久?だった。


『ん?何?』

「状況は理解出来たのだけど、ジョブは自分で選べないのですか?せっかくだから、私魔法使いになって魔法をつかいたいって思っているのですよね」


『ごめんね。できないよ。でも大丈夫だよ。簡単な初期魔法なら全員使えるくらいのステータスにはなると思うからね』


「そうかぁ、ですよねぇ、それは楽しみですぅ」

 なんとも間の抜けたしゃべり方をする。立花は、取り巻きと何か話している。皆、友達と話をしている。自分達が置かれた状況がわかって、不安な気持ちを話す事で、安心感にして拭い去ろうとしている。

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