師匠


おれの弟子と言い張る裸足の少年に付きまとわれて

おれは困っていた

困っていたなんてもんじゃない

迷惑なんだ

「ししょお、ししょおっ」

ふくらはぎに絡み付いてくるのだ

こいつ妖怪か何かなのではないだろうか?

「ししょお、ししょおおおっ」

なんなんだよ?

「あのですね、ぼくに必殺技を教えてほしいのです」

必殺技?

なにそれ?

そんなのあるならまずおれが真っ先に教えてもらいたいよ

おれは教えた

「あのな、お前の親指と中指のあいだに指があるよな、これは元来、人刺し指といって人を突き殺すための指なんだ、わかるな? だからお前はこの指を鍛え本来の力を取り戻すためお師匠の肩を毎日、百回、押せ」

「それうそっすね」

なんでわかったんだ!

頭が悪いくせに妙なところだけ冴えていやがる

隠しておいたドーナツの場所などはすぐに特定し食ってしまう

「あ、ししょお、ドーナツ半分いただきましたから」

半分?

あのなあ

ドーナツってのは輪っかだからドーナツなんだよ

半分になったドーナツなんてものに価値は無い

その形状を手に取った時のおれの虚無を考えたことがあるか?

弟子なんて必要無い

それなのに何故かいる


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