サニーデイパーラー


おれは

ストローで吸い上げた

くいっくいっと

ストローの中で水面が上下に移動するのが楽しかった

嘘だ

そんなもの微塵も楽しくなかった

一刻も早く自殺したいそんな衝動を抑えるので精一杯だった

ただ楽しいふりをしていただけだ

そしてそれを楽しいと思い込んでいただけだ

自分自身を騙していただけだ

実態の無い影と遊んでいたようなものだ

うんざりだけが固体で

おれの肩に手を回している

そういったことに気付いてしまった今となっては

もう何もかもが下らなく思えた

待ち合わせ場所に彼女が来ない

ただそれだけだった

もう約束の時間を七秒も経過している

約束の日は昨日なので実際には二十四時間と七秒が経過していることになる

いくら温厚なおれだって我慢の限界だ

来たら目が合った瞬間ぶん殴ってやる

有無を言わせない

そう心に決めていた

男が女を殴る

実に素晴らしいことではないか

太古の昔から繰り返されてきた野蛮な法則

結局、そういったことがこの星を回す原動力となっているのに違いないのだ

おれはぶつぶつと独り言を呟きながら頭の中で絵を描いた

だが来ない

彼女はおれの殺気を察知したのだろうか

おれは再び手元のジュースを啜ることにした

液体は今、気付いたが灰色だった

(何の果肉を使ったらこのような色になるのだろう?)

もしかしたら雑巾の搾り汁かもしれない

客を不快にさせるためだけに作られたようなジュース

そして彼女は来ない

永遠に来ない

そもそもおれには彼女などいたことはないのだ

そのことに気付いた

そういえばそうだった

いやそうか?

彼女はいる

どっちだ?

おれの彼女の初体験は野菜だ

大根

何故、そのようなものを自らの陰部に突っ込もうと思うのか

日曜日だった

店内では恋人たちが糸電話でおしゃべりをしていた

(ねぇねぇ見て、斜め後ろのあの人、さっきからずっといるね)

(もしかして住んでるの?)

………いけない

ついつい被害妄想、気味になってしまう

おれは店員を呼びジュースのおかわりを追加注文することにした

「これもう一つ、ください」

すると奥でミキサーが回る音が聞こえ始め何らかの悲鳴がこの客席まで届いてきた

おそらくモグラだろう


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