勇者
おれは勇者だ
勇者は魔王と戦うのだ
何故だと?
おかしなことを問いかける奴だな
勇者は魔王と戦うしかないのだ
生まれた時から他に選択肢など無い
だから魔王を倒すための羽交い絞めを必死になって練習してきた
そしてついに魔王城の眼前までやって来た
長かった
ここまでの道のりを思うと自然と涙が出た
最終決戦を前にして生まれ育った故郷の村へと顔を出すことにした
のどかな何も無い村だ
外でスライムが出現した
おれに体当たりしてきた
何のダメージも無かった
わざわざ攻撃をかわす必要も無かった
軽く胸で受けた
油断は禁物
あんなに死んだ父がそう教えてくれていたのに
襟元の僅かな隙間からスライムがするりと入り込んで来た
ゼリーみたいだった
ふるふるした
おれの腹部までつつーっと滑るように落下して来た
「はわわ」
おれは急いで服を脱ぎスライムを取り出そうとした
上半身、裸になろうとした
「きゃあー」
仲間の女性からの猛烈な非難があった
慌てて言った
「いやそうじゃなくてさ、今、見てただろ? スライムが一匹いないだろ? それ今おれの服の中に入ってるんだよ」
そう説明したかった
だがその間にもスライムは直肌で飛んだり跳ねたりし続けた
おれは突如、半裸でげらげら笑い出すなどして状況はますます悪化の一途を辿った
まるで腐った死体を見るような視線
今日まで共に苦楽を分かち合って来たパーティーではないか
魔法使いの女の子に至っては小声で呟いている呪文の矛先をおれの方へと向けようとしていた
(まじかよ)
やはりこのあいだ宿屋でえっちないたずらをしようとしたのが裏目に出た
「今日は新しい町まで歩いて疲れたね、お兄ちゃんがマッサージしてあげようか? さあうつ伏せになりな」
「………」
魔法使いは涙ぐんでいた
おれは後悔した
こんなことになるならあんなことしなければ良かった
結局、太腿しか触らせてくれなかったし
おれのお腹の辺りでふるふるしているスライムがベルトを通過して腰を伝って足首まで到達した
はわ
ふるる
みみみみみっ
涎を垂らした恍惚の表情のおれ
魔法使いの禁呪が炸裂しようとしていた
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