旅立ちの夜


もう二度と

ここへはやって来ないと誓った

真夜中

列車に乗り込んだ

客は自分以外、誰もいなかった

椅子にゆっくりと腰掛けた

驚いた

ぎいっというその音は車両の端から端まで響いたようだったから

列車は音も無く走り始めた

じっとしていると

期待と不安が入れ替わり交互にやって来ては

急かすのだった

わたしは窓の外を見た

景色は次々と後ろへ吹っ飛んで行った

もう既にここは自分の知っている場所ではなかった

窓硝子の表面に

薄く映っていた自分と目が合った

見上げた空には

数えきれない小さな星が輝いていた

綺麗だった

それはけして人間のためではないだろう

星はわたしに見られていることなんか

これっぽっちも気にしていないだろう

だからわたしは安心してそれを見つめ続けることが出来た

そのまま、そうしていてほしい

そう思った


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る