夜明け前


ふにゃふにゃした

パンを噛んだ

全くやる気の無いパンだった

そいつにリンスを塗った

目の前がお花畑に変わった

はなまるパン

そう名付けた

いけるぞ

おれは思った

早速、自分の店で売り出すことにした

スマイル・ベーカリー

それがおれの本拠地だ

この不況下を駆け抜けるぞ

はなまるパンだけではまだ不十分だと思った

他にもどんどん品数を増やさなくては

おれはパンにウインナーを挟み茹でてみた

パンの原型が無くなりさらに食べやすくなった

これならお年寄りでも食べられる

あと赤ちゃんの離乳食としても最適だ

さて

ネーミングセンスが問われるところだな

飲むパン

いけるぞこれっ

希望が確信へと変わった瞬間だった

早速、店が忙しくなることを想定しパートのおばちゃん連中を雇うことにした

おれの開発したはなまるパンや飲むパンはおばちゃん連中による猛烈な批判を受けた

「なにこれ?」

「あんたさ、こんなものにお金を払う客が本当にいると思ってるの?」

全くむかつくばばあ共だ

おれは言った

「お前ら賃金が欲しかったら黙って言われた通りに手足を動かせ」

大量生産に踏み切った

結果は大惨敗

ばばあ共がほおらねといった表情で腕を組み佇んでいた

おれは言った

「すいませんでした」

ばばあ共に頭を下げることにしたのだ

経営者としてちっぽけなプライドなんて捨てた

「今度は是非ともあなたたちのようなパンに詳しくない一般市民の声も聞かせてください」

だが調子に乗ったばばあ共から生み出されるアイデアはと言えば………

「こんなのはどうかしらね、パンをメロンの形に似せて焼くの、名前はメロンパン。とってもユニークだと思わない?」

既にある

それをさも自分が考えたかのように喋る神経が理解、出来なかった

他の誰かが口を開いた

「それはとってもユニークだと思うの、でもこういうのはどう? スイカ、スイカパンなの、ね?」

ただの類似品だ

このような連中から生み出されるものなど何も無い

そう結論づけたおれはばばあ共を全員、解雇した

再び独り厨房に立った

何も思い浮かばなかった

外で鳴いている蝉を混入させたりした

思っていたよりはうまかった

思っていたよりは


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