十三章

第151話

 エマのプレートで大学への通路を開く。

 そこを通って、ジャックたちは大学へと帰ってきた。


「ガブリエルを村に運んでください。あまり乱暴に揺らさないでください。傷口が開いてしまいますから」


 コビンが言う。

 ガブリエルは狩人たちに運ばれ、ロドリックの案内でエルフの村へと運ばれていく。


「ヴィリアーズ公は、持ち堪えそうか?」


 ジャックが尋ねる。


「わかりません。一応外傷の応急処置はしましたが、問題は体の内部の方です。切開して臓器を見てもいいんですが、道具もなければ知識もないのでなんとも……」


「それは、私に任せてくれないか」


 ロドリックが言う。


「できるのか?」


「こう見えて、昔は医師を志していたのだ。何人かの施術も担当したことがある。任せてくれないか?」


「ああ。頼む」


「……村長に掛け合って、村の家を使わせてもらおう。道具は私が持っている道具で賄う。コビンくん。助手としてついてくれるか?」


「ええ。喜んで」


 コビンは力強くうなずいた。

 ロドリックとコビンは、急ぎ足で通路を抜けていく。

 

「あの……今回はありがとうございました」


 エマが言う。

 彼女はユミルに付き添われながら、よろよろと歩いていた。


「大丈夫か?」


「ええ。ちょっと、疲れただけですから。それより、父の元へ行かないと……」


 ユミルに礼を言って、エマはエルフの村へと向かう。

 心傷の具合から見て、相当な不安が彼女の体を襲っていたのだろう。


「大丈夫かしらね、あの子」


 エマの揺れる背中を見ながら、ユミルが言う。


「倒れたときは、担いで運べばいいだけだ」


 ジャックは止めていた足を動かして、通路を進む。

 

「優しいんだか、厳しいんだか。わかったものじゃないわね」


 頬を緩ませながら、ユミルはジャックの後を追いかける。


「でも、珍しいわね。自分からヴィリアーズ公を助ける気になるなんて」


「ヴィリアーズ公は、私にとっては大口の顧客だ。死んでもらっては、稼ぎが少なくなるだろう」


「理由は、本当にそれだけ?」


「……どういうことだ」


「いえ、別に。ただ、貴方にしては、やけに気を利かすなと、ちょっと思っただけ。……それとも、本当に別の理由があるのかしら?」


 ユミルが、ジャックの顔を覗いた。

 ジャックは鬱陶しそうな目で、ユミルを見つめる。

 そして、あからさまなため息を吐いた。


「あのプレートだ」


「プレート? エマさんの?」


「いいや、ヴィリアーズ公のだ。帝国の貴族たるもの、城の中に個室を持っていたとしても、不思議ではない。そこにプレートで転移できるとすれば、絶好の移動手段になりうる」


「なるほどね。だから、いつになくやる気だったわけか」


 ユミルが言う。

 そしてしたり顔で、うなずいた。


「でも。城内に転移できるって、確かな情報でもあるのかしら」


「ない。ヴィリアーズを連れ出した時にでも、エマに聞き出そうと思ったが、機を逸してしまった」


 通路はもう時期終わりを迎える。

 ふと、ジャックの足が止まった。

 そして、何かを思い出したかのように、ジャックはユミルに向き直った。


「これはエドワードに話す。ことを始めるのであれば、早いほうがいい。エマには、お前から聞いてみてくれ。私よりも、お前の方が対応が柔らかいから、聞き出しやすいはずだ」


「人任せね。自分でやったらいいじゃない」


「人に会わねばならないのを思い出した。先に行っていてくれ。ロドリックには、ドアを開けたまま待っているように伝えておけ」


「誰に会うのよ?」


「サーシャだ。奴に戻ってきた旨を伝えてやらねば」


 ジャックは通路を引き返し、大学へと戻って行った。


「……変なところで律儀よねぇ」


 ユミルが言う。

 肩をすくめ、彼女は村へと戻って行った。

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