学校で一番問題の場所・3


 アガサは、まるでバレエリーナのように片足で立っていた。その肩の上に、フレイも片足で立っている。

 もはや、抜けていない場所は爪先立ちしている今の場所しかなく、フレイはとにかく、アガサにはこのポーズも限界である。


「が、学生牢から落ちて死ぬなんて、絶対に嫌!」


「そそそ、そんなあたりめーなこと、今更いうなって! ねーさん」


 足元は真っ青な空と時々流れる白い雲。

 だが、下を向けば間違いなく落ちてしまう。床下から吹き込む風に煽られて、アガサの髪は逆立っていた。

 いや、もしかしたら恐怖のためだったかもしれない。


「キャー誰かぁーーーー、助けてぇーーーーー!」


 叫んでみても、声は風に呑まれて消えた。


「だいたいねーさん! 人に頼ってばかりつーのも問題! たまには自分でどうにかしなきゃ!」


 アガサは肩先のフレイを睨んだ。


「な、何言っているのよ! 元を正せば、ごく普通の平凡な女の子をこんな変人にしたのは誰よ!」


「……う、それを言われると、おいら立場ない……」


 肩先に爪先立ちしていたフレイは、まるで瀕死の白鳥のようによろめいて、ひらひらと舞い落ちた。


「きゃー! フレイ!」


 慌てて受け止めようとして、下を向き、手を出したのがまずかった。

 爪先立ちのバランスが崩れたのは、アガサのほうだった。


「あ? あわわわわ???」


 瀕死の白鳥……ならぬ、岩場のペンギンのように腕を振り回してバランスをとったが、それは無駄な抵抗だった。

 アガサの体は、哀れわずかな床から離れ、学生牢の床に開いた穴から、空の中へと吸い込まれた。


「うわわわーーー! ねーさん!」


 フレイの悲鳴が聞こえた。


 これは死ぬ。

 努力と根性があったって、地面に叩きつけられて死ぬんだ!

 あぁ、私の恋はこんな悲恋で終わるなんて!


 それでもアガサは諦めが悪かった。

 落ちながらもフレイに向かって命令した。


「フレイ! 私の体を持ち上げて!」


「わー! ちゃんとおいらを利用して!」


 フレイは飛べるはずだが、羽をたたんでアガサのあとを追ってくる。


「利用って? 私、ソーサリエじゃないからできないっ!」


「できなかったら死ぬんだぞ! 地面に叩きつけられて、べちゃっと!」


 実に気持ちの悪い姿を想像して、アガサは青くなった。

 それならば、焦げた熊ちゃんのほうがまだマシだ。


「べちゃ、なんて嫌! べちゃなんてぇ!」


 ベチャ!


 激しい衝撃。

 哀れ、アガサは地面に叩きつけられて、即死……かと思った。

 だが、地面に着いたにしては早すぎるし、体がつぶれたにしては、痛みがそれほどでもない。

 死ぬって……こんなことか? とも思ったが、それにしては目の前のフレイがうれしそうに踊っているし、何かが変だった。


「おーっ、空から女の子が降って来た」


 いきなり地面から地鳴りのような声。アガサはびっくりして跳ね起きた。

 地面ではなかった。そこは、ふっくらした男の人の腹の上だった。

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