コロし屋シリーズ 殺拳おてんば娘と魔王の右手帳

@Gosakuri

第1話

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 王国スンゴラ。そこそこの貿易国で、住民は5000人以上。他国から貨物船が何艘もやってきて、品物をドカドカ降ろして商売を始める。客はスンゴラの住民だけではなく、旅行者や旅商人、貨物船の乗組員やその商人など。港でワイワイ盛り上がって、商売を楽しむ。

 そんな国を気に入って、コロし屋暗殺ピノとその夫ヒャクをはじめ、殴殺ストログ、斬殺キリがスンゴラの住人となった。

 そして、斬殺キリは得意な料理で生計を立てるために、定食屋を立ち上げることに成功。

殴殺ストログはある女性と付き合って、めでたく結婚。一人娘のナクルを授かる。


その6年後に、ピノとヒャクの間に、コロし屋暗殺の異能と戦闘種族ライオヒューンの肉体を持つキングが生まれた。そのあと、第一級魔法犯罪者のヴァニーガールと出会い、召使いとして雇用した。


それから2年後。殴殺ストログとその妻は他界。1人残されたナクルはキリに引き取られた。


そして、現在。ピノの夫でありキングの父ヒャクは、世界中を回る旅をしていて、キング達はマンカイハナミ王国へ旅行に出掛けている。

キリとナクルは、定食屋で昼時の混雑にも負けない活気と熱意で、空腹の客に料理を作って運んでいた。


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 昼時が終わり、ガラガラの店内でナクルがうーんと伸びをする。

「あぁ~。終わった終わったぁ~。今日もお疲れさん。キリ兄」

「ああ。お疲れ。―いやぁ、今日はダママ王国とウェルギスト王国、ノンプランソ王国、その他2国からの貨物船が朝から一度に来るって聞いていたからよぉ。いつもより多めに食材を仕入れたんだが、もう空だわ。夕方まで持つだろうと思っていたが、誤算だよ。こりゃあ、もう店仕舞いだわ」

 キリは苦い笑みを浮かべながら、団扇(うちわ)で汗に塗れた顔を扇(あお)ぐ。


 ナクル・バワー。現在の歳は15歳。定食屋を手伝っているので、紫の髪を短くウルフカットに整えてある。歳相応の背丈で、体つきは華奢。顔つきはおてんばなイメージがピッタリで、可愛らしい。服装は動きやすいカジュアルを好む。

 亡きコロし屋殴殺ストログの血と異能を受け継いでいる。キング同様、コロし屋キッズである。

 キリの営む定食屋キリコロの看板娘で、彼女目当てで来店するお客も、多数いるほどだ。


 キリ・サクザク。コロし屋斬殺。定食屋キリコロの店主であり、亡き親友のストログの一人娘ナクルを引き取って育てた男性でもある。

 年齢は30代前半。ナクル同様に、定食屋を営んでいるので、金髪をショートのソフトモヒカンに整えてある。顎(あご)鬚(ひげ)も綺麗に整えていて、似合っている。体格も背丈も男らしく、頼りがいのある男性といった雰囲気を醸(かも)し出す。


「やったっ。じゃあ、戸に札を掛けるね~」

 と、ナクルは喜んで、出入り口の戸に『閉店』と書かれた札を掛けた。いそいそと裏口へ駆け寄って、そこの戸を開ける。

 キリコロ定食屋の裏は、キリとナクルの家がある。木材で建てた二階建ての立派な家屋(かおく)だ。

 家へ入り、ダダダと二階に上がって、自分の部屋へ飛び込む。あらかじめ机の上に用意してあった財布を持って、再び定食屋へ顔を出す。

「それじゃあ、市場へ行ってくるね~」

「おう。気をつけてな。暗くなる前に帰ってこいよ」

「分かっているよ」

 ナクルはニヒヒと笑って、裏口の戸を閉めた。小走りで家屋の玄関のすぐ側にある門を通って、そのまま港に向かっていった。


  〇


 貿易国スンゴラの港市は、朝から現在まで商売で盛り上がっていた。商人の怒号のようにも聞こえる呼び込む声が、そこら中で飛び交っている。お客もそれに負けじと声を上げて、商品を尋ねたり、まけてもらおうなどと頑張っている。

 ナクルはこの熱気と雰囲気が大好きであった。

貨物船が多く停泊する日の港は、やっぱり良い。

彼女はそれらを楽しみながら、いろいろと商品を見て回る。欲しい物があれば、買うつもりでいた。

しかし、どれもピンとくる品物はなかった。代わりに小腹が空いていたので、露店でバーベキューの串焼きを二本ほど購入した。

牛肉に濃いソースを漬け込んで、炭火でじっくり焼かれてある。牛肉とソース、炭火の匂いが鼻孔を通ると、口内で唾液が大量に分泌される。油がポトポトと地面へ零れ落ちる。

唾液を飲み込み、ガブリと噛みついて、グイッと串から引き抜く。噛むごとに肉汁がジュワアッと溢れ出し、それが濃いソースと混ざり合う。それらをしっかり味わい、ゴクリと飲み込む。

「はぁああぁあ~」

 ナクルは至福の表情を浮かべて、『旨い・・・』と呟いた。

 それを見た客達は、そのバーベキューの露店へ殺到した。

 食べながら市場を歩き回り、公共のゴミ箱へ食べ終わった串二本を捨てる。それからも興味が湧いた商品を見回ったが、どれも欲しいと思える物はなかった。

 夕方近くになりだした頃、店仕舞いするところがチラホラ出てきた。スンゴラの法律上、夜中に港で商売するのは禁止されてあるのだ。

 店仕舞いを見て、帰宅する人が増えてきた。

 見たい物は見たし、私も帰ろう~と。

 ナクルは遠回りになるが、東側の通りから港市を出た。

 この通りから帰宅すると、スラムを通らなくてはならない。あそこは浮浪者や他国から逃げてきた訳あり人間などが住んでいる。普通は危険なのだが、『殺す』ことに特化した異能を持つコロし屋であるナクルにとっては、廃れて静かな街路でしかない。

 スラムの通りを歩いている途中、アサシン家の家屋(かおく)前を通った。

 確か、キングくんとピノさんとヴァニーさんは、マンカイハナミ王国へ旅行に行っているんだっけ。御土産を買ってくるって言っていたし、楽しみだな~。

 そこを眺めてから通り過ぎて、テクテクと歩いていく。

スラムから出る手前で、誰かが倒れていた。

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