アンディが兄を噛んだ日

 ある晩、夜中に真世ちゃんが洗面所で何かを洗っていた。


 血と……きつい栗の花の匂い


 「ああ、ごめんね アンディ、起きちゃったのね」


 真世ちゃんが下洗いに出した下着をビニール袋に入れてしばっている。


 僕はそのとき、まだ二歳(人間年齢で言うと、十五歳ぐらい)で、血気盛んだった。


 真世ちゃんは、まだ十二歳で、小学校六年生だった。


 「アンディ。 お兄ちゃんが ひどいことしたの」


 真世ちゃんは ポロポロと 涙を零した。


 僕は、真世ちゃんの涙を舐めて、何が昨晩起こったかを全部 聴いた。


 まだ 初潮も 来ていない女の子に乱暴するなんて、許されないことだ。


 その晩、真世ちゃんの兄……とも、呼びたくない男が、僕に ご飯をあげようとした。


 「えっ」

 「えっ!?」


 真世ちゃんと、男が同時に声をあげた。


 僕は 奴の手を強かに噛んだ。 血が流れ落ちた。


 『真世ちゃんは もっと痛かったんだ! 辛かったんだ! 弱いものいじめする奴は こうだ!』


 真世ちゃんは、アンディ やめて と 言ったが、僕は聞かなかった。


 「アンディ、アンディ、もう、良いんだよ……」


 良くないよ!


 良くないよ……真世ちゃん……。

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