プールに潜む怪物

 歩河真琴あゆかわまことだるような暑さに参り、近くのレジャープールに涼みに行くことにした。今日ほど近くにレジャープールがあって良かったと思った日はなかった。家の中で過ごしていると、あまりの暑さに、まるで茹で蛸になってしまいそうな気分だった。

 真琴は早速、押し入れの奥から黒色のビキニを取り出し、鞄に放り込んだ。それから半袖半ズボンに着替え、家を出ると、真琴はレジャープールに向かって歩き出した。


 ☆☆


 レジャープールは歩いて五分ほどの距離だったが、真琴はすでに汗だくだった。半袖が肌に張り付き、ベタベタして、気持ち悪く、早くビキニに着替えたくてたまらなかった。

 施設の職員に入場料を支払うと、更衣室で黒色のビキニに着替えたが、ちょっとだけお腹が出ているのが気になった。けれど、真琴は誰も自分に注目することはないだろうと、お腹のぽっこり具合は気にしないことにした。

 更衣室を出ると、真琴はプールに浸かった。ちょうど良い温度で、一気に汗が引いた。他の客の邪魔にならないように、軽く泳いでいると、何かに足が強く引っ張られるような感覚がした。慌てて水中に顔をつけて状況を確認した真琴は背筋がゾッとした。

 半透明で全身が鱗で覆われた半魚人のような怪物が、真琴の足を掴んでいたのだ。真琴は助けを呼ぼうとしたが、あまりの恐怖に声が出なかった。しかも、真琴以外には誰も怪物の存在に気付いていなかった。何人かが怪物の横を通り過ぎたが、驚いている様子はなかった。

 真琴は必死でもがき、怪物の手から逃れようとした。しかし、怪物の手を振りほどくことはできず、瞬く間にプールの底に引きずり込まれてしまった。

 真琴は怪物に頭を掴まれ、吸水口の防止柵に押し付けられた。顔が防止柵にめり込み、激痛が走った。まるでところてんのように、真琴の体は防止柵の向こう側に押し出されていく。押し出された真琴の体は、吸水口に吸い込まれていった。

 怪物は満足そうに頷くと、煙のように、プールから姿を消した。

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