紙飛行機

 私は部屋の窓から庭に向かって紙飛行機を投げた。紙飛行機はゆっくりと急降下し、庭に落ちた。

 じっと庭を見つめていると、お父さんが帰ってくるのが見えた。紙飛行機の存在に気付いたお父さんは拾い上げると、玄関に向かった。

 私は窓から離れると、すぐに部屋を出て階段を駆け下りた。ちょうどお父さんが入ってくるところだった。私に気付くと、お父さんはぎこちない笑みを浮かべた。私も笑みを返したが、上手く笑えなかった。

 台所のテーブルで夕食を取った。私もお父さんも黙り込んだまま、食事を進めた。自ずと私の視線は奥の仏壇へと向いた。仏壇にはお母さんの遺影が飾られている。交通事故死だった。お母さんが死んで私は唯一の肉親を失った。

 お父さんはお母さんの再婚相手で私とは血のつながりはない。けれど、お母さんが死んだ後も、お父さんは私に良くしてくれる。面と向かって感謝の気持ちを伝えるのは恥ずかしいから、いつも手紙を書いている。それを紙飛行機にして、お父さんが帰ってくるタイミングを見計らい、庭に投げているのだ。

「……いつも手紙ありがとう。さくらの手紙を読むと、元気が湧いてくるよ」

 ふとお父さんがポツリと呟いた。見ると、お父さんは優しい笑みを浮かべていた。

「お父さんには感謝してるから。ねえ、今日お父さんと一緒に寝ていい?」

「もちろんだよ」

「ありがとう、お父さん大好き!」

 私は大好きなお父さんの肩にもたれかかった。

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