覗き

「覗いた僕が悪いけど、君にも原因があるんだよ」

 僕は部屋で由梨ゆりと向かい合っていた。由梨は露出の高い恰好でベッドに座っている。

「そんな露出の高い恰好をされたら、覗きたくなるのも仕方がないことなんだよ。それに僕の部屋で着替えてたんだから、ノックをせずに部屋に入るのは当然だろ?」

「…………」

 由梨は何も言わずに黙り込んだままだった。目も合わせてくれない。無表情を保ったまま、僕のお腹をじっと見つめている。

「露出の高い恰好をしている時点で、覗いてくれと言っているようなものだと僕は思うんだよ。何も言わないところを見ると、覗かれても平気ってことだね?」

「…………」

 由梨は相変わらず黙り込んだままで何も言わない。僕はため息をつきながら、椅子から立ち上がった。由梨に近づき、髪を撫でた。さらさらな髪質で、触り心地が良かった。

「どうして何も言ってくれないんだい? 僕のことが嫌いなのか? どうすれば僕の気持ちは伝わるのかな?」

 僕は気持ちを伝えたくて由梨にキスすることにした。唇が触れる直前、廊下を歩く足音が聞こえた。ノックもなしに扉が開かれる。母さんが呆れた表情で僕を見ていた。

「凝りもせずにまたとしゃべっているのかい? いい加減にしておくれよ。もう二度としゃべらないでおくれ。分かったかい? もしまたしゃべったりしたら、晩飯抜きだからね」

 母さんは僕をギロリと睨み付けると、部屋を出ていった。

「君のせいで怒られたじゃないか。君はもういらないな」

 僕は由梨――もとい人形の首をへし折った。

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