少女らのリレー小説
私の教室ではリレー小説が流行っている。学校全体で流行っているわけではないので、実質的には流行っていないのに等しいのだが。
「最後は
「一応確認するけど、無茶苦茶なことはしてないよね? ちゃんと続きを書けそうな話だよね?」
私は秋奈に確認を取る。
「多分、大丈夫だと思うよ。あとは冬香の腕次第だよ」
少しだけ不安になる。
「明日までには仕上げてね」
「うん、分かった」
秋奈は自分の席へと戻る。
私はノートを開いた。一人目は
☆☆
ここは『人間ロボット』と『ロボット人間』でできた世界である。
世界の中枢を担う『人間ロボット』は外見はなんら人間と変わりはない。だが、自分に害を及ぼすものが現われた時、人間からロボットへと姿を変形させるのだ。変形後は人間の面影はなく、完全な機械である。
またそれと対を成すのが『ロボット人間』である。これは『人間ロボット』の逆バージョンだ。変形後はロボットの面影はなく、完全な人型である。
一体の『人間ロボット』と一体の『ロボット人間』が出逢う時、物語は幕を開ける。
ある連続殺人事件が街を賑わせていた。
犯罪捜査科所属の
そしてコンビを組むことになったロボ
二人は早速事件現場へと向かった。
☆☆
なるほど、そういう世界観か。『人間ロボット』はまあ、良しとしておこう。『ロボット人間』はなんか残念だ。ロボットから人間へって弱くなっているじゃないか。強くなるならまだしも弱くなるのはどうなんだろう。あと名前適当すぎるだろう。
二人目は
☆☆
事件現場には黄色い立ち入り禁止テープが張られていた。その奥には青いビニールシートが見えている。
ロボ之助と人間太郎は立ち入り禁止テープを潜り、事件現場に立ち入る。
「仏はどうなっていますか?」
ロボ之助は刑事に尋ねる。
「身体の至るところが破損しています。どうやら、変形途中で殺害されたようです」
「見せてもらってよろしいですか?」
今度は人間太郎が尋ねた。
「どうぞ、こちらへ」
二人は刑事に連れられて、青いビニールシートがあるところへ行く。
ビニールシートをめくると仏が姿を現す。ところどころが破損しており、上半身が人間、下半身がロボットの男だった。死体解剖してみないと現時点では、仏が『人間ロボット』か『ロボット人間』かは分からない。
「この仏の身元は判明していますか?」
ロボ之助は尋ねた。
「はい。被害者が持っていた免許証によると、名前は
「そうですか。ありがとうございます」
「いえいえ、では失礼します」
刑事は鑑識のもとへ走っていく。
二人は事件現場を後にした。
二人は被害者たちの周辺を洗うも、共通点や関係性は見つけられなかった。
☆☆
どうも推理のようだ。私が最後だから、この事件を解決しなければならない。果たしてできるだろうか?
秋奈が犯人に繋がる描写を描いてくれていれば、なんとかできるかもしれない。
三人目は紅葉秋奈だ。
☆☆
人間太郎は被害者らの共通点や関係性を見つけられないことに不甲斐なさを感じ、気分転換として街を歩いていた。
気分転換をしようとしたにも関わらず、事件の事を考えてしまうのは職業病だろうか? これでは気分転換の意味がないではないか。
一人ぼそぼそと呟きながら歩いていると、人間太郎はロボ之助が路地裏から出てくるのを目撃する。
ロボ之助は辺りを警戒するかのように見回している。どうにも様子がおかしい。そそくさとその場を去っていく。
追いかけようかとも思ったが、せっかくの気分転換だ。また明日にでも何をしていたのかを問いかけようと考え、人間太郎は家に帰ることにした。
翌日、またも事件が起き、事件現場へと向かう。その事件現場は昨日、ロボ之助がいた場所の近くだ。
この前の事件と同じく、被害者は身体の至るところが破損しており、男である。
「被害者の身元は?」
人間太郎は近くにいた刑事に尋ねる。
「ロボ
「ありがとうございます」
「いえいえ」
刑事は手を振って、ビニールシートへと近づいていく。
「そういえば、ロボ之助さん。昨日この現場付近にいましたよね? 何をしていたのですか?」
人間太郎はロボ之助に問いかける。
「散歩していただけです。それと考え事をしながら、歩いていたので道に迷ってしまいましてね。焦ってしまいましたよ」
ロボ之助は問いに答える。
焦っていたところを目撃したのかと人間太郎は思った。
それから、二人は事件現場を後にする。
その数日後、鑑識班がロボ山人間太の身体に付着していた部品を調べたところ、人間ロボ之助の部品と判明した。すぐさま、ロボ之助のロボット時の拳と被害者の破損した部分にあった拳を照合した結果、一致した。
それと同時にロボ山人間太が人間ロボ之助の元恋人だったことを突き止めた。
☆☆
えっと、ロボ之助はホモなのだろうか? いや、待て。ロボ之助が実は女だったということも考えられる。性別描かれてなかったし。まあ、なんにしろ、これなら私でも解決できる。秋奈が犯人に繋がる描写を描いてくれたから。
ちゃんと続きを書けそうな話で良かった。
最後はこの私――
☆☆
「こんなところに呼び出して何の用ですか?」
ロボ之助は人間太郎に問いかける。場所は人気のない公園。ロボ之助は非番だったので、黒いワンピースという私服姿だ。
人間太郎は鑑識班から、部品及び拳の件を聞いている。
「ロボ山人間太はロボ之助さんの恋人だったそうじゃないですか。なぜ、別れたんですか?」
ロボ之助は数秒間沈黙し、口を開いた。
「浮気されたからです。自分で言うのもなんですが、私ってすごく美人じゃないですか。それなのに浮気するとは理解しがたいですね」
さらりとロボ之助は自分が自意識過剰であることを告げる。
「それが殺した
「何を言っているのですか?」
怪訝な顔でロボ之助は人間太郎を見る。
「ロボ山人間太の身体に付着していた部品があなたのものだと判明したんですよ。破損部分にあった拳もあなたの拳と一致しましたよ」
「あなたなんて呼ばないでもらえますか? ロボ之助って呼んでくださいよ。急に呼び方を変えるんで驚きましたよ」
ロボ之助は非難するような視線だった。
「……すみません、ロボ之助さん。今から私の考えを言うので、聞いてもらえますか?」
「仕方ないですね。どうぞ」
ロボ之助は促す。
「ロボ山人間太を除いた被害者らには何の共通点も関係性も見つけられませんでした。それも当然ですね。被害者らは何の繋がりもない他人同士なのですからね」
ロボ之助は髪の毛を弄りつつ、静かに聞いている。
「ロボ之助さんは自分とは関わりのない『人間ロボット』と『ロボット人間』を手当たり次第に殺しまくりました。それから頃合いを見計らって、目的であるロボ山人間太を殺害した」
そこで一旦止めて、ロボ之助の反応を窺う。まだ髪の毛を弄っていた。
「関係ない者たちを殺したのは自分に目が向かないようにするためですね。ロボ山人間太とは関係がありますが、他の者たちは関係ありませんからね。そうするとこの事件は通り魔として処理される確率が高くなってくるでしょうね。それがあなたの狙いだったのではないですか? 私の考えは以上です」
ふぅ~と人間太郎は息を吐いた。
「またあなたって言った。それは置いとくとして、人間太郎さんの考えは当たってます。証拠隠滅はしたつもりですが、いかんせんロボ山人間太を殺せたことに興奮し、部品を見落としていたようですね」
ロボ之助は自分の犯した罪を認めた。
「殺害方法を教えてもらっていいですか?」
人間太郎は気になっていたことを尋ねる。
「この美貌を活かして、男を逆ナンしたんですよ。猫なで声で『変形しているところを見せてほしいなぁ。私も変形しているところを見せるからぁ』と可愛い子ぶりました。男は興奮した様子で承諾しましたよ。私と男は同時に変形し、油断したところを殺害しました。私のような美人に殺されたのですから、被害者らも本望でしょう」
ロボ之助はクスリと笑う。
「では、ロボ之助さんを殺害の容疑で逮捕します」
人間太郎は手錠を取り出し、ロボ之助を逮捕しようとする。が、その前にロボ之助は人間太郎に抱きつく。
「見逃してくれると嬉しいなぁ」
ロボ之助は上目遣いで、人間太郎を見つめ、猫なで声を出し、誘惑しようとする。
「でも、その前に変形している姿を見せてほしいなぁ。けど、ダメに決まってるよね。私は犯罪者だもの」
悲しげな表情をロボ之助は見せる。
「ふっ。私も男です。誘惑には勝てません。変形の姿をお見せしましょう」
人間太郎は変形を開始する。体中の外装が外れて裏返しになり、戻っていく。人間太郎はロボットから、人間の姿へと変形した。
「ロボ之助さん。これが私のへんけ……」
人間太郎は最後まで言葉を発することができなかった。なぜなら、ロボ之助の腕が人間太郎の身体を貫こうとする直前で、待機していた刑事がロボ之助の腕を掴んだからだ。
「人間ロボ之助! 貴様を殺害の容疑で逮捕する!」
いつの間にか大勢の警官が公園にいた。
「ああ、ここまでか」
ロボ之助は呟いた。
☆☆
うん、完成だ。
今日の放課後にでも見せるとしよう。
どんな反応するか楽しみだな。
「どう、みんな?」
私は秋奈たちに問いかける。
「いつの間にロボ之助の性別が女になったの?」
秋奈は開口一番にそう言った。
「秋奈の書いた小説の最後に『ロボ山人間太が人間ロボ之助の元恋人だった』って描写があったから。最初は男同士の恋愛かとも思ったけど、女って可能性もあるなと思ってさ。性別描かれてなかったし」
私は秋奈の疑問に答えた。
「私は『ロボット人間』や『人間ロボット』に性別なんてないつもりで描いたんだけど」
最初の書き手である春深は苦笑していた。
……あちゃ~。
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