妹の推理

 俺は階段を上がり、妹の部屋に入った。

「おにいたん!?」

 妹は驚き、眼を見張った。妹の身体をじっくり観察する。

「そんなに見つめないで恥ずかしいから」

 もじもじと身体をくねらせる。

 瑞々しく輝かしいツルツルとした白い肌。両手を真ん中に寄せ、小さな胸を大きく強調しようとしている。それでも小さいことには変わりないが。毛などまったく生えていない局部。要するに妹は生まれたままの姿だった。

「何で裸なんだ」

「着替えの最中だったから」

「だとしてもブラとかパンツは着けてるだろう」

「今日は、ノーブラ、ノーパンの日だもん」

「……そんな日いるか?」

「いるよ! 今日だけ、どすけべな気分になれるもん!」

「着けててもなれると思うけど」

「分かってないな、おにいたん。例えばそこにいる君がノーパンでスカートを穿いていたとしよう。風にあおられスカートがめくれ上がるとする。すると君の下半身が露になり、周りにいる男どもが興奮する。君はそれをみて男どもが自分の露になった下半身をみて興奮していると考え、君自身も興奮してパンツを穿いている時よりもどすけべな気分になる。これにて私の説明は以上だ。おにいたん」

「そういや女の気持ちよさは男の倍ってテレビで言ってた様な気がする」

「そうなのか。童は初耳じゃが」

「ちゃんとキャラ統一しような。それとあくまで気がするってだけだから正しいとは限らない。間違ってる可能性もある」

「で、おにいたん私に何の用」

「うん。母さんの様子がおかしいんだ。何かに怯えてるみたいで」

「そうなの。あの女! おにいたんに心配をさせやがって!」

「まあ、落ち着け」

「おにいたんがそういうなら落ち着く」

 母さんは本当の母親ではない。父さんの再婚相手だ。

 それと俺の名前が鬼異端おにいたんということもあり、妹は俺をフルネームで呼んでいた。妹の名は鬼妹おにまいで、下の名で呼んでいる。

「おにいたん。早速、あの女の会社にいくよ」

「あぁ、その前に服着な」

「うん」

 妹はジーパンを手に取り、穿こうとした。

「あとパンツも穿こうか」

「ええ、今日はノーパンの日なのに」

「いいから穿こう。ブラも着けよう」

 渋々といった様子でパンツを喘ぎ声を出しながら穿き、舌を出しながらブラを着けた。実の兄を誘惑しようとするとはやるな。

 ジーパンを穿き、長袖Tシャツを着た。

「準備完了。行こうおにいたん」

「ああ」

 俺たちは恋人のように腕を組み、家を出た。


 ☆☆


 会社の前に着いた。中に入り母さんのいる場所へ向かった。休憩している人がいたので話しかけた。

「あの少しお尋ねしたいことがあるのですが、お時間をよろしいでしょうか」

「はい、何でしょう」

鬼母女おにぼにょさんについてなんですが」

 母さんの名だ。

「はい」

「何か変わったことはありませんでしたか?」

「変わったことですか? そうですね。ときどきはっとしたみたいに後ろを振り向いたりしますね。怯えたみたいに」

「他には?」

「他ですか? う~ん、ないです」

「そうですか。ありがとうございます。お時間を取らせてしまって申し訳ありません」

「いえいえ」

 妹の手を取って帰ろうとしたその時、

「ねえねえ。誰か金横領したりとかしていない?」

 妹がそんなことを言い出した。

「お待ちください。調べてみます。……いえ、そんな事は誰もしていません」

「じゃあ、鬼母女にいやらしい視線を向けてるやつとかいない?」

「あ! そういえばあの人」

「何?」

「部長が凄くいやらしい視線で鬼母女さんを見ていました。胸とか尻を触ってました」

「そう。そいつここにいる?」

「いません。ちょっと前に長期休暇をとってましたので」

「それは鬼母女が怯え始めた前後辺り?」

「確かその辺りだったと思います」

「ありがとね」

「いえいえ」

「行こうおにいたん」

 妹は俺の手を取って歩き出した。

 家に着いた。


 ☆☆


「なあ、妹。金横領ってのは?」

  俺は気になっていたことを妹に聞いた。

「それは誰かの金横領に加担していつばれるかと怯えてたのかなって思っただけだよ。誰もそんなことしてなかったみたいだけど」

「嘘ついてる可能性もある」

「嘘ついてるやつの反応じゃなかった」

「そうなのか」

「うん。話を聞いて推測を立ててみた。おにいたん聞きたい?」

「聞きたい」

 妹は、人差し指を立てた。

「では、教えてしんぜよう。部長は鬼母女と関係を深めようと思って長期休暇を取り、一緒に旅行に行こうとしたんだと思う。二人きりになったときに旅行に行こうと言ったんじゃないかな。鬼母女はいやらしい視線で見られていることに気付いていて行けばレイプされると恐怖し、私は主人がいますしと断ったんじゃないかと思う。部長はいいじゃねえかというような事を言い、服を剥ぎ取って体を触ろうとした。鬼母女は恐怖して突き飛ばした。部長は打ち所が悪くて死んでしまった。鬼母女は驚き、どうにかしなくてはと思って死体を隠した。鬼母女は警察に怯えていたんだろうね。いつ逮捕されるかとね。こういうことだったんだと思う」

「母さんは……殺人犯?」

「殺す気はなかっただろうけど」

「死体はどこに隠した?」

「自分の部屋」

「母さんの……!?」

「鬼母女は誰も部屋に入れたことはないから都合が良かったんだろうね。夜の営みは父さんの部屋でやってたみたいだし。本当にあるかどうか確認する?」

「うん」

 俺は力強く頷いた。

 俺たちは母さんの部屋の扉を開け中に入った。

「あったね」

「ああ」

 男の死体がベッドに置かれていた。

「鬼母女に私の推測があってるかどうか確認しないとね」

 母さんが帰ってくるまでその部屋にいた。


 ☆☆


 ガチャリと音がした。どうやら帰ってきたようだ。

「母さんに話があるんだけど」

「何」

 俺は妹が立てた推測を母さんに話した。

 顔が青ざめている。

「母さん。妹の推測はあたってるんだね?」

 母さんはコクリと頷いた。


 翌日、母さんは自殺した。

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