先輩の告白のお話

 ピリリリと甲高い電子音が聞こえて目を開けた。すぐ目の前に綺麗な顔があってギクリとする。そういえば昨日、先輩と再会して何故か泊まることになったんだった。眠る時は背中を向けていたはずなのに先輩と向かい合っていた。私の腰をしっかりと抱いている先輩の腕は動く気配がない。

 目だけで電子音の正体を探る。ベッドサイドに目覚まし時計を見つけて手を伸ばした。ギリギリ届いたそれからは振動が伝わってきて、音の正体がそれだと分かった。

 そういえば、先輩に起こしてと頼まれていたのに目覚ましをかけるのをすっかり忘れていた。眠る前に先輩がかけたのだろうか。……いや、酔っ払っていたし、多分毎日同じ時間に鳴るようにセットされていたのだろう。

 時刻は6時。私はとりあえず先輩を起こすことにした。


「先輩、先輩、6時ですけど」


 反応がない。二度、三度、同じように声をかける。ようやく先輩が身動ぎした。


「んー……」


 モゾモゾと動き、布団の中に顔を埋める。ついでに私の胸にも。ちょ、それはちょっと困る。先輩、と困ったように言っても先輩は寝起きとは思えない強い力で私の腰を抱き寄せる。ふにふにと鼻先で胸の膨らみを刺激されて、否応無しに心臓が激しく動いた。


「せ、先輩、あの、目覚まし、鳴ってました」

「うん……」


 先輩の手が裾から入ってきて素肌を撫でる。指先でツッとなぞられビクッと体が跳ねた。太ももには昨日と同じ、硬い感触。もしかして昨夜と同じくらい危機的状況なんじゃないか。そう気付いた時にはベッドに背中が付いていた。

 先輩の顔は胸の間から左胸に移動し、はむはむと服越しに胸の膨らみを甘く唇で挟み込む。右手は服の中をさわさわと動き回り、左手は器用に私の足を開いた。ジーンズ越しとはいえ、擦り付けられた熱さは感じる。


「せ、先輩、寝惚けてますよね?」

「……」

「私、あの、昨日たまたま再会した結城ですけど……っ」


 もしかして、彼女か何かと勘違いされてる?いや、もし先輩に彼女がいるなら私が泊まったことは大問題なんだけど、先輩が私に手を出すほど困っているようにも思えない。私だと思い出せば先輩は止まってくれるんじゃないか。そう思った、んだけど。


「……奈々美ちゃん」

「は、はい、そうです」

「分かってる、昨日は我慢したっていうか、しきれなかったけど、奈々美ちゃんだよ」

「え?」


 先輩が私の胸を時折甘噛みしながら何か呟いている。よく分からず先輩を見つめていると、はぁ、とどこか陶酔したようなため息が聞こえた。


「今俺の腕の中にいるのは奈々美ちゃん」

「そ、そうですけど……」

「離したくない」

「えっ」


 先輩が私の胸元から移動して首筋に顔を埋めた。ぎゅうっと抱き締められる。さっきとは違うドキドキが襲ってくるのは気のせいだと思いたい。

 先輩の腕の中はいい匂いがする。包み込むように、そして慈しむように。優しく優しく私を抱き締めるその腕に勘違いしそうになる。先輩にとっても大切に想われているような、そんな感覚。先輩の大切な人になったような、そんな。

 私の少ない恋愛経験の中で、こんな風に大切に大切に包み込まれたような感覚は初めてで。体全体がほわんと温かい何かで包まれた気がする。何だこれ、幸せかもしれない。


「奈々美ちゃん」

「はい……」

「また会いたい」

「……」

「今日も明日も明後日も会いたい。君の顔が見たい。抱き締めたい」


 あれ、何だか熱烈な告白を受けている気分になる。いやまさか、あの「王子様」が?


「ごめんね、俺、本当はずっと君のこと好きだったんだ」

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