ホラーリレー小説 1話 

カール

ホラーリレー小説 1話 

「あつい・・・」

俺は現在大学に向かうためのバスに乗っている。

最寄駅から大学へ向けて片道30分。

緩い坂道を登りながら少しずつ山へと進む進路だ。


なぜ俺はこんな山にあるような大学へ進学してしまったのだろうかと

考える一方で、

ここしか受かる所がなかった自分の頭の悪さを

今更に悔いながらバスは学校を目指して進んでいく。


「あつい・・・」


ポーーーン

「次は、東の杜霊園、東の杜霊園、次でお降りの方は・・・」


そもそも殆ど山の中にある学校っていうだけでも

結構キツイのになぜ霊園が近くになるのだろうか。


サウナのようなバスの中で朦朧とそんな事を考えている。

頬を伝う汗はそのまま顎先へ向かい、

俺の履いているジーンを濡らしていく。

インナーは汗で肌に張り付いており

まだ午前中だというのにすでに帰ってシャワーを浴びたいと

思ってしまう。


大学という所は出席さえ取れれば単位を貰える授業が多くあり、

場合によっては1限の授業だけ受ければそれで授業がなくなる事もある。

そりゃ遊んでしまう人が多いわけだよ。


バスを降りそのまま校舎に向かうべくバスターミナルから階段を下りて

教室へ向かった。

この学校はほとんど山の中にあるが、

なぜか、バスターミナルがある所は校舎よりも高い場所にあり、

バスを降りて校舎に向かうためにはどうしても階段を使わなくてはいけない。

登校する分には良いが、帰りはこのそこそこ長い階段を上るのは

大学に入り運動不足になりつつある俺には少し応える。


煉瓦で敷き詰められた校舎を横切りながら

俺は授業のある講義室へと向かった。


講義室には学生が多くいる。

殆どが最前列と最後列で学生が集中しており

恐らくだが、90分後にはこの後列の学生はほとんどが

まるでマジックのように居なくなっている事だろう。

まあ、俺もその一人なのだが。


「おーい、明、こっちこっち!」


少し明るい茶髪の男がこちらに手を振っている。

彼は友樹。

高校からの友人だが、高校時代はそこまで交流はなかった。

たまたまオープンキャンパスに行く時に一緒に行く事になった事が

きっかけで今では親友と呼べるくらい仲良くなっている。


ちなみに、大学に入ってすぐ髪を染めたため

大学生デビューという奴だ。


「友樹早いね、朝弱くなかった?」

「なんか最近、変な夢を見るせいか眠れなくてさ・・・」


珍しいなと思った。

基本ノーテンキで感情のままに動いているような

生物の友樹が不眠か。


「なんかあったの?お前の好きなホラー映画見てたとかさ」

「いや、最近面白い映画ないし、なんか面白いネタないかなって

ネットサーフィンはしてたけど、これといってないんだよな。

まあ、聞いてくれよ。なんか何日か続いている夢なんだけさ」


とぼやいている友人の話を聞き流し、

横にかばんを置き学生証を取り出した。

前の席から回ってくるスキャナーを使って

学生証のバーコードを読み取る事で出席を取っている。

ちなみに学生証をコピーしても使えることが分かっているため、

俺の財布と友樹の財布にはそれぞれの学生証のコピーが

入っていたりする。


勉強はろくにしないくせにこう言った悪知恵が働くのだ

大学生恐るべし。


今日1限にある授業は「人間関係論」

テストはなく、最後論文を出すことによって単位が取れる

お手ごろな授業だ。


「はやくスキャン回ってこねぇかな」

友樹はあくびをしながらスマホを見ていた。


「確かにこの授業よく意味わかんないよな」

人間の心情が能率を左右するって言われても

ちっとも分からない。

つまり気分しだいで効率が変わるって事なんだろうか。

それなら確かにそうかもしれない。

今まさに、暑くて汗だくの俺は気分が最悪だ。

まともに授業受けられそうにないしな。


扉を開けて先生が講義室に入ってきた。

手にたくさんの本とノートパソコンを持っており、

教壇に立ち授業の準備を始めている。


そこでふと先生の隣に人が立っているのが見えた。

見た目は俺たちと同じくらいの年齢だ。

青白い顔色に白いシャツを着ている男だ。

授業を受ける学生か?


たまに大学院の研究生が授業のアシスタントとして

一緒に教壇にいる事があるのは知っている。

でもなんか様子がおかしい。

何もせずただ学生たちを見ているようだ。


(なんか気味悪いな)


「ほい、明。回ってきたぞ」

「・・・・」

「どうしたよ?ボーっとしてるけど」

「え・・・ああ、ごめん」

友樹からスキャン用の機材を受け取り

学生証に当てた。


「よし、出ようぜ」

「ああ、そうだな」


先生がホワイトボードに何かを書き始めている間に

鞄を持って講義室の入り口へ向かっていった。

きっとあと20分もしないうちに後ろの列から学生は消えるのだろう。


「今日は1限と4、5限だっけ?結構あいだ空くよなー

 どうする?」

「PC教室行ってユーチューブでも見てようぜ」

「それくらいしかないか」


俺たちは途中飲み物を買いPC教室へ行った。

そのまま次の授業までPC教室で動画を見ながら

時間をつぶした。

PC教室で飲食を見つかり注意されたのはご愛嬌さ。


残り4限と5限。

4限はパソコン授業だが、5限は歴史の授業だ。

1限と同じく5限は単位目的の授業のため、

また出席の記録さえ残せたらすぐに退席する予定だ。


4限の授業も問題なく終わり次の5限の授業へと向かう。

場所は1限の時と同じ大きな講義室だ。


授業開始10分前に入り、空いている席を探す。

うまい具合に1限目と同じ場所が空いていた。

「またあそこ座るか」

友樹に誘導され、そこに俺たちは座った。


「今日の夜どこで飯食べる?

 松屋は昨日いったしな」

「そうだな・・・適当にファミレスで良いんじゃない?」

「じゃあ駅前の所行くか・・・ってなんだあれ?」


そういって友樹は教壇の方へ目をやった。



そこには男が教壇の近くで立っていた。

見覚えがある。


あいつだ。

青白い顔をして、白いシャツを着ている男。

1限の授業で立ってこちら側を見ていた気味の悪いやつ。

なんでまたいるんだ?


「なんであいつ、あんな所立ってこっち側向いてるんだろ」

「さあ、でもあいつ1限の時もいたぜ?」

「え!?、まじかよ・・・気づかなかった」

向こうの奴に聞こえないようにボソボソと話している。


ほんとになんだよあれ

誰かを探しているみたいだ。


「誰か探してんのかな」

友樹も同じ事を思っていた様だ。


「かもしれないな」

「だよな、、手振ってみるか?」


何をいってるんだ、こいつ!

「いや、止めとけって、なんか気味悪りぃし」

「大丈夫、大丈夫」


そういって友樹は奴に向かって軽く手を振った。

奴は首を振って周りを見ていたが、

友樹が手を振っているのを見て首の動きを止めた。


「おい、こっち見てんじゃねぇか」

「ははは、ほんとだな。手振りかえさないかな」

能天気な奴だな。

そうして奴をもう一度見た。



笑っている。


頬が裂けているんじゃないかと思うくらい。

人間ってあんな三日月みたいに笑えるのか・・・

そうして奴は右手を上げた。


(何する気だ・・・)


右手の指は人差し指のみ伸ばしている。

そう、指をさしているのだ。

こちらに向かって。


「おい、なんで笑ってこっち指さしてんだ」

「やべ・・・やばい奴だったかな」

「だからやめとけって言ったんだよ、

 おい、もう行こうぜ」

出席は取っていないがあいつはずっとこちらを

笑いながら指さしている。


異常な事態だからあわてていた。

先生がちょうど入ってきたが、

そんなの気にしている場合じゃない。

すぐに友樹と二人で講義室を出て、

バス停に向かった。


「おい、何そんなに急いでんだよ、バスはまだ時間あるだろ」

「だめだ、早く帰ろう、あいつ絶対変だ!」

「何言ってんだ、そりゃみれば分かるって。

 あんなに笑って指差してんだぜ!頭イカレてるって」


違うそうじゃない、

もっと根本的な所がおかしい。


「違うってそういう意味じゃない。

 おかしいだろ。

 あの教室俺たちがいた時に何人いた?

 40人はいたはずだ!!

 なのになんで誰もあいつに気づいた様子はなかった。

 笑いながら指さしてるやつが、教壇に居たんだぞ!?

 誰も何も言わないって変だろう!!」

 

「そりゃ・・・確かに変だな」

「それに見たんだ、

 最後先生が教壇に付いた時、

 その横であいつは笑っていた。

 なのに先生は注意してなかった」

 

「・・・・おい、それってあれか」

「人間じゃない、幽霊とかそういう奴だろ!」


バスに乗るため階段を駆けるように昇って行く。

ちょうどバスが来ており、俺たちは

急いで乗車した。


「おい、あれ見ろ!!」

友樹に言われ窓の外をみた。



青白い顔色で白いシャツを着た男。

奴だ。

口が裂けるように口角を上げて笑っており

こちらを指差している。


「ついてきた・・?」

「だ、大丈夫さ・・俺たちはバスに乗っている

 これでお別れだ」


本当に大丈夫なのか?

っていうかもう学校に行きにくいぞ・・


「まじ、こえぇ・・・なんだよあれ」

「お前が手を振るからだろ!!」

「やっぱそれが原因かな・・?」


間違いないだろう、

面白半分で余計な事ばかりする。


でもバスに上手く乗れたせいか。

少し気が緩んできた。

「もうあの授業出れないよな」

「お前のせいだぞ!」

「ははは、ごめん、ごめ」

友樹が急に黙った。


前を見て口を大きく開けている。

俺は友樹の目線を追った。



いた。


青白い顔に白いシャツの男。

バスの運転手の横でこちらに向かって指を差し、

笑っている。


「すぐに降りるぞ!!」

俺は降車ボタンを押した。


ポーン

「次はー東の杜霊園、東の杜霊園、次、止まります」


(くそ、よりによってここかよ!!)


バスが徐行するのに合わせるように奴は

こちらにゆっくりと歩いてきた。


「おい、こっちに来るぞ!!」

「早く、ドア開けよ!!」


俺たちはすぐに真ん中のドアから降車して霊園の前に出た。

振り返りバスを見たが奴はいない。


消えた・・?


「おい、どうする?」

「わかんねぇよ!

 そうだ、あそこ行くぞ」


霊園の近くには線香や生花など売っている場所がある。

そこで線香を買った。

レジの人には変な目で見られたが気にしてる場合じゃない。



「どうすんだそれ?」

「とりあえず、火をつけて身体に煙を巻いておこう」

「意味あんのかよそれ!?」

「わからんが何もしないよりいいだろ!?」


俺たちはテンパっている何が正しいのか

こういう場合どうすれば良いのか本当に分からない。


だからやれることはやろう。


俺たちはたっぷりと煙を身体に纏い、

線香の臭いをしっかりと体に着いた状態にして

帰路に着いた。


幸いあれから奴は現れなかった。


「線香ってすごいな・・」

「意味あったかわかんないけどな・・・」



それから友樹が先輩に聞いた話。

あの講義室には男の幽霊がいると実は有名だったらしい。

ただ、誰でも見えるものじゃなくて、

まれに見える人がいるっていうレベル。

ただ、悪さをするわけじゃないが、

その男に何かしらリアクションを取ったりすると

付いてくるらしい。

酷い人は自宅まで着いてきたって話もあったらしいが・・・

「でだ、多分俺についてきちゃったみたいだから、

 明は大丈夫じゃないかってさ」

「ほんとかよ・・・ってか友樹はどうするの?

 御祓いいとかか?」

「いや、近づかなければ大丈夫らしいんだ

 多分1年くらい駄目って言われたよ」

「それ大丈夫じゃないだろう・・・」

「だからさ、頼むよ・・・」


友樹は本当に反省しているのか微妙な顔で

俺に手を合わせて懇願している。

「はあ・・約束どおり、この授業がある日は飯奢れよな」

「ああ!任せろよ!!」


そうして俺はまたあの講義室に座っている。

いつもは友樹と一緒の授業だが、

今回は俺一人だ。

おそらく、あの時付いてきたのは友樹へであって

俺ではないらしい。

だから、俺なら授業に出ても大丈夫という事らしい。


俺は横から回ってきたスキャンの機材を受け取り

俺と学生証のバーコードに当てた。

ピッっと軽快な音を出し、俺は別の学生に

機材をまわした。

先生がまだこちらを向いて授業を進めている。

無関心は暴力であると説明している先生に対し、

あまりに無関心な態度を続けているこの学生たちは

先生に対して暴力行為を行っていると

暗に訴えているのだろうか。


ふと、先生の横に人が立っているように見えた。

慌てて視線を動かしたが、いない。

あれから友樹の代わりに出席を受けている。

最初はビクビクしていたが、あれから一度も見ていない。

もしかして違う場所にいたりしないといいのだが。


この授業は最後論文の提出が単位になるため、

極端な話授業に出ていなくても俺が変わりに

提出する論文などを聞いて友樹に伝えればなんとか単位は取れるだろう。


授業が終わって友樹がPC教室で動画でも見て楽しんでいたら

昼食は高いやつを頼んでやると思い、

俺はいつこの教室から退出するかを考えていた。



以上第1話になります。

初めてのリレー小説のため

何か間違っていることがありましたら

訂正していきたいと思っております。


次の話数は西木 草成さん担当予定です。

よろしくお願いします!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る