第71話 続・八咫の鏡クエスト

        続・八咫の鏡クエスト



 『伊勢神宮』は、造りとしては『出雲の国』に似ているが、街全体がやしろになっている。転移装置の正面にはでっかい鳥居。それを進み階段を昇り、門をくぐると、荘厳な雰囲気のする本殿だ。実際に行った事があると言うタカピさんに言わせると、ほぼ実物を忠実に再現しているらしい。


 ふむ、著作権とかはどうなっているんだろ?

 まあ、神社側も、宣伝になるから喜んで使ってくれってとこか?


「三種の神器が何処に保管されているかは諸説あって、ここじゃないって話もあるのだけれど、所詮ゲームよね。あまり深く追求しても無意味ね。ちなみに、八咫の鏡そのものは、高天原から日向の国に降り立った、天照大神が神勅するという話で……。」


 カオリンがうんちくを垂れてくれる。


「わ、分かった。それで、あの扉がクエストの入り口でいいのかな?」


 うん、カオリンの高度な知識は、俺なんざには理解不能な訳で。

 本殿の奥には、いつもの球が嵌め込まれた扉が見える。


「そうっす! あそこから地下に降りて行くっす。」

「あら、今は誰か挑戦中のようですわね。球が光っていませんわ。」

「そうみたいやな。ほな、待たせてもらおか。ここもそれ程時間はかからんし。っちゅうても、ボス部屋までは30分くらいかかるけどな。ほんで、ボス戦自体も、わいらやったら10分かからんからな。」


 ふむ。ここは、他のクエストとは若干仕様が違うようだ。普通は、ボス部屋の直前にこの扉がある。

 そして、扉にはライトニングサークルのIDが刻まれている。その下は、サモン達が言っていたように、棒線が4本並ぶ。そしてこれは、5人で達成した事を証明している。

 パーティー内に、名前を載せる事を辞退した者が居た場合、こういう扱いになるようだ。もっとも、連中の場合は隠密玉のせいだろうが。


 横にあるベンチで腰掛けながら、サモン達に更に詳細を聞いていると、扉の球が真っ赤に光った!

 お、今入っている組は成功したようだ。ただ、これだけでは、コンプかクリアかは分からない。


「じゃあ、取り敢えず入ってみよう。どちらの分岐に進むかは、さっきの打ち合わせ通り、神様を倒す方、右側で。」


 皆が頷いたので、俺は、扉の窪みに手を触れる。

 皆も触れたので、俺は中心の球にも触れると、扉が開いた。


「へ~、中はこうなっているのね。それで、あたし達は右側の扉ね。」


 入ると、ちょっとした小部屋になっており、左右に扉がある。


「カオリン、そうっす。そして、扉をくぐると、早速雑魚が湧いて来るっす!」

「それ、強いのですかね? 今から準備とかしておいた方がいいのじゃないですか?」

「いや、タカピさん、わいらやったら瞬殺や。団体できおるから、範囲攻撃のええ的や。」


 ふむ、それ程脅威では無いと。

 なるほど、連中が5人でコンプできたのも納得だ。

 最後のボスも、今までの話だと、そこまで強くはないようだし。


「なら問題無さそうですね。ところで、あの扉、一度開けたら最期、もう後戻りはできないのですか?」

「え? それは試した事ないですわ! でも、意味がありませんわ。」


 うん、確かにこの手のクエストで後戻りなど、愚行以外の何物でも無さそうだ。ただ、両方の分岐をクリアしたいとかなら別だが。


 ん?

 両方の分岐?


 あ~っ!


 俺は理解できた!

 そう、気にはなっていたのだ。


「お、シンさん、その顔はまたなんか閃いたようやな。ちょっと聞かせてや~。」

「そうっす! 早く教えるっす!」

「いや、ライトのギルド、昨日の感じだと、ライトを入れて最低でも6人は居るよね。」

「そうですわね。昨晩絡んできたのは5人でしたわ。」

「え? クリスさん、絡まれたって? あいつらまたなんかやったの?!」

「いや、カオリンちゃん、それはもうええねん、ちょっと黙っといてや~。シンさん、ほんで?」


 カオリンはサモンに制され、少し膨れるが、すぐに俺に向く。


「うん、あいつら何で5人なんて中途半端な人数でクリアしたんだろって。ここは、多分だけど、コンプしたらきっといい称号も手に入るはずだ。なら、仲間の一人でも多くにその称号を着けてあげたいよね? あいつもそこまで鬼じゃないはずだ。普通なら6人、ないしはそれ以上で行くはずだよ。」

「まあ、わいでもそない思うわな。」

「確かに不自然ですわね。」


 カオリンが大きく目を見開いた!

 そして、俺の前に立つ!

 ふむ、流石はカオリンだ。もう気付いたか。


「じゃあ、カオリン、後は頼むよ。」

「ええ、任せて! シンの考えはすぐに分かったわ! こういうの、一心同体って言うのかしら?」


 おいおい、また余計な事を。しかも、なんか微妙に違う気がするぞ。以心伝心が正解か?


「カオリン、一心同体じゃなくて、三位一体っす! それより、早く教えるっす!」


 これもなんか違う気がするが、まあいい。

 サモンとクリスさん、タカピさんの、ご馳走様という視線を軽く無視してカオリンは続ける。


「あいつらが5人だけって事はありえないわ! つまり、本当はもっと沢山で行ったのよ!」

「あ~っ! そういう事かいな!」

「あ~っ! 僕も分かりましたよ!」


 いつもの『あ~っ!』が木霊する。

 残念ながら、ローズとクリスさんはまだのようだ。


「なので、ここでパーティーを組みなおすわ! ボス部屋の前にはサモンの話だと、また扉があるのよね?」

「せや! そこについたらコールや! 同じダンジョン内やから可能なはずや!」

「そうですね~。そこで扉を同時に開ければ!」


 うん、俺と全く同じ考えだ。


「あ~っ! やっと分かりましたわ!」

「え? あたいはまだっす…。」


 俺はローズに耳打ちする。


(ボスは強い奴になら、誰にでもくれてやるって言ってたんだよ。俺の考えでは、最終的にはPVPだ。)

「あ~っ! そういう事っすか! 納得っす!」


 ようやく最後の『あ~っ』が出た。

 でも、耳元で大声出さないで~。


「じゃあ、早速パーティーの組分けですわね。シンさん、どうしましょう?」


 クリスさんはそう言うが、もう決まっているようだ。

 俺の両腕には、既にローズとカオリンが絡みついている。


「まあ、それでええやろ。シンさんチームは魔法とレベルに難ありやけど、シンさんおるから丁度ええハンデやな。ほな、ボス部屋では遠慮のう行かせて貰うで~。」

「サモン! 覚悟するっす!」

「サモン! 今までの恨みを晴らさせて貰うわ! クリスさんとタカピさんには悪いけど。」

「これは面白そうですね~。僕も遠慮なく行かせて貰いますよ。」

「あらあら。では、わたくしも本気を出しますわね。」

「あっちゃ~。なんか、わいだけ真っ先に凹られそうな気がするわ~。」


 俺達は早速パーティーを編成しなおし、左右の扉に分かれる。

 途中遭遇する敵は、全く同じのようなので、どっちが楽とかも無いようだ。

 なので、俺とカオリン、ローズ組は、右の扉に手を添える。


「「せ~のっ!」」


 俺とサモンの掛け声で、同時に扉が開かれる。

 やはり、両方開くと。


「じゃあ、次の扉でまた。」

「了解や。多分、わいらのほうが早いやろけどな。」


 まあ、多分そうなるだろうな。

 向こうには、範囲魔法の使い手が二人も居るし。

 でも、こっちもそれなりにバランスは取れている。それ程待たせる事もないだろう。



 扉をくぐると、情報通りだ。

 目の前に、髪を耳元で束ねた、古風な出で立ちの武人が6人立ちはだかる!


 武器は、剣と槍。レベルは全員80台か。ちなみに、こいつらには状態異常は効かないそうだ。

 なので、普段通りの正攻法だ!

 と言っても、ただの力押しなのだが。


「先ずはオールガードダウン! カオリン! ローズ! 頼む!」

「はいっす! アクシズ『ダブルアタック!』メガラッシュ!」

「任せて! 灰塵舞『ダブルアタック!』滅殺斬!」


 二人の身体が真っ赤に光り、剣と斧の攻撃が荒れ狂う!

 ふむ、カオリンもかなり成長したな。

 最初にデバフを使った事もあるだろうが、この二人の一撃で瞬殺だ!


「いい感じね! 久しぶりにシンの支援を受けた気がするわ。」

「あたいもっす! この調子でどんどん行くっす!」


 ふむ、前回の八岐大蛇クエストの時は、最終的に全員ソロだったしな。

 俺もなんか久しぶりの気分だ。ブルの時は俺も脇役だったし。


 俺達はローズを先頭にしてどんどん進む。


 途中、身長1m程の土偶そっくりな奴は、出会った瞬間に遠距離から範囲魔法を唱えてくるが、これも俺の『マジックキャンセル』でほぼ無効化できた。

 こいつらは、テンプレ通り防御は大した事無いので、アタッカー二人にとっては敵では無い。俺のバフ抜きで、あっという間に駆逐される。


 そんなこんなで、遂に扉が見えた!


 扉の前は、安全地帯になっていた。

 丁度いい。俺達はまず、HPとMPを、アイテムを使って全回復させる。


「ふむ、これは益々俺達の予想が当たっていると見ていいな。普通、これくらいの距離で安全地帯は設置されないし、増してや扉の中だ。」

「あ~、道理でっす! あたいらもサモンと、ここの安全地帯は何か不自然だとは言っていたっす。でも、ボス部屋の前だから特に疑いもしなかっす!」

「そうね。じゃあ、ここで作戦会議する?」

「うん。でも、先にサモンさん達とルールの打ち合わせをしよう。多分、どっちが勝っても大丈夫だと思うが、明らかな八百長はダメだろう。かと言って、回復アイテムの使用とかまで認めると、勝負にならないな。何しろ向こうにはタカピさんが居る。」


 すると、見計らったようにサモンからコールが入った。

 ふむ、ほぼ同時についたか、向こうは既に打ち合わせは完了したと見ていいだろう。


「シンさん、もう着いたか?」

「うん、今着いたよ。じゃあ、ルールを打ち合わせしよう。まず、消費系アイテムの使用は禁止だな。後、お互い一人でも飛ばされたらギブアップだ。」

「あ~、それは当然や。仲間同士で消費し合ったって無意味や。それに、あんま長引いてもしんどいしな。」

「なら、いっそのこと、回復系魔法も禁止でどうだろう? 勿論、ドレイン系統もだ。これなら早く勝負が着く。」

「う~ん、微妙やな~。そっちにはダメージキャンセルが出来るシンさんがおるからな~。」

「でも、攻撃力もMPも明らかにそっちが上だぞ? それに、俺に至っては、いいのを2~3発喰らったら強制退場だ。」


 そう、俺もレベルは上がって既に78にもなったが、HPはまだ1万弱だ。今までの感じからすると、サモンやクリスさんの攻撃をまとに喰らうと、3~4000くらい持って行かれるだろう。もっとも、1万無いのは俺だけで、カオリンもタカピさんも既に1万はある。


 そして、これでほぼ対等ではなかろうか?

 お互い、連続詠唱できるので、MPの総量で敵う訳が無い。回復ありだと、攻撃スキルに回すMPは、回復魔法の消費MPに変換される。なのでまともにやり合えば、どちらが先にMPが切れるかは明白だ。

もっとも、俺がダメージキャンセルを全て成功させる前提ならば、こちらの勝ちは揺るがないが、恐らく、そうはさせて貰えないだろう。必ずタイミングをずらして来るはずだ。


「せやな、回復ありにしたら、こっちが有利すぎるわな。シンさんも回復は使えるけど、MPの差が段違いや。回復量もこっちがでかいしな。よっしゃ、それでええやろ。ほんで、そっちはもうええか?」

「いや、これから作戦会議だ。う~ん、5分くらいでいいかな? 終わったらまた連絡するよ。」

「了解や。ほな。」



 俺がコールを切り、下を見ると、二人が俺の顔を覗き込んでいた。

 思わずぐっと来てしまう。

 イカン! ここでいちゃついている場合では無い!


「お、おう、ルールの打ち合わせは済んだよ。お互い、アイテムの使用と、回復系魔法の禁止だ。そして、誰か一人でもレッドゾーン、強制転移せられたら勝負ありだ。それで、どうしよう?」

「な、なら、この前のサモン潰しの作戦を真似る? あたしは構わないわよ。」

「わ、私も構わないです! 所詮VRです! リアルじゃ無いです!」

「いや、流石にそれは俺が嫌だよ。まともな作戦で行こう。」

「やっぱりそうよね! シンならそうよね!」

「私も言ってみただけです! でも、嬉しいです!」


 二人がまた顔を寄せて来る。

 だから、今はそんな事をする気は無い!


 俺達は、簡単に打ち合わせをする。

 作戦はかなりオーソドックス。殆どひねりが無いと言っていい。

 カオリン曰く、逆に相手の読みを外せるのではないかとの事だ。


 俺は、再びサモンにコールする。


「準備完了だ! そっちは?」

「こっちもや! ほな行くで~。」

「「せ~のっ!」」


 俺は扉を開いた!



 扉をくぐると、景色が変わった!


「げ! これ、完全に闘技場だよな?」

「そうっすね! あたいの時は、天井のかなり高い、巨大なボス部屋だったっす!」

「じゃあ、これはコンプの条件を満たしたって事になるわね!」

「どうやらそのようだ。それで上を見ろ!」


 闘技場の中心、その上空には、光り輝く天女のような人が漂っている。

 そして、正面の奥には、サモン達が居た!

 俺達同様、面食らって、全員きょろきょろしている。


「よく、此処まで来られましたね。私は神。天照大神あまてらすおおみかみと申します。そしてあなた達は、この、真・八咫の鏡が欲しいのでしょう。ええ、差し上げます。ですが、私も弱い者に与えるつもりはありません。お互い闘い合い、その強さを証明しなさい。勝ち残った方を認めましょう。」


 うん、正に読み通り!

 作戦会議が無駄にならずに済んでほっとした。

 もし、これで何も無ければ大恥を掻いたところだ。


 神様は更に続ける。


「それではルールを申請しなさい。私が見届けてあげましょう。」


 お、ここは闘技場と違って、口頭で設定できるようだ。

 向こうから声がする。


「ほな、遠慮のう。お互い、一人でも欠けたら、欠けたほうの負けや!」

「承知しました。他にはありますか?」


 今度は俺が答える。


「消費アイテムの使用禁止と、回復系スキルの使用禁止だ。」


 すぐに神様が反応する。


「承知しました。まだ何かありますか?」

「それだけや!」

「以上だ!」

「では、1分後に開始です。お互い、死力を尽くしなさい!」

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