第45話 シンの告白

        シンの告白



 ローズと二人きりになったので、俺は、優柔不断な自分に引導を渡す。


「ローズ、い、いや、生田泉希さん。は、話がある。」

「は、はい! な、何ですか?」


 俺が彼女の本名を呼んだことで、彼女もかなり緊張したようだ。


「そ、その、真剣に考えた結果、君とお付き合いさせて欲しい。但し……」

「う、嬉しいです! じゃ、じゃあ、私が恋人でいいんですね!」


 ローズは、俺の手を握り、顔を寄せてくる。


「い、いや、最後まで聞いて欲しい! 但し、もし俺がリアルに戻れたら、リアルの君と直接会いたい。それを認めてくれないなら、無理だ!」


 そう、この世界だけで終わる恋なら、絶対に後悔しそうだ。

 彼女は、自分の姿を俺には見せたくないかもしれないが、これだけは譲れない。

 その後、どういう関係になるかはまだ分からないが、もし、彼女の病気が治らなくても、俺が最後まで添い遂げてあげたい。


 ローズの顔が俺から遠ざかる。


「そ、それは…。」


 やっぱり無理か?

 俺がうな垂れようとすると、彼女は続ける。


「わ、私も会いたいです! シンさんに、八咫新さんに会いたいです! でも、そうしたら、多分、私はカオリンとの約束を守れません。」


 あ~、そう言えば何かカオリンと言っていたな。

 確か、俺がリアルに戻れるまでって奴か。


「ふむ、俺をこの世界に束縛するなって奴か。だが、それに何の意味があるんだ? 俺はリアルで泉希に会いに行く。この世界は関係無い。そうだ、リアルでデートしよう。君が動けないなら、俺が泉希の車椅子を押すだけだ。一緒に映画を見に行こう。何処か旅行に行くのもいいな。とにかく、俺は君のリアルの笑顔が見たい!」


 ローズが俺に抱きついて来る!

 俺ももう躊躇わない。思いっきり抱きしめ返す。


「いいんですね?! 本当にいいんですね?! 私は今やミイラみたいな身体です! こうやって、抱き合う事もできません! それでもいいんですね?!」

「ああ、構わない。それに、泉希の病気も、まだ治る可能性があるんだろ?」

「う、嬉しいです! はい、それもシンさん次第と聞いています! シンさんが八咫さんに戻れれば、可能性があると!」


 ローズは涙を流しながら、再び顔を寄せる。

 唇が触れた。



「だから、顔を舐めないで~! この世界にディープキスは無い!」

「ひ、酷いです! 恋人同士ならいいじゃないですか! そ、そんな露骨に拒まなくても!」


 今回は、セクハラにならなかっただけマシと見るべきか?


「ところで、ローズ、分かってる? 俺は常にNGMLから監視されていると言う事を。」


 彼女は慌てて俺から離れる。顔が真っ赤だ。

 俺も、さっきの事は、考えてみたら赤面ものの筈なのだが、俺のプライバシーは既に無い物として割り切れているし、特に恥ずかしい事をしたとも思わない。


しかし……、俺、ちょろいな。



 俺がTVをつけようとすると、カオリンが部屋に入って来た。

 ふむ、6時か。いつもよりかなり早いな。あ、バイトか。


「シン、ローズちゃん、今晩は。今日の授業は1時間だけね。終わったら、ご飯食べてからまた来るわ。あ、そうだ。素戔嗚チャンネルに、何か凄いのが出ていたわよ。」

「ん? 何かあったのか?」

「処罰者の告知なんだけど、レベルマイナス50。ステータスが、HPとMP以外、オールマイナス250からのスタートですって。」


 ぶはっ!

 まあ、誰が喰らったかは言わないでも分かる。


「な、何すか? そのありえない処罰? 最強の武器装備しても、マイナスじゃないっすか?」

「だな。タカピさんの、不動王の槍以外の武器じゃ、全てマイナスだろうな。ってか、それこそ再登録しないと、どうしようもないのでは?」

「そうよね~。理由は、管理側の人間の尊厳を著しく貶めたのと、後は恐喝らしいわね。」


 なるほど。あいつの言い方だと、新庄が不正に手を貸す人間だと思われるからか。

 俺の印象では、彼は無神経だが悪い人間では無い。むしろ、かなり真面目な人だ。


「四段重ね確定っすかね?」


 ローズも、当然誰が喰らったかは理解しているな。


「いや、流石にそれするくらいなら、このゲーム自体を諦めるだろ。しかし、管理側も酷なことするな~。いっそアク禁にしてやれよ。」

「そうっすね~。まあ、余程頭に来たんすね。」

「え? ローズちゃん、何、その四段重ねって?」


 ローズが先程の話をカオリンにする。

 カオリンは、最初、怒り、次に大笑いし、最後に呆れ果てていた。


「まあ、あのお馬鹿はどうでもいいわ。授業を始めるわよ。」

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