第42話 処罰

         処罰



 俺は『奥州』に飛び、辺りを見回し、案内バニーを探す。

 お、いた。

 俺は早速聞く。


「すみません、俺がこの街でできるイベント、増えていませんか?」

「残念ながら、シンさんができるイベントはこの街では増えていません。」


 ふむ、これは面倒だな。

 まあ、バットマンさんが言った通り、虱潰しに他の街を回ればいいだけなのだが。


「じゃあ、俺がこの街のイベントをコンプリートした結果、新しくできるイベントは何処にありますか?」


 聞き方を変えてみただけなのだが、どうだろう?


「はい、『江戸』に一件ありますね。詳しくはあちらで聞いてください。」


 ふむ、思った通りだ。しかし、あまりにも簡単すぎて少し拍子抜けだが。


 俺は『江戸』に飛び、早速聞いてみる。


「それでしたら、『多摩川の合戦』ですね。推奨レベルは40となっておりま~す。門を出て、ひたすら西に進んで下さい。5分程で、資格を持った人にしか見えない扉がありま~す。」

「なるほど。ありがとう。」

「頑張って下さいね~♡」


 ふむ、ここも推奨レベルは低いと。確かにサモンじゃないが、これではやる気が出ないな。俺も、さっきのイベントで荒稼ぎできたので、現在のレベルは65になっている。しかし、おそらくここをクリアしたら、また新たなイベントが出るはずだ。

 覗いてみたいところだが、流石に独りでは無理だろう。ここはまた皆でやるとして、他のも確認しておこう。

 そう思って、転移装置に行こうとすると、見覚えのある、ピンク色の長い耳がそこから出て来た。


「お、シンさんもかいな。わいは奥州から南下してきて、ここで5か所目や。で、どうやった?」


 ふむ、サモンは律儀にローラー作戦をしていたと。


「うん、ここでビンゴだ。それでここの推奨レベルも低い。40だ。これじゃやる気が出ないのも当然だな。」

「やっぱりかいな。ほなどうする? わいと二人でやってまうか?」

「う~ん、確かにサモンさんとなら可能だろうけど、それすると、皆に後で怒られそうだ。先に他のも確かめよう。」

「せやな。ほな、尾張に行こか。」


 サモンと一緒に『尾張』に飛ぶと、ここでは『信州』に行けと言われる。


「なんや、そういうやり方があったんかいな。真面目に全部回っていたわいがアホみたいやんか。」

「まあ、知っている奴じゃなきゃ、ああいう聞き方はできないから、ちょっとした意地悪設定だな。」

「ほんまやな~。ところでシンさん、聞いたで。また絡まれたらしいやんか。」

「ぶっ! 流石はサモンさん、地獄耳だな。あれは一応片付いたよ。多分、首謀者は元フォーリーブス。今回は、処罰はま逃れないだろうな~。って言っても、あいつにもう失う物は無いか。」

「うわ~、何があったんかは知らんけど、どういう片付け方したんかは想像つくわ。まあ、詳しい話は後で聞かせて貰うわ。せやけど、ほんま気ぃつけてや~。」

「うん、ありがとう。今はサモンさんが居るから大丈夫だろう。」


 まさに最強の護衛だな。


 信州に着くと、ここでも次のイベントの推奨レベルは30だった。


「そういや、サモンさんが、本能寺をコンプして出たイベントは『上杉討伐』だったよね。ここでは『真田衆説得』だ。俺はてっきり信長繋がりで、イベントが合流するかと思ったが、違うようだ。」

「う~ん、わいもそない思うて、一応確認の為だけやってんけど、結構深いな。まあ、信長は人気イベントやし、力入れてんのやろ。」


 なるほど。そういう理由なら納得だ。

 俺達は、信州を後にし、ギルドルームに戻る。



「なんや、あいつも懲りへんな~。せやけど、通報して即って、あいつもどんだけ運が悪いねん。っちゅうか、絡んだ相手が悪かっただけか。」

「う~ん、そういう言い方をされると少しな~。ただ、あいつ、やたら俺にIDを登録し直せって言ってきたから、自分と同じ苦しみをってところだろう。でも、あいつにはいい薬だ。」

「どうやろ? またID登録し直して、同じことするんとちゃうか?」


 ふむ、そう考えると奴は恵まれているな。俺にID再登録なんて真似は出来ない。

 ID抹消=死なのは間違いない。

 しかし、IDさえ登録しなおせば、過去にやった事は全てチャラってどうだろう?

 確かに、レベル1からってハンデはでかいが、装備が無事なら、それ程苦労せずに元に戻せるだろう。


 ふむ、これは考える必要があるかもな。

 この世界、ヴァーチャルなので、かなり現実の世界に近い。

 その証拠が俺だ。幽霊のくせに、恋愛まで可能だ。


「うん、可能性は高いな。そうだ、サモンさん、少し提案してみないか? ああいう連中の、再犯防止の為の具体案だ。こういうのは、プレーヤー目線の方が絶対にいいと思う。」

「お、それはおもろそうやな。シンさんを通せば、採用されるっちゅうことか?」

「いや、流石に運営が認めなければ通らないだろう。それに、俺じゃなくても、もっと便利な奴が居る。」

「そやな。ちょっと待ってや。考えてみるわ。」

「呼んだかしら~?」


 ぶは!

 目の前に、三頭身の、何とも珍妙な美少女が現れた!


「姉貴、今晩は。いや、お早うか? 相変わらずだな。」

「あ、姐さん、おおきに。」

「アラちゃん、サモンちゃん、おはよ~。それで提案って?」

「おい、ここでアラちゃんは勘弁してくれ。それで、サモンさん、どうだろう?」

「あら、そうだったわね。ちなみに、彼等の処分はもう済んだわ。一人を除いてはかなり萎縮してしまって、経緯を全部話してくれたわ。で、素直じゃない首謀者のIDは、ラッキークローバー。元フォーリーブスね。BAの認証番号が一緒だからすぐに分かったわね。」

「やはりか。それで処分って?」


 姉貴の話によると、他の三人はフォーリーブスに、俺を脅せばアイテムを出すはずだからとそそのかされたそうだ。

 俺に直接アイテムを強要した二人は、完全に恐喝なのでレベル30ダウン。二人共、それでレベル1になってしまったそうだ。

 後の一人は迷惑行為だけなので、厳重注意。

その3人はかなり反省していたようなので、もうしないだろうというのが新庄の意見だそうだ。

 俺も新庄のやり方は想像がつく。大方、俺と同じで、ログアウト機能を封印してから、例の部屋にでも監禁したのだろう。奴らがリアルで粗相しなかったか少し心配だ。


 それで、首謀者のフォーリーブスだが、奴自身は迷惑行為だけで、特に恐喝はしていない。二人の恐喝は明らかに奴の入れ知恵なのだが、奴は全力ででっちあげだと否定。寧ろ、自分は反対したのだが、彼等に脅され仕方無かったと言い張る始末だ。連中の会話ログを突き付けるが、いくらでも偽造できるとこれも否定。

 流石の新庄も、この往生際の悪さには音を上げて、注意だけして解放したそうだ。レベルもまだ10台だったので、下げても効果は無いとの判断だ。

 もっとも、新庄からすれば、さっさと済ませて寝たかったのだろう。


 あいつ、俺のせいで、かなり睡眠時間を削られているな。


「う~ん、新庄さんには悪い事をしたな~。姉貴からも俺が礼を言っていたと伝えて欲しい。」

「あれも新庄ちゃんの仕事よ。アラちゃんが気にする必要は無いわ。彼も自発的にやっていたし。でもあの様子だと、あの子、懲りて無いわね~。それでサモンちゃん、何かいい案ある?」


 ん? いつの間にか、姉貴の呼び方が、新庄もサモンも『ちゃん』付けになっている。

 これはどう取るべきか? しかし、カオリンとローズにもちゃん付けだしな~。

 まあ、深く考えるのは止めよう。

 そのうち、タカピさんや松井にもそう呼び出さないか、かなり心配ではあるが。『アラちゃん』に関しては、もう無理だろう。


「せやな~。元々低レベルの奴のレベル下げてもあんま意味ないわな。アイテム没収っちゅうても、課金アイテムとかには微妙なとこやろ。そもそも低レベルの奴は、ええアイテムも持ってへん。アク禁にしたいとこやろけど、やったこと自体は、そこまでの事でも無いわな。」


 俺達は一様に腕を組んで考え込む。


「せや! 姐さん! 過去に処罰を受けた奴に限り、再登録しても、前のIDが、現IDの下に表示されるっちゅうのはどうやろ? IPかBAの認証番号と連動させたら、可能なんちゃうか?」

「ふむ、犯罪歴ではないが、IDが並んで表示されている奴は、逆に悪い事しましたって、自ら証明することになる。サモンさん、それはいいかも! うん、期間も1カ月程度なら問題ないだろう。」

「ふんふん、確かに良さそうね。早速上げてみるわ。サモンちゃん、ありがとうね。他にも何かあったら、遠慮なく言ってね~。」

「ほ、ほな姐さん! 是非、露出度の高いアバターの導入を! 水着なんかどないですか?」


 むむ、サモンの奴、やはり出したか!

 ここは俺も応援したいところだ。


「その意見は既に沢山出ているらしいわ~。私はどうでもいいけど、提案するなら、ちゃんと上を説得できる理由を捻り出して欲しいところね~。」

「わ、分かりました! ちゃんと企画書にして提出しますわ!」

「うん、俺も協力する! 姉貴! それで、どうだろう?」

「それならいいんじゃない? あんた達が無能で無い事を祈るだけね~。でも、これはこれで面白そうね。」


 姉貴は最後に謎の言葉を残して消えた。

 サモンも、早速企画書を作ると落ちた。

 ふむ、俺も企画書までは行かないが、素案だけでも考えておこう。



「は~い、ローズちゃん、80点! まあまあね。」

「はいっす! 次も頑張るっす!」


 現在は7時前。俺とローズは姉貴の授業の前に、復習がてらの小テストを受けさせられ、その結果発表だ。


「アラちゃん、95点! 流石は機械化人ね! 英単語は完璧ね!」

「う~ん、その呼び方は勘弁して欲しいのだが。確かに記憶に関してはPCに保存されているようなので、忘れようがないのかもな。」

「と、言う事は、減点された5点の理由はなんすかね?」

「ローズ、お前、鬼だな。」

「そうね~。アラちゃん、私の授業を聞いていないとはいい度胸ね~。」


 ぬお?

 頭が痛い!


 機械化人の俺でも、どうやらまだ痛覚は残っているようだ。

 しかも姉貴の奴、いいデータが取れたと、にやついてやがるし。

 NGMLに好き勝手させないと潜り込んで来た奴だが、俺には、姉貴が好き勝手しているようにしか見えんぞ?


 姉貴の授業が終わり、二人が落ちる。

 ローズは、今日は遅くなるかもと言い残したが、理由は想像がつく。NGMLに転院するからだろう。

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