第6話
ずっと昔、捕まった人魚がいたらしい。
その人魚は狭く濁った水槽に閉じ込められ見世物にされた。
人間の世界は大騒ぎになったらしいが、人魚が衰弱して死んでしまうと、人間たちはその人魚は人魚ではなく捕まえた人間が金儲けのために作った偽物だとした。
そしてあっという間に人魚のことを忘れた。
愚かな人間は目で見たことさえも信じないのだ。
人間の声がさっきより近くなる。
イルカのような1蹴りで琉海の姿はあっと言う間に海の深い青に吸い込まれていった。
姉たちには内緒だが、琉海は前に1度人間に見つかったことがある。
この時も食べ物を盗もうと釣り場付近をうろうろ泳いでいて海に捨てられた釣り糸が体に絡まってしまったのだ。
釣糸についた針はチクチクと琉海の柔らかい肌を刺した。
岩場の陰で糸の絡まりを取るのに夢中だった琉海は人間の気配が近づいてくるのが分からなかった。
気づいた時は岩の上から黒い影が琉海を見下ろしていた。
琉海は慌てて水の中に逃げようとしたが、糸が岩に引っかかってしまい身動きが取れなくなってしまった。
もがけばもがくほど体が動かなくなる。
影が近づいてくるのが分かった。
琉海はパニックになった。
滅多打ちの半殺し。
そんな言葉が琉海の頭をよぎった。
影が琉海に触れた瞬間、ふわりと体が軽くなり、絡まった糸から解放された琉海はそのまま水の中へと飛び込んだ。
何が起こったのか分からなかったがとにかく琉海は無我夢中で海の奥深くへと逃げた。
なにもともあれ滅多打ちの半殺しに合わずにすんだのだ。
冷たい海の底に泳ぎ着いて一息つくと、人間に触れられた部分が火照っていた。
人間の手は驚くほど熱かった。
一瞬触れられただけでもこうなのに、もっとたくさん触られたら熱くて死んでしまうのではないかと思った。
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