第2話 トイレの太郎


episode2 トイレの太郎


小学校の六年生のクラス。

ひとりの転校生が受け持ちのMs田中の隣に立っていた。

先生とでは身長差がガチ凄い。

田中先生が女教師にしては上背がありすぎるからだ。

バレーの選手だったからだ。

転校生の背が低かったからだ。

その差30センチはありそうだ。


「一宮和成くんです」

都会的な気の弱そうな顔。

「センセイ、二宮和也のまちがいじゃないですか」

「ほんとよくにてるね」

「わぁ!! 嵐の二宮和也のそっくりさんだ」


この女子生徒のなにげない発言に。

男子生徒の目が緑色になった。

男子生徒はジェラシーに狂った。


「おい、トイレまで顔をかせ!!」

放課後。

ヤンキーの定番の文句。

和成に声かけたのは佐々木剛。

小学生なのに中学の柔道部の生徒もかなわない。

身長165。

体重70キロ。

スリムな和成は逆らえない。

和成はぶるぶるふるえていた。

なにもされないのに真っ青になっていた。

剛をとめるものはいない。


「一宮!! すこしくらいメンがいいとおもってのぼせるなよ」

「ゆるしてください。ぼくはなにもしていません」

涙声で和成は訴えた。

「なんだ。はりあいのないヤツだな」

バンとほほを張られた。

和成はトイレのドアにふっとばされた。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

ドアにたたきつけられた反動だった。

和成はまえにつんのめった。

コンクリートの床に顔をおしつけて、倒れた。

鼻血だろうか。

唇でも切ったのだろうか。

口の中からあふれでたのだろうか。

その全部かもしれない。

顔が血だらけだった。

真っ赤な血で顔がクシャクシャになってしまった。


「顔をあらってこい。このままじゃ目立ち過ぎるからな」


剛にいわれて和成はトイレにはいった。

手洗い場でみんなに見られるのがいやだったのか。

みんなに見られながら顔の血をぬぐうのが、いやだったのか。


トイレの前にある水槽の上部に突き出ている ? マークのようなパイプから水でる。

水槽いっぱいになると止まる。

旧式のベンザだった。

ところが、いつになっても水流の音がやまない。

和成もでてこない。


「あいつ、女みたいにお化粧してるのかよ」


にやっと笑いながら剛がトイレに入った。

すさまじい、剛の絶叫があがった。

仲間があわてて、トイレのドアをあけると――。

ベンザのなかは赤い血。

血はベンザから床にまでながれでていた。

剛の足が穴に吸いこまれている。


「足がぬけない。ぬけない。吸いこまれる」


真っ赤な血はさらに水流をました。

ベンザのなかで渦をまいている。

床から外になかれだした。

剛の足はその水流にのみこまれていく。

剛は気をうしなった。


救急車で上都賀病院にはこばれた。

剛は翌日もういちど絶叫する運命がまっていた。


見舞いの花束に「トイレの太郎」と書かれたネイム札がついていたのだ。

剛は失心した。

そのままぼんやりとしていた。


退院した剛はそのご、和成にはちかよらなかった。

女の子たちは、和成を太郎、太郎と呼んでいる。


その理由を知っているものはいない。

剛はよほど怖いことがあったのだろう。

剛は太郎をさけつづけている。

これでオワリ――では気になるひとに。

一つだけヒントをあげるね。

剛は見たのだとおもうんだ。

和成が太郎に化粧した顔を。

だって……化粧の〈化〉はお化けの〈化〉だよ。

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