エピローグ
――西暦2035年9月第1週 月曜日 午後19時半頃 神奈川県 横浜市 とある駅前広場にて――
しかしながら、今日は小雨が降っており、
「ふう。やれやれだぜ。9月に入っても残暑厳しく、客足がかなり衰えているってのに、さらに小雨ときたもんだぜ。今日は仕込みの3分の2も売れて無いんだぜ……」
いつもなら、この時間帯は、
午後も8時に近づくと、完全に
「おじさんー。もう、今日は店じまいなのかなー? あたし、タコ焼きを1つ欲しかったんだけどー?」
おじ……さん? ちょっと、待つんだぜ。俺はまだ27歳だぜ? まだおじさんと言われるような年齢じゃねえんだぜっ! と
「ああ、今日は客足が鈍くてな……。いつもより30分は早い店じまいにする予定なんだぜ」
「ふーーーん。それはもったいないなー? せっかく、わたしも予定を変えて、いつも降りる駅よりふたつも前で降りたっていうのにー」
ん? なにを言ってるんだぜ、この女性客は。わざわざ、俺様のタコ焼きを食べたいがために、自分ちの最寄り駅よりも2つも前で降りたってのかよ。物好きも居たものだぜ。しかし、俺様の腕前もようやく認められてきたってことか? わざわざ、こんな小雨がぱらつく日に俺様のタコ焼き目当てに、来てくれたのはありがたい話だぜ、と
「あんた、良いお客様だぜ。今日は店じまいにするところだったが、あんたのために新しいタコ焼きを作ってやるんだぜ。ちょっと、待ってな? タコ焼き台に火を入れるからな?」
「おっと、1人前だけで良かったのか? どうせなら、追加でもう1人前、買っていかないのか?」
「うーーーん。そうだねー。ついでだから、お兄ちゃんの分も買っておこうかなー? じゃあ、追加でもう1人前、お願いするねー?」
はいよっ! と
「おじさん。タコ焼き屋を始めて、結構、長いのー?」
女性客が
「おじさんってのはやめてほしいんだぜ……。こう見えても27歳なんだぜ? 俺様は高校を卒業してすぐに、親父のタコ焼き屋を継いだんだぜ。だから、そろそろ10年目ってところだぜ。そろそろベテランと呼ばれても良い頃合いなんだぜ?」
「ふーーーん。じゃあ、味にはおおいに期待して良いってことだねー? わたし、こう見えても、舌が肥えてるんだよねー。もし、わたしが思っている以上に美味しかったら、職場の皆にも宣伝しておくねー?」
「ありがたい話だぜ。夏場はどうしても屋台関連の売り上げが落ちてしまうんだぜ。あんたところの会社の前でタコ焼きを売るのも悪くないかもだぜ……」
捨てる神あれば拾う神あり。
「よっし、そろそろ出来上がりなんだぜ。紅ショウガとマヨネーズはどれくらいが好みなんだぜ?」
「あたしは紅ショウガは少々かなー。マヨネーズはたっぷりだと嬉しいー!」
女性客の元気な受け答えに、
実際、ただ一人の客である女性も
「はいよっ。お待たせしたんだぜっ! 1パック500円な? 2パックだからちょうど1000円だぜ。もちろん、消費税込みだから、気にしなくて良いんだぜ?」
「おおー。これは良心的な値段なんだよー。家に帰ってからが楽しみだー。おじさん、ありがとねー? はい、これ、代金ねー?」
女性客は小さな女性用の財布から千円札を取り出して、
女性客はタコ焼き2パックが入ったナイロン袋を大事そうに抱えながら、満面の笑顔を浮かべる。そして、
しかし、そんな
「ケージ! 食べ終わった後の感想はノブオン内で言うからねー? 覚悟しておきなさいよー? てか、わたしがネーネだってことに少しは気づきなさいよー!?」
女性客はそう大声を上げたあと、スタスタと小走りで駅の構内に消えていくのであった。
「たはーーーっ! これは1本、取られたんだぜっ。もう少し早く気づいてりゃ、タコ焼き作りよりも、ネーネさんを口説くことに専念できたってのによっ! 俺様、大魚を逃がすとはまさにこのことなんだぜっ!」
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